206話
「ひゃっほう!移動を始めたばかりだってのに美味そうな牛肉が沢山いるなんて、幸先良いじゃねぇか!…ん?一瞬だけなんか痺れたような…。まぁ良いか、今夜はステーキだな!!」
美羽達は移動を始めて直ぐに、体長10メートル程の大きさの牛の様な姿をした複数の魔物を見付ける。
その魔物は黒っぽい体に黒くて長い鬣を持ち、それと少しだけ長い首と額部分に赤い目を持った神輝金級下位のカトブレパスだった。
火燐はカトブレパスを見付けると嬉しそうにしてそう言い、カトブレパスの方へと走り出す。
1番手前にいたカトブレパスが額にある魔眼で火燐を石へ変えようとするが、火燐が魔眼の影響を受けたと同時に凛の加護によって無効化される。
火燐は僅かな間だけ立ち止まるが、そう言って再びカトブレパスへと向かって行く。
カトブレパスは毒の息も吐くのだが、それも踏まえて動きが遅かった。
火燐はそのまま1人で7体ものカトブレパスを倒し、ほくほく顔となる。
「わんちゃんが一杯ですね…。後でクロエちゃんに頼んで屋敷で飼いましょうか…。」
「さんせー!」
次に美羽達は2頭のガルムを筆頭としたヘルハウンドの群れと、時間差でやって来た3頭のケルベロスを筆頭としたオルトロスの群れに襲われる。
銅級のウルフが銀級のブラックウルフへと進化し、金級のバーゲストへと進化する。
バーゲストからは魔銀級のヘルハウンドと2つ頭のオルトロスへと進化出来、それらが進化したものが神輝金級中位よりも少し弱いガルムと3つ頭のケルベロスだ。
何れも全体的に黒っぽい体をしている。
ガルムは体長が8メートル程でヘルハウンドが4メートル程、ケルベロスは7メートル程でオルトロスは3メートル程となっている。
どうやらそれぞれのリーダーであるガルムとケルベロスは、割と近くにいるのにも関わらず仲が悪いらしい。
ガルム達はケルベロスを出し抜いて美羽達に挑むも敗れ、ケルベロス達はガルム達の相手をした事で美羽達が疲弊してると思い挑んだがこちらも直ぐに敗れてしまう。
戦闘後に昊やリズ達の仲間が増えると思ったのか、今度は楓がほくほく顔となってそう言う。
翡翠も楓に同意なのか、左手を挙げ嬉しそうにそう言った。
「あー!雫ちゃんに負けちゃったー!並列詠唱の事を忘れてたよ…。」
「…ぶい。」
その次はラードーンと呼ばれる、後ろ半分が蛇で前半分が10の頭が生えた姿をした神輝金級下位の強さを持つ茶色いドラゴンが2体現れた。
ラードーンは頭の数が多いと言う事で、5人の中で誰が早く全ての頭を無くすかを話し合った結果美羽と雫が挑む事に。
美羽は次元移動を使い、瞬時に片方のラードーンの元へと移動する。
美羽はそのままラードーンの端の頭を細切れにし、その後も頭を細切れにしては移動するを繰り返して10秒程で倒す。
それに対し雫は段蔵が進化した事で得た並列思考と並列詠唱を使い、中級氷魔法フローズンスピア10本へ同時に3秒程魔力を込めた物を発射する。
全てのフローズンスピアを操作して当てた結果、美羽よりも少しではあるが早く倒してしまった。
美羽は着地して直ぐにそう言って項垂れ、雫はVサインをして喜んだ。
「ふわぁー、大きいねぇー!」
「それに何か硬そうだな。」
「魔法にも強そう。」
「多分だけど、今日1番の強敵になりそうなんじゃないかな?」
「これは…倒すのに時間が掛かりそうですね…。」
それから1時間程討伐を進めて行くと、神輝金級の上位に近い中位の魔物であるタロス2体と遭遇する。
タロスは全身が青銅色をした20メートル程の大きなゴーレムで、美羽達の方へと歩いて来る。
美羽達はそれぞれそう言った後、タロスが右足をゆっくりと上げて美羽達の事を踏み潰そうとした事で戦いが始まる。
