202話
「(モグモグ)…はぁ、お前等。予想はしていたが、俺達が借りている宿よりも美味い物を食べていたんだな…。」
「あはは…。ここの人達強い人ばかりだから、必然的に手に入る魔物も強くなるんだよね。」
「(とは言え、いくら美味くても朝から脂物はそんなに食えねぇんだけどな。)…んで、そんな希少な筈の魔物の肉達を朔夜達は遠慮無く(チラッ)…いや、お前等遠慮無さ過ぎるだろ!!こんな美味ぇ物、滅多に出ねぇだろうしもっと味わって食えよ!!」
『ん?』
アレックスはカプロスと呼ばれる猪肉の魔物のステーキを一口食べ、溜め息をついた後にそう言った。
カプロスは5メートル程の大きさの猪の魔物で、魔銀級の強さではあるもののオークキングよりも少しだけ弱い。
そしてオークキングは筋肉質な為か肉に赤身部分が多いのに対し、カプロスは反対に脂肪の部分が多くなっている為かオークキングよりも柔らかい肉となっている。
ステラは苦笑いの表情を浮かべてそう言うと、アレックスは内心そう思ってから朔夜達の方向をちらりと見る。
アレックスはいくら朔夜達でも、カプロスは貴重そうな肉だし朝から脂物はそこ迄食べれないだろうと思っていた。
しかしアレックスの予想に反して朔夜や火燐と言った、大食いの人達が朝から大量のステーキを食べていた事で叫んでしまい、朔夜達はいきなり叫んでどうしたの?と言いたそうな表情でアレックスを見ていた。
朔夜達はカプロスのステーキをにんにく醤油、和風、ポン酢、玉ねぎ、マスタード、(蜂蜜を加えて甘くした物を含めた)生姜、赤ワインで少し甘くした等のソースで思い思いに楽しんでいた様だ。
早朝訓練を終え、料理作りの後の朝食にアレックスを招く事にした。
いつもであれば銀級の素材を使った、少しだけ高級な朝食と言った感じなのだが…。
「先程の訓練で妾は腹が減ったのじゃ。昨晩みたいに何か美味い物は無いのかの?」
「昨晩みたい?凛、昨日は何を食べたんだ?」
凛達が主に銀級の素材を使った料理を作っていると、朔夜がひょいっとキッチンの前へとやって来てそう言った。
その様子を見ていたアレックスは椅子から立ち上がり、凛達のいる方向へと進みながら尋ねて来た。
「んー…。本当ならいくら同郷の人でも、領地に住んでいないアレックス皇子殿下に出す予定は無かったんですけどね…。昨晩はカプロスって言う、魔銀級の強さを持つ巨大な猪の魔物のステーキ等をお出ししたんですよ。」
「魔銀級のステーキだと!?…それは直ぐに用意出来るのか?後、皇子殿下は要らねぇって言ってるじゃねぇか。それと、普通に話してくれて良いんだぜ?」
「…それじゃアレックス以外に誰も関係者はいないし、取り敢えず今の間だけそうさせて貰おうかな。やろうと思えば直ぐに用意出来るよ。朔夜。アレックスも興味あるみたいだし、昨日のと同じ物でも良いかな?」
「構わぬのじゃ。肉は同じでも色んな味付けで楽しめたから飽きなかったしの。」
「分かった。それじゃ追加で用意するから椅子に座って待っててね。」
「「分かったぜ(のじゃ)!」」
凛は困った表情でそう言うとアレックスも叫んだ後、同様にして返す。
凛達は話し合い、朝食にカプロスのステーキが追加される事が決まる。
アレックスと朔夜は元気良く返事をして椅子へと座り、他の者達も朝から昨日と同じ物が食べれる事を喜んだ。
「くそっ、調子に乗って朝から食べ過ぎちまったぜ。こりゃ、パティみたいにとやかく言えそうにねぇな…。」
「あらアレク、私がどうかしたのしら?」
「パティか…、おはよう。」
「ええ、おはよう。起きたらアレクが宿にいなかったから、ここじゃないかと思って来てみたのよ。…アレク、何か疲れてないかしら?」
「(朝から脂物を食べ過ぎて気分が悪いなんて言えねぇな。)…何でもねぇよ。取り敢えず練習場へ向かおうと思ってたんだ。」
「あら、意外に元気なのね。マリアはどうする?」
「そうねぇん…、私も一緒に向かう事にするわぁ。王女殿下達が練習してる合間に私も練習すれば良いしねぇ。」
「んじゃ、決まりだな。」
アレックスは今食べないと勿体無いと思ったのか、カプロスのステーキを500グラム程食べてしまった。
その為か少し辛そうにして凛の屋敷を出て、運動場の方向へ歩いて移動していた。
(山盛りのステーキを平らげた朔夜達を含めた)凛達は朝食後に、訓練部屋へと向かって行った。
アレックスはステラに訓練部屋へ行かないかと誘われたが、今は気分じゃなかったのと1人で少しだけ動きたい気分だった為、散歩も兼ねて運動場へと向かうと伝える。
アレックスの呟きが聞こえたのか、いつの間にか前方にいたパトリシアにそう言われる。
アレックスは何でも無い様に挨拶をすると、パトリシアも挨拶を返す。
アレックスは内心そう思った後に目的を伝えると、パトリシアは少しだけ意外そうな表情でそう言った後に後ろにいるマリアへと尋ねる。
マリアがそう答えると、アレックスはそう言って3人で練習場へと向かって行った。
「…これで今日の訓練は終わりかな。美羽。大丈夫だとは思うけど、充分に気を付けてね?」
「勿論だよ!午後になったらマスター達と合流するね♪それじゃ火燐ちゃん達、(死滅の森の深層へ)行こう!」
「ああ!」
「ん。」
「ブーストエナジーも持ったし、準備完了だね!」
「それじゃ凛君、行って来ますね…。」
「(心配だなぁ…。)」
「凛は過保護じゃのぉ。」
凛がそう言って訓練が終わる事を伝えた後、心配そうな表情で美羽達5人を見てそう言った。
凛はこの後リーリアとヤイナと共に、死滅の森の南西地点にあるポータルへと移動してエルフ達が住む里へと向かう事になっている。
凛はあまり大人数で里へ押し掛けるのも悪いと思い、少人数で向かう事にした。
その為美羽達5人は付いて来ると思い昨晩声を掛けたのだが、美羽達は朔夜よりも強くなりたいからと言って死滅の森の深層へと向かう事を伝えられる。
凛は止めたのだが、無理はしないしブーストエナジーが効力を発揮する間だけと言う事を言われて渋々了承する事にした。
美羽達はそれぞれそう言った後に移動を始める。
凛は美羽達の後ろ姿を見ながら内心そう思い、朔夜はそんな凛を見てそう呟くのだった。