200話
「うむ!このスイーツなる甘い物も中々じゃの!」
「そうでしょー!」
「いや、何でパティがどや顔な上に普通に混じって食ってるんだよ…。お前さっき迄、少し辛そうにしてたじゃねぇか。」
「あら、アレク知らないの?女の子って、甘い物は別腹なのよ。」
「お前な…! 嘘だろ!?さっき迄出ていた腹が引っ込んでやがる!!」
「(モグモグ)アレク、そんなに私のお腹ばかり見ないで欲しいわ…。(モグモグ)」
「女って怖えぇ…!」
30分程の食休みが済んだ後、今度はスイーツ店へとやって来た。
朔夜がショートケーキを食べながら元気良くそう言うと、その隣でパフェに添えられた生クリームを口の周りに付けたパトリシアが何故かどや顔で言う。
その光景をアレックスは少し離れた所からじと目でパトリシアを見ながら言うと、パトリシアは何でも無い様に答える。
アレックスは何故その言葉を知っているのかを尋ねようとパトリシアの元へ向かうと、先程迄出ていたパトリシアのお腹が引っ込んでいる事に非常に驚いたのかそう叫んでしまう。
パトリシアは恥ずかしそうにしながらそう言うも、パフェを食べる事を止めなかった。
その様子を見たアレックスは、そう言ってパトリシアに戦慄していた。
因みに別腹の事はつい先程雫がパトリシア教えた言葉で、アレックスが戦慄した後に雫はプリンを食べながら凛にそっとVサインを送り、凛からは苦笑いを返されていた。
30分程経過した頃に(朝からライアンを探していたが諦めた)マリアが加わってやけ食いを始め、入店して1時間程で凛達は店を出た。
そのまま運動場へと向かい、凛は(列に並んでいる者達を含めた)参加者にヤイナとリーリアが早ければ明日か明後日から暫く留守にする事を伝えるとブーイングが起きる。
「一昨日来たばかりの私でさえ、ここは素晴らしい場所だと思う。場合によっては私達の仲間が何人か、ここへ来るかも知れないな。」
『…!』
しかし直ぐに真面目なヤイナがそう言った事でリーリアやヤイナと言った、エルフやダークエルフが増えると想像したのかブーイングがぴたりと止む。
その様子を凛達は複雑な表情で見ていた。
「凛よ。ここは何をする所なのじゃ?」
「ここは運動場と言って、簡単に言えば皆が強くなる為の場所って感じかな。」
「成程の。とは言え、妾達は皆が持っておる様な物は無いのじゃ。この体となってから、まだそんなに時間が経ってはおらぬからのぉ。」
朔夜は魔物を討伐する以外に集まって何かをすると言う経験が無かったからか、凛へと尋ねる。
(朔夜と普通に話す様になった)凛が説明すると、朔夜は豊かな胸を持ち上げる様にして少しだけ不満そうな表情で言う。
「さっきスイーツを食べている間に、取り敢えず朔夜の分だけ武器の用意をしておいたよ。はい、鉄扇の『宵闇』だよ。普段は腰の帯の部分に差しておくと出し入れしやすいかも。朔夜は闇属性が得意だろうし、宵闇を構えていれば扱い易くなる様になると思うよ。けど、試すのは今度にしてね?」
「ほう、これが妾の武器とやらか!…ふむ、気に入ったのじゃ。」
「(状況的に仕方ねぇ部分はあるが、皆さらっと流し過ぎじゃね?今、凛は闇属性を扱い易くって言ってたよな。後でステラに尋ねた方が良さそうだな…。)」
凛はそう言ってズボンのポケット(と見せ掛けて無限収納)から真っ黒な鉄扇を取り出し、朔夜へと渡す。
朔夜は宵闇をくるくる回したり、広げてみたり閉じて腰の帯に差す等する。
そして宵闇を広げて口元にやり、流し目をして艶やかな様子でそう言った。
凛は先程、マリアがスイーツ店へ来た頃にナビから朔夜の物質変換・闇の解析が終わったとの報告を受ける。
凛はその後解析結果を元に10分程でこっそり宵闇を用意し、運動場にて朔夜へ宵闇を渡した。
因みに朔夜が不満そうな表情の件で胸がたゆんと揺れた事で運動場にいる男性達の視線を一点に集め、アレックスもついうっかり朔夜の胸を見てしまう。
その事でパトリシアがアレックスをじと目で見たり、女性が男性へとビンタしたり殴る音が聞こえたりした。
その後アレックスは正座でパトリシアからの説教を受けながら、内心そんな事を考えていた。
その後パトリシアはアレックスへの説教を終え、朔夜の腰の帯に差さっている鉄扇を羨ましがる。
凛はパトリシアのドレスと同じピンク色をした普通の鉄扇を、ズボンのポケットから出して渡した。
「………。(じーっ)」
「「?」」
アレックスはパトリシアに渡した鉄扇も何らかの細工が施されてるのではと思ったのか、凛がパトリシアへ鉄扇を渡す様子をじっと見ていた為2人に不思議がられていた。
「パトリシア。お前、昔と変わって無けりゃ戦闘はからっきしだが魔法は使える筈だ。俺も付き合ってやるから練習場へ行って、食べた分を消費するぞ。」
「えー…。」
「えー、じゃねぇよ!ステラ。マリア。悪いが一緒に来てくれ。凛、ステラを借りていくぞ。」
「あ、はい分かりました。(仮にこの2人が付き合うってなったら、アレックス皇子殿下の方が大変な思いをしそうだね。)」
その後、パトリシアはアレックスからそう言われて不満顔になる。
アレックスはパトリシアに突っ込んだ後、そう言ってパトリシアの首根っこを掴んで引き摺って行った。
凛はその様子を見て返事しながらも、内心そう思っていた。
「…フローズンスピア!」
「…当たれ!フレイムスピア!だぁっ!くそっ、外したぜ!!」
「アレクは昔と変わらず魔法の扱いが上手くないみたいね。…ほらほら、私みたいにちゃんと狙わないとよ?」
「そのどや顔腹立つー!魔法でも俺の方が上だって事を教えてやるぜ!」
「ふふん、その勝負受けて立つわ!」
パトリシアは水属性の、アレックスは炎属性の中級魔法をそれぞれ5秒程時間を掛けて詠唱し、的へと向けて放っていた。
パトリシアのフローズンスピアは的に当たるが、アレックスは魔法がそこ迄得意ではないのかフレイムスピアが的の右へと逸れて悔しそうにする。
そして運動は全然駄目だが魔法はそこそこ使えるパトリシアが、運動神経は良いが魔法の扱いが苦手なアレックスを再度放ったフローズンスピアを的へ当ててどや顔で煽る。
アレックスは悔しそうