214話
「私の大事な部下を一方的に痛め付けた輩と言うのは貴様等か?…ほう、良い見た目をしているな。この亜人の女を置いて行けば、今回の事は不問にしてやらん事も無いぞ?」
紅葉達を一通り見た後に紅葉へ焦点を当て、中年男性はいやらしい笑みを浮かべながらそう言った。
男性は年の頃が50代後半位。
身長が175センチ程で太った体格をしており、少しだけ伸びた金髪をテッカテカのオールバックにしている。
そしてその男性の直ぐ後ろには40代後半と思われる、155センチ位の小太りの男性と180センチ位の痩せた男性がいた。
その彼らの後ろにいる兵士達を含め、一様にしていやらしい笑みを浮かべていた。
「…お断りします。」
「…何?」
「私達は貴方方がいらっしゃる前からここで訓練をしておりました。ですが貴方方は後から来たのにも関わらず、演習と言う名目で無理矢理この場所を占拠しようとしたり、私へ近付こうとしたではありませんか。そしてそれが叶わなかったからと、貴方様の兵士の1人が実力行使に出ました。それを私達は正当防衛にて対処したまでにございます。その一部始終を私の配下だけで無く、周りの方々も見ていらっしゃるのですよ?」
「ええい黙らんか!!私がそうだと言ったらそうなのだ!それとも何だ?貴様等はブンドール侯爵家を敵に回そうとでも言うのか?ん?」
「亜人は黙ってこちらの言う事を聞いていれば良いんだ!」
「そうだそうだ!」
紅葉は真っ直ぐ男性を見て断ると、男性はそう言って顔を歪める。
紅葉がそう説明すると、男性は激昂した後に分かってるよな?と言わんばかりの表情で紅葉へと尋ね、男性の後ろにいる取り巻きの様な2人の者達が紅葉達を煽る。
そして男性が先程紅葉へ向けて言ったからか、その後ろにいる兵士達は更にいやらしい笑みを浮かべていた。
「申し訳ありませんが、ここでは貴方の様に権力を振りかざす方はお断りさせて頂いております。」
「凛様…。」
「…何だ貴様は?」
「僕はこの子達の主です。門から中へ入る際に、今のサルーンについての説明があった筈ですよ?そして貴方方はそれを了承してサルーンへと入って来た。しかし実際は貴方方はそれを守らず、今もこうして周りの方々へ迷惑を掛けてらっしゃいます。ですので申し訳ありませんが、近い内にサルーンから出て行っては貰えないでしょうか?」
「貴様…!従者が従者なら主も主だな!若造の癖に、ブンドール侯爵家当主であるこの私に意見するとは良い度胸だ!!当然、覚悟は出来ているのだろうな!?私、ブンドール侯爵は貴様に決闘を申し込むぞ!!」
そこへ凛が歩きながらそう言うと、紅葉はそう言って安心した様な申し訳無い様な表情で凛の方を向き、男性は何だこいつ?と言いたそうな表情で凛へ尋ねる。
凛は毅然とした態度で説明をした後に男性へ尋ねるとブンドール侯爵は再び激昂し、凛の事を右手で指差しながらふーっふーっと息を荒くしてそう叫ぶ。
「アレックス皇子。何か流れで決闘ってなっちゃったんですけど、断った方が良いのでしょうか?」
「んー、そうだな。凛に迷惑掛けるのは嫌だし、俺の権力で断…いや待て。」
「…!(あれはアレックス第3皇子!?何故あのクソガキがこんな所にいるんだ!!)」
「凛。ちょっとこっちに来てくれ。ひそひそ(凛。どうせだからこの話受けてくれないか?奴には迷惑を掛けられている人達が大勢いるし、あいつが王国へ向けて小競り合いを仕掛けている筆頭なんだよ。いい加減帝国だけじゃ無く王国も迷惑してるだろうし、この機会に潰してしまうか。)」
「ひそひそ(潰す…って、皇子がそんな事言って良いんですか?)」
「ひそひそ(良いんだよ。自ら破滅に向かってくれているんだから、それに乗っかっただけの事さ。今回の事は責任は俺が持つし、あいつが治めている所を凛が代わりに治めてくれればこちらにはメリットしかねぇしな。それか凛が統治するのが面倒ならこっちでカバーするぜ。あいつがいるせいで苦しむ民が沢山いると思うと俺も嫌なんだ。)」
「ひそひそ(何だか上手く丸め込まれた気もしますが…、分かりました。フーリガンみたいな所があると思うと僕も嫌ですからね。)」
「ひそひそ(だろ?適当に痛め付けてあいつらを負かせてくれりゃ、後はこっちでやっとくぜ。)」
「…?(あいつ等、何をひそひそと話しているんだ?)」
凛は少し離れた所にいるアレックスへと向いて尋ねると、アレックスはそう言って考える素振りを見せる。
ブンドール侯爵はアレックスを見て驚くのを他所にアレックスは凛を手招きして自身の元へ呼び、2人でひそひそ話をし始める。
凛とアレックスのひそひそ話は暫く続き、ブンドール侯爵は軽く覗き込む様にして凛達を見ていた。
「分かりました。貴方との決闘を受けようと思います。」
「ほう…!この私と戦う、その度胸だけは認めてやろう。」
アレックスとのひそひそ話を終え、凛は元の場所に戻ってブンドール侯爵へそう伝える。
ブンドール侯爵はそう言ってニヤリと笑うのだった。