201話 51日目
51日目 午前4時半前
早朝訓練の訓練部屋内にて、朔夜と火燐はギィンと金属音を立てて少し距離を取る。
「良い!実に良いのじゃ!!やはりここは楽しいのう!」
「くそっ!朔夜の奴。凛に名付けられて強くなったからか、オレ達じゃ敵わなくなってやがる!オレのレーヴァテインを宵闇で往なすとか、使い熟すの早過ぎるだろ!!」
「ん。私のフローズンスピア・ディケイドも宵闇で簡単にぺしって弾かれた…。凹む…。」
「あたしのテンペストアローもだよー!朔夜ちゃん強過ぎるってー!!」
「困りましたね…。」
朔夜は右手に持った宵闇の先に物質変換・闇によって宵闇から50センチ程伸ばした闇の刃を生やし、火燐は両手でレーヴァテインを構えている。
朔夜は闇の刃を引っ込めて宵闇を開き、自身を扇ぎながらそう言ってカラカラと笑う。
火燐は離れた際に雫、翡翠、楓の元へと着地する。
火燐達は悔しそうな表情でそれぞれそう言い、その様子を他の者達は黙って観ていた。
同時刻
「美羽、今日はいつもより積極的だね。」
「強さで朔夜ちゃんに追い抜かされちゃったからね。それに火燐ちゃん達も頑張っているんだし、ボクも頑張らないとだ、よっ!」
「(朔夜が来てくれた事で皆のやる気に火が点いたみたいだね。皆も昨晩朔夜が言っていた、最強の一角って言葉に惹かれたのかな?)」
《(恐らく違うかと…。皆、貴方様の為に必死なんですよ。)》
「(ん?ナビ、何か言ったかな?)」
《いえ、特に何も。》
「(そう?しかし朔夜は自身を最強の1体だと言うだけあって、流石の一言だよね。)」
同じ訓練部屋の離れた所では、凛がいつもより3割増しで自身へと向かって来る様になった美羽と距離を取っていた。
朔夜が配下となった事で凛も少し成長し、2人は同程度の強さとなる。
しかし逆を言えば朔夜も凛と美羽と同様に、(元々配下になる前からだったが)亜空間である訓練部屋を破壊しかねない存在とも言える。
凛は亜空間を破壊されない様に、歓迎会が終わった後に訓練部屋へと向かって壁や地面等の補強作業を行った。
その甲斐があってか、いつもより激しい訓練でも部屋はびくともしなくなる。
凛は玄冬を構えながらにこっと笑って美羽へそう言うと、美羽はやる気に満ちた表情で答える。
そして言葉の最後で体勢を低く構えて飛び出し、右手に持ったライトブリンガーで凛へ斬り込んで行く。
凛は美羽の猛襲を楽しそうに受けながら、内心そんな事を考えていた。
ナビはそっと突っ込み、凛がナビへ尋ねるがナビは何でも無いと返す。
凛は内心そう思い、早朝訓練が始まった頃を思い出す。
昨晩の歓迎会で知った事なのだが、朔夜はどうやら死滅の森で最強と呼ばれる存在の1人なのだそうだ。
邪神龍となってからも魔物を倒し続けた結果、割と最近1体だけに挑まれる以外は100年程のんびりと暮らしていたとの事。
朔夜は神輝金級上位である邪神龍ティアマットへと進化した際に、物質変換・闇とは別に眷属召喚と魔素喰いと言うスキルを得たのだそうだ。
朔夜は眷属召喚でムシュマッヘ、ウシュムガル、ムシュフシュ、ウガルルム、ウリディンム、ウム・ダブルチュ、ラハム、ギルタブリル、クサリク、バシュム、クルールの11体の魔物を召喚出来るとの事。
「この者達が妾の眷属じゃ。」
早朝訓練が始まって直ぐに、訓練部屋で朔夜がそう言って眷属達を見せてくれた。
眷属達は様々な色や姿形をしていたが、何れの魔物も人より大きく神輝金級下位から中位の強さを持っていた。
「眷属と戦う訳では無いであろうし、見るだけならこれ位で良かろ。さて、次の魔素喰いじゃがの…。」
1分程で朔夜はそう言って眷属達を戻し、今度は魔素喰いを見せてくれる事になった。
すると朔夜の周りに黒い靄の様な物が発生し、黒い靄はやがて直径2メートル程の巨大な黒い手へと変化する。
「これが魔素喰いじゃ。これで妾達の住み処の周りの魔素を食べて魔物が近寄らなかったのもあるし、闇属性の弱点ともなるのじゃ。…む?そう言えば、ついこの間妾へと挑む者がおったな。どうやら妾と同じ闇の者の様じゃったし、魔素喰いでその者の魔素を食べて弱らせたら尻尾巻いて逃げおったの!」
朔夜はそう言って自身の頭上で巨大な黒い手を動かす。
その後黒い手を霧散させ、腰に手を当ててそう言いカラカラと笑っていた。
「………。」
「…とまぁ。いつもとは違うんだけど、本気で強くなりたいと思う人は朝食の前にもこうやって訓練を行っているんだ。僕の火炎や飆風の短剣は火燐さんのレーヴァテインや翡翠さんのフェイルノートが元になってるよ。流石に僕達と同じ武器は販売出来ないと思うんだけど、簡単な魔剣なら武具屋で販売出来る様に凛様に頼んでみようか?」
「…あ、ああ。宜しく、頼むわ…。」
「アレク、大丈夫?今日からアレクとパトリシア王女殿下の案内は、凛様じゃなくて僕達に代わるのが嫌とかかな?」
「…悪い。凛達があまりに人間離れした動きや攻撃をするもんだから、頭が追い付かなかったんだよ。つか、凛みたいに鞘を武器にするなんて考えた事も無かったぜ。」
「あはは、確かに。まぁでも、ここに来て良かったでしょ?」
「ああ、そうだな。凛達の強さを知っちまった今、凛達に挑むなんて奴は相当イカれてるって断言できるぜ。」
火燐達や凛達が訓練している様子を、アレックスは呆然として観ていた。
ステラは昨日の魔法の練習場にてアレックスから朔夜の武器について尋ねられたが、今日の早朝訓練を見た方が早いと答えて早朝訓練にアレックスを招いていた。
アレックスの横でステラが説明を行うもアレックスは生返事で返した為、ステラはアレックスの顔の前にずい、と近付いて尋ねる。
アレックスは少し申し訳無さそうにして言うと、ステラはころころと笑いながら言う。
アレックスは複雑な表情で答え、その後も凛達の事を見続けるのだった。