217話 53日目
それから2日後の53日目 午前8時頃
「凛ー!今日は何するのー?」
「そうだねー。今日はどうしようか?」
「菫は今日も元気じゃのぅ。」
凛と朔夜と段蔵の3人、それと昨日の朝食時にジェノサイドマンティスへと進化した菫と共に、昨日は領地とエルフの里を往復してリアム達との親睦を深めていた。
凛達は現在朝食後の訓練が済んだ所で、今日もエルフの里へ向かおうとして歩き出した所だ。
菫は凛と手を繋ぎながら嬉しそうに話を始め、朔夜はその様子を見てコロコロと笑っていた。
凛の領地で宿を借りている者達は、昨日から(教わる側ではあるものの)リーリアとヤイナ以外で男女のエルフとダークエルフが来る様になった事、それと以前よりサルーンから来ていた者達やリアム達の希望もあって昨日の昼過ぎに領地の北側と南側の2ヵ所に酒場が出来た事を喜ぶ。
リアム達は早速酒場へと向かい、楽しそうに酒を飲んでいたと言う。
領地の酒場の店長は(凛がカリナに頼んで購入した)元奴隷達だ。
本人達からの希望もあってサルーンの冒険者ギルド内にある酒場で研修を受けた後、酒場の店長になった事で凛の加護を与えた。
そして酒場が完成した頃に、入口に近い死滅の森の中をぐるっと回ってのポータル設置を終えたとの事でラムダ帰って来た。
凛は早速ラムダ達に頼み、酒場に2体ずつサポートに回って貰う事にした。
美羽達は一昨日、昨日に続いて今日も午前11時頃迄死滅の森深層入口付近にて、森を回りながら魔物の討伐を行う予定となっている。
そして昨日からは決闘に向けての準備と言う事で、紅葉達がパーティーに加わる事になった。
「前に戦った時は時間が掛かると思ったから、今回も長時間の戦闘になると覚悟していたんだが…。思っていたよりも随分あっさりとジャガーノートって倒せるものなんだな…。」
「勿論暁君が強くなった事やブーストエナジーのおかげって言うのもあるけど、やっぱりマスターが昨日武器の改良をしてくれたのが大きいよねー!」
「そうだな。美羽様の言う通り、凛様が武器を改良して下さった事で苦労せずに(硬い筋肉で出来たジャガーノートを)倒せる様になった。とは言え、凛様に教えて頂いた技はこれからも磨いていくつもりだ。」
「さっき月夜ちゃんが素手でジャガーノートを倒してもんね。ボクもやってみようかな?」
『(いや、美羽[様]は止めた方が良いと思う[います]…。)』
昨日の昼頃に、ナビからタロスを構成している金属がオリハルコンだと言う解析結果が出た。
表面が少し黄土色に近い茶色の様に見えていたのは汚れていたからとの事。
ナビはオリハルコンを解析した事で少し成長し、(消費魔力は大きいが)オリハルコンの精製と神輝金級中位未満の魔物が復元出来る様になる。
凛は昨晩、美羽達と紅葉達、猛、それと最後に自身の武器を改良してそれぞれ渡す。
今迄の武器の内側にオリハルコンを混ぜ、外側にはミスリルとオリハルコンを混ぜた物をコーティングした様な感じとなる。
その為美羽達以外の武器は刀身部分が少し金色となっており、美羽達の武器も角度によってはほんの少しだけ金色に見える様になる。
暁は改良された大太刀に魔力を込めてジャガーノートへ袈裟斬りを行うと、体に食い込むだろうと思っていた大太刀がそのまま通り抜け、意図せずにジャガーノートを真っ二つにしてしまった。
暁は改良された大太刀を見てそう呟くと、後ろからやって来た美羽にそう声を掛けられる。
暁は頷きながら美羽に返事をした後、左手を見てぐっと握り拳を作る。
月夜は先程1番乗りでジャガーノート相手に素手で戦い、浸透勁を駆使して10分程で倒していた。
美羽が軽く考える素振りを見せながらそう言うと、火燐達や紅葉達は例えジャガーノートでも問答無用にぼっこぼこにして倒してしまうのだろうと想像し、心の中でそっと突っ込む。
因みに、先程も昨日と同様に紅葉とクロエは緑茶、暁はチョコレート、旭はオレンジ、月夜はレモンティー、小夜はミルクティー風味のブーストエナジーをそれぞれ飲んでいた。
そして紅葉達も美羽がネギ味のブーストエナジーを美味しそうに飲む様子を、少し引いて見ていたりする。
「行けっ!ケル、ベロ、スー!ドレドレ、前に進んでー!」
「「「ウォーーン!!」」」
「………!」
クロエはリーダー格のケルベロス3体に赤、青、緑の首輪を付けてそれぞれケル、ベロ、スーと名付け、ガルム2体には灰色と白の首輪を付けてガルとムルと名付けた。
そしてクロエはドレドレと名付けたドレッドノートの右肩に座り、右手の人差し指を真っ直ぐ前へ突き出して叫ぶ。
ケル達はアイアイサー!とでも言う感じで吠え、目標である2体のブレイドセンチピードへと向かって行き、ドレドレはのっしのっしと前へ進み始めた。
ブレイドセンチピードは魔銀中位の強さを持ち、全長15メートル程はある百足の魔物だ。
ブレイドセンチピードはアダマンタイトに近い位に硬い甲殻を持っており、刃状の脚や尻尾、それと顎による噛み付き攻撃をして来る。
しかし動きは其程速くないのもあってかケル達の動きに翻弄され、最期迄攻撃を当てる事が出来ないまま倒される事になる。
「クロエったら、ドレドレの肩で楽しそうに指示を出しているわね…。」
「クロエちゃん、ケルとかに乗ったりして遊んでる時があるんだよね。羨ましいなぁ…。」
「そう言えば、小夜は昊の所へよく行ってるんだったわね。」
「そうなの。私は昊が1番だと思ってるんだけど、昊にとってまだ足りていないみたい。私、未だに昊の背中に乗せて貰えてないんだぁ…。クロエちゃんばかりモフモフが増える一方だし、ケルやリズ達に乗って楽しそうにしてるのを見ると狡いなって思っちゃうんだよね…。」
「元は私達が倒した死体なんだけどね…。ライムはライムで別な所で取り込んでいるし…。」
「………♪」
月夜が少しだけ引いた感じで言うと、小夜はクロエの事を羨ましそうに見ながらそう言った。
月夜が小夜を見て言うと小夜は寂しそうに言う。
そして月夜はライムが雫の指示によって、別な所にいたブレイドセンチピードを暴食で取り込むのが終えた事も含め、何とも言えない表情で言う。
ブレイドセンチピードはライムに取り込まれる迄ひたすらもがいていたのだが、ライムに触れた部分から身動きが取れなくなっていく。
やがてライムがブレイドセンチピードを包み終えた後に元の大きさへ戻ると、まるで始めからそこにはブレイドセンチピードがいなかった様に何もいなくなっていた。
「よしよし。ライム、よくやった。」
「僕、これからも、沢山吸収する。そして、雫に、褒められる…♪」
その後、雫は自身の元へと戻って来たライムを労いながら撫で、ライムはそう言って気持ち良さそうにぷるぷると震えるのだった。