タロスは動きこそあまり早くないものの、物凄く硬く重い体から繰り出される攻撃をまともに喰らえば、如何に美羽達と言えども結構な被害を受ける。
ただし美羽達は早い速度や相手の動きを見るのが当たり前な生活を送っている為、タロスの攻撃を必要最低限で避けては反撃して攻撃を重ねて行く。
タロスとの交戦中に他の魔物からの襲撃を受けてはいたが、30分程でタロスを美羽と火燐がそれぞれ止めを刺す。
「やっぱり時間掛かっちゃったね。この魔物の金属って何なんだろ?色からしてミスリルでもアダマンタイトでも無いみたいだし…。ナビ様、解析をお願いしても良いかな?」
《畏まりました。こちらで調べておきます。》
「ありがとー!」
美羽がタロスの頬に当たる部分を撫でながらナビとのやり取りを行い、それが済むと手分けしてバラバラにしたタロスの回収を始める。
その後30分程討伐を行いながら森を進むと、アウズンブラと呼ばれる神輝金級の強さを持つ複数の大きな牛の魔物と遭遇する。
「今度も牛さんだね。さっきのと同じ感じかな?」
「…! 美羽。あの子を倒すのは少し待って欲しい。」
「? 雫ちゃん、どうかしたの?」
「あの子のお腹を良く見て。」
「あれは…牛さんのおっぱいの様に見える…のかな?」
「恐らく。美羽が今言ったみたいにもし本当にあの子から牛乳の様な物が出るとしたら、私達が食べるスイーツの味が格段に上がると思う。」
「「「「!!」」」」
「私があの子に接近して(牛乳を)飲んでみる。そして思った通りだった場合、凛を呼ぼうと思うの。」
「あー、確かに。ボクだけじゃあの大きさであの数の念話は、距離的に少しキツいかなー。」
「ん。皆はあの子達の攻撃をひたすら避け続けてて。私が攻撃しなかったら凛を呼んで仲間にすると考えて貰って良い。」
「「「「了解!」」」」
美羽はそう言って左の腰に差したライトブリンガーに手をやろうとすると、何かに気付いた雫が待ったをかける。
美羽は雫がいる左斜め後ろへと向いて雫に尋ね、雫は左手の人差し指をすっと前に突き出してそう言う。
美羽はんー?と言いながらそう言うと、頷きながら雫がそう言った事で美羽達4人は衝撃を受ける。
雫は美羽の前に立ってそう言うと、美羽は苦笑いを浮かべて右手の人差し指で頬をポリポリ掻きながらそう言った。
雫はそう言ってふわっと軽く浮いて前へと進み、美羽達もそう言って散開する。
「その後私が攻撃を掻い潜って飲んだ結果、非常に美味しい牛乳である事が分かった。あの子達を説得して領地へ連れて行く事が出来れば、牛乳を使った料理やスイーツの質が上がると思うの。」
《ゴーレムを構成している金属については、現在も解析中の為マスターへ報告を行う事が出来ませんでした。》
「成程ね。どのみちあの大きさだと普通のポータルでは潜る事は出来ないから、大きなポータルを設置するか人化スキルを施さないとだから僕を呼ぶ必要がある訳か。しかし5人共結構強くなったね。今の所、タロスを倒した美羽と火燐が頭一つ抜けてる感じみたいだ。」
「ん。タロスを倒した後、私達3人へ止めを譲ってくれている。けど、それでも少し足りないみたい…。」
雫は10分程で凛へ説明を終える。
雫は神輝金級の強さを持つアウズンブラの方を向いてそう言い、ナビも雫に続いて説明を行う。
タロスを倒した事で美羽は朔夜に大分近付き、火燐も猛を抜いて現在4番目の強さになった様だ。
その事が分かった凛は頷きながらそう言い、雫は少し俯いて答える。
凛は少しだけ落ち込んでいる雫の背中をぽんぽんと撫で、雫の前に立つ。
「アウズンブラの牛乳(?)を使った料理に僕も興味が湧いたよ。どうにか説得して来て貰わないとだね。」
凛はそう言ってふわっと体を浮かせ、4体いるアウズンブラの方へと進むのだった。