233話
一方その頃、凛の領地のやや東では
「やっぱトンカツは美味ぇな…。この世界は油じゃ無くて牛や豚とかの脂しか無いからな、転生してから揚げ物を食べるのは初めてだぜ。ソースが染み込んでしっとりしたカツサンドも良いが、(はぐはぐ)…やっぱりサクサクの衣のトンカツに白飯が1番だな!」
「僕は凛様のおかげで揚げ物を食べる機会があるんだけどさ、それでも領地に来て久しぶりに食べた時は調子に乗って食べ過ぎたんだ。そのせいか、次の日に気分が悪くなったって覚えがあったなぁ…。」
「(食事量が普通な)ステラにしては珍しいな。まぁ日本人なら揚げ物が好きな奴は多いだろうし、この世界じゃサラダ油とかを見る事は無いもんな。」
「うん、それもあるんだけどさ…。食べたのがオークキングのトンカツとか、コカトリスが進化したパイロリスクって言う魔物の唐揚げだったんだよね。」
「なっ…!成程、それなら食べ過ぎるのも分かるわ。ここだと、今俺が食べてるオークのトンカツとかテーブルに並んでるコカトリスの唐揚げがせいぜいだもんな。」
「「………。(はぐはぐ)」」
「天ぷらってあまり屋敷じゃ出ないからか、なんだか目新しい感じがするっすね。」
アレックスが今日の正午からオープンした揚げ物屋にて、オークのトンカツを一口食べた後にしみじみとそう言った。
そしてトンカツを一切れ箸で掴みながら言った後、口に運んでご飯を一気に掻き込んだ後にそう言う。
ステラが少し恥ずかしそうにしながらそう言うと、アレックスは軽く驚いた様にして言う。
しかしステラがそう言った事でアレックスは驚きの余り叫びそうになるが、それをどうにか飲み込んだ後に頷いてそう言った。
アレックスとステラのテーブルでは他に、唐揚げや竜田揚げ、コロッケ、メンチカツ、フィッシュ&チップス、海老等の天ぷらやかき揚げが並んでいた。
アレックス達と同じテーブルに座っているパトリシアやアイシャは揚げ物をひたすら食べており、藍火はそう言ってマイペースに天ぷらを食べている。
リルアースでは油そのものの概念が無いらしく、オリーブや胡麻等も製油する事が無いままで食べられている。
ステラは貧乏な為揚げ物どころでは無かったが、揚げ物の中でも特にトンカツが好きなアレックスは悔しがっていた。
しかし製油するにもやり方が分からなかった事や手作業で絞った結果失敗した為、アレックスも今迄揚げ物を食べれずにいた。
アレックスは凛の領地に来て喫茶店等の食事処を回ったが、商店にあるポテトチップス以外に揚げ物が1つも無い事に気付く。
「凛、揚げ物…更に言えばトンカツは出さないのか?」
「出さない訳じゃ無いのですが…。アレックス皇子殿下は、この世界は油が普及していない事をご存知ですか?」
「ああ、知ってるぜ。俺は昔、何とか油が使えないかを試した事があるんだが、上手く出来ずに失敗したんだよ。けどここに来て一通り見る内に、ひょっとしたらあるんじゃないかって思ってな…。」
「そうなんですね。んー、本当なら後2、3ヵ月経った頃に揚げ物屋を開けようと思っていたんですよ。その頃なら世界中に領地で出してる料理が浸透してるだろうから、簡単な焼くと煮るしか調理法が無いこの世界でも揚げ物が通用するかもと思いまして。…ですが、これが丁度良い機会なのかも知れませんね。これから準備を始めていきますので、もう数日の間だけ待ってて貰って良いですか?」
「分かったぜ!凛、ありがとうな!」
アレックスは複雑と悲しいが混ざった様な表情で凛へ尋ねると、凛は答えに詰まった後にアレックスへ質問する。
アレックスは頷いた後に寂しそうな表情で答えると、凛はそう言って考える素振りを見せる。
凛はステラやアレックス以外にも同郷の者がいるかも知れないと思い、考えを切り替えた様だ。
その後凛はアレックスにそう伝えると、アレックスは途端に元気な表情となりそう言った。
凛はアレックスの要望を受け、それから暫くの間(奴隷から解放して屋敷組となった)料理人に屋敷のキッチンで揚げ物の勉強をさせていた。
そして料理人が一人前となり、今日から揚げ物屋をオープンする事となった。
同じく領地にあるパン屋ではカツサンドやカレーパンが発売される事になり、食パン程では無いが人気商品となっている。
「あー、美味かった!それじゃ口直しに、喫茶店でアイスでも食べようぜ。」
「「アイス(ですの)?」」
「ああ。アイスってのは、冷たいお菓子とでも考えて貰えば良い。(…しかし、凛のやつ今日から色んな物を解禁してるみたいだな。俺が言うのもあれだが大丈夫なのか?このポーショングミなんて、まるでピュ○グミみたいなもんじゃねぇか。)」
凛はベレー帽や揚げ物の他にも、領地にある喫茶店ではバニラ・ミルク・チョコ味のアイスを、商店ではコーラ風味のポーショングミとサイダー風味のマジックポーショングミの販売を開始した。
揚げ物屋は正午からだが喫茶店は通常の開店時間から食べられる為、食後にアイスを頼む者達が続出している。
ポーショングミやマジックポーショングミも既に買い物客の大半がコーラやサイダーを経験している為か、店員から市販されているポーションやマジックポーションと性能が同じとの説明を受けて購入する者が多い様だ。
しかもアイテム袋に収納出来る上に嵩張らず、何回も飲まずに一口で食べ終わるとの事で人気商品となっている。
揚げ物屋を出た後に満足げな表情をしたアレックスがそう言うと、パトリシアとアイシャはそう言って首を傾げる。
アレックスは2人に説明した後、歩きながらアイテム袋から黒っぽい見た目をしたポーショングミを手に取り、右手ごと目の前に持ってきて内心そう思うのだった。