228話
「…貴方は?」
「ん?自分っすか?自分は藍火って言うっす。」
「先程朔夜様が龍になったと仰っていましたが…、もしかして貴方もドラゴンだったりするんですの?」
「そうっすね、自分もドラゴンっす。まぁでも自分より朔夜の方が全然強いっすけどね…。けど、いつか自分の方が強くなって朔夜を見返してやるっす!」
藍火はアイシャの直ぐ近くで先程そう言った為、知らない人が来たと感じたアイシャは顔を見上げ、少し虚ろな視線を藍火へ向けて尋ねる。
藍火が名乗るとアイシャは再び藍火へ尋ね、藍火は頷いた後に項垂れたかと思えば右手を胸元に持って来て握り拳を作り、鼻息を荒くしながらそう叫ぶ。
「藍火よ、其方が妾に勝とうなどと100年早いのじゃー。それよりも、2人共こちらへ来て一緒にケーキでも食べようぞ。」
「朔夜、五月蝿いっすよ!あ、言うだけ言って引っ込みやがったっす。全く…、はい。朔夜は貴方も一緒にって言ってたっす。何があったかは分からないっすが、自分達と一緒にケーキでも食べて元気出すっすよ。」
「…!朔夜様が…。ええ、分かりましたわ!藍火様、ありがとうございます。」
「…?良く分からないっすが、どう致しましてっす…?」
「ふふっ、貴方ってば面白い方なんですのね。(…! そうか。朔夜様が仰っていたのはこう言う事でしたのね。)…藍火様、宜しければ私とお友達になって頂けませんか?」
「勿論良いっすよー!それと、自分の事は藍火と呼び捨てにして貰って大丈夫っす。」
「分かりましたわ。藍火も私の事をアイシャとお呼び下さいまし。」
「分かったっす!」
そこへ、藍火から5メートル程離れたスイーツ店の入口から、にやにやとした表情の朔夜が上半身だけをひょこっと出す。
朔夜は右手を口元にやりながらぷぷっと笑った後にそう言うと、藍火は朔夜を右手で指差しながら声を荒げて叫ぶ。
朔夜はそんな藍火の様子を見て、からからと笑って中へと引っ込んだ。
藍火は先程迄の膨れっ面から一転し、笑顔でアイシャへ向けて右手を差し出しながら話し掛ける。
アイシャは藍火の手を取って立ち上がった後にお礼を言うと、藍火は首を傾げながら答える。
アイシャはころころと表情が変わる藍火が面白かったのか、左手を口元にやりながら笑う。
アイシャは右手を胸の上に当ててそう考え、少し俯いてもじもじとしながら藍火へ尋ねる。
藍火は笑顔のままで答え、その後2人は軽く話をして友人となった。
「(やれやれ、世話の掛かる子供達じゃ。とは言え、今回は妾もアイシャも藍火に助けられる形となった様じゃの。)」
「朔夜ー、いつまでもそこにいないでこっちへおいでー。」
「分かったのじゃー。」
朔夜はスイーツ店の入口横の壁に凭れ掛かる様にして、左目を閉じで軽く腕を組みながら内心そう思っていた。
朔夜は既に椅子に座っている凛に声を掛けられ、美羽達やアレックス達も朔夜の方を見ていた。
朔夜はアイシャはもう大丈夫だろうと判断したのか、ふふっと笑いながら凛達の方へと向かう。
因みに、ライアンは前日マリアに捕まってデートを強要されて以来、更に本気で逃げ回る様になった。
昨日は無事に逃げ果せた様だが、今日はマリアが一枚上手だった様だ。
ライアンは再び捕まり、凛達の近くにて椅子に拘束されて座らされていたりする。
そしてライアンは口の中にケーキを突っ込まれており、顔中がクリーム塗れとなって気絶していた。
凛達はその様子を見て苦笑いを浮かべ、そこへ藍火とアイシャ、それと簡単にジークフリートに領地の事を案内していたエルマ達が合流して皆でスイーツを食べる事となった。
ジークフリートはショートケーキが気に入ったらしく、カットされた物を幾つか食べていた。
凛は結局一昨日の夜に屋敷内でナース服と女医セットを着せられ、本人はげんなりとしていたにも関わらず皆から好評を得ていた。
そして美羽のナースと雫の女医をお披露目したその日の内に毎日やって欲しいとの要望が(主に男性から)多数上げられた、との報告を昨日の朝ガイウスとゴーガンが来た時に告げられる。
凛はガイウスからの報告を受けて引き攣るが、雫はその様子を見てにやりと笑っていた。
「ん。そろそろ午後1時になる。美羽、火燐、翡翠、楓。ナース服に着替えてサルーンへ向かおう。」
「はーい♪」
「やっぱオレも行くのか…。しかもオレ迄ミニスカートのナース服なんだよな…。スカートなんて履きたくないってのに…。」
「はーい!」
「行きましょうか…。」
「…それじゃ僕はお見送りに行ってくるかな。」
そして後少しで午後1時になろうとした所で、雫はキリッとした表情でそう言った。
美羽と翡翠は元気良く答えるが火燐は嫌そうな表情でそう言い、楓はにこにことしながら答えてそれぞれ席を立った。
どうやら火燐はミニの薄いピンク、翡翠はライトグリーンのミニ、楓はライトブラウンのミニのナース服を昨日の訓練後に雫から渡されていた様だ。
火燐だけは元気が無かったが、他の4人は楽しそうに昨日の午後にサルーンの運動場横で治療を行っていた。
そして凛は少し遅れてそう言って席を離れ、美羽達の後ろへ付いて行く。
「雫。頼むから、着替えさせる目的で僕を呼んだりしないでね?」
「ん。善処はする。」
「いや、そこは断言する所でしょ!?頼むよ本当にー…。」
「ふふ、冗談。それじゃ行ってくる。」
「…行ってらっしゃい。」
スイーツ店の外に出た凛は困った表情で雫へ頼むが、雫は再びキリッとした表情でそう答える。
凛は雫の発言で驚いた表情でそう言った後、項垂れて言った事で美羽達にクスクスと笑われてしまう。
火燐は凛が弄られた事で、少しだけだが元気になった様だ。
雫は微笑んでそう答えた後に5人は屋敷へと向かい、凛は複雑な表情ではあるが手を振って見送るのだった。