208話
「(貴方達が僕達に危害を加えないのであれば、僕達も貴方達に危害を与える事を致しません。ですので、頭を上げては貰えませんか?)」
「(…本当?貴方達、私達に痛い事しない?)」
「(ええ、勿論です。それと、話は変わるのですが。貴方達はお腹から牛乳…白い液体を出す事が出来るんですよね?)」
「(? ええ。落ち着いた状態の方が出る量は多いけど…それがどうかしたの?)」
「(僕達…特にあの子がなんですけど、その液体が欲しいんですよ。代わりと言っては何ですが、のんびり過ごせる様な場所を貴方達に提供したいと思ってます。)」
「(…! こんな物で良ければ幾らでも良いから持って行って。だから貴方の言う、のんびり出来る場所を私達へ教えて欲しい…!私達、仲間を置いて逃げたりするのは嫌だし、もう疲れたの…。)」
凛がアウズンブラへ優しく念話で話し掛けると、先程凛と話したアウズンブラはそう言ってゆっくりと頭を上げる。
凛は牛乳って言っても伝わらないと思い、別な言い方をしてアウズンブラへと尋ねる。
アウズンブラは自分達から出る物を目的とするなんて変わっているな、と思った様だ。
その後凛の出方を伺う様に話し、凛へと尋ねる。
凛は後ろにいる雫をちらりと見た後にそう言うと、アウズンブラは先程迄とは一転して凛の言葉に食い付く様にして軽く叫ぶ。
「(ここから僕達が住む所迄移動したいのですが、そこに住んでいるのは僕達と同じ位の大きさの人達なんですよ。ですのでこのままの状態で住んでる所へ向かうと、さっきのベヒーモスキングみたいなのがいきなり来た、みたいに思われて皆さんに驚かれると思います。ですので、貴方達には僕達の様な見た目へと変わって欲しいと思っているのですが…。)」
「(…それは嫌だ。やり方は良く分からないけど、それが必要ならやってくれて構わない。)」
「(ありがとうございます。かなり早く終わるけど痛いのと、少し時間は掛かるけど何の痛みも無いのとあるのですが、どちらにしますか?ここから少し離れた所にも同族の方々がいるみたいですね。そちらの同族の方々も一緒に連れて行きたいのであれば、僕は少し時間が掛かる方をお勧めします。)」
「(そう…。同じ向かうなら皆一緒の方が良い。それと、出来れば痛いのは嫌。)」
「(分かりました。それでは向かいながら始める事にしますね。)」
凛がそう尋ねると、アウズンブラは少し考える素振りを見せるが分からなかった為か凛に託す事にした様だ。
凛は暫くの間アウズンブラとのやり取りを行った事で、サーチにてアウズンブラの事が分かる様になった。
その為現在いる場所から東に少し進んだ所にも3頭のアウズンブラがいる事が分かり、目の前のアウズンブラへそう話す。
アウズンブラは仲間は多い方が良いと思ったのかそう言い、凛はそう言って人化スキルの入力を始め、皆を連れて移動を始める。
それから10分程の間、凛達は目的地へと向かいつつ(アウズンブラ達は臆病なのか、最後尾にいる美羽の前でずっとびくびくしていた)、襲って来る魔物を討伐して進んだ。
そして移動した先にいたアウズンブラにも凛が説得を行い、人化スキルを施す。
それから更に小一時間程経ち、アウズンブラ達全員は背丈や容姿こそ異なるものの、灰色がかった髪色をした女性達へと姿を変える。
凛達は一先ず、手分けして人間へと姿を変えたアウズンブラ達に白いワンピースを着せる事にした。
しかし背丈や容姿こそ異なるものの、皆一様にしてリーリアやヤイナ以上の爆乳の持ち主だった。
その為2回り大きいワンピースを着る事となり、胸元がキツくて袖が緩いと言う状態となる。
「…凛。あれ、もいで良い?」
「ダメです。ほら、雫がそんな事を言うからアウズンブラさん達が怯えちゃったじゃないか。美羽も、然り気無くアウズンブラさん達へにじり寄らない。」
「…はーい。」
その様子を、自身の胸に両手を当てた後に雫が据わった目をしながらアウズンブラを指差してそう言った為、アウズンブラ達はビクッと震えていた。
凛は雫の事をじと目で見ながらそう言い、別な方向からアウズンブラへにじり寄っていた美羽にそう言うと、美羽はビクッと動いた後に渋々凛の所へと戻る。
「えっと、先程僕と話をしていたのは…?」
「私。」
多少の苦労はあったもののどうにかアウズンブラ達にワンピースを着せた後、凛はアウズンブラ達を見回しながら尋ねると1人の女性が1歩前に出る。
その女性は年の頃が25歳位。
身長167センチ程で肩よりも少し上位の長さに迄髪を伸ばし、体と同じなのか灰色がかった髪色をしている。
それと臆病な性格にも関わらずと言うか、少しだけではあるがつり目の様だ。
「一先ず貴方を、今回集まったアウズンブラさん達の代表とさせて頂きますね。」
「私が?…分かった。」
「それでは僕達が住む所へと向かいましょうか。美羽、楓。ポータル小屋の設置は終わった?」
「バッチリだよ!」
「大丈夫だと思います…。」
「分かった。それじゃ一旦帰ろう。」
凛がそう言うと、女性は同族達の顔を見た後にそう答える。
凛はそう言って美羽達の方を向いて尋ねると、美羽はニコッと笑いながら右手の親指と人差し指で丸を作りながら答える。
凛はそう言って使い捨てのポータルを設置し、皆を連れて領地へと帰るのだった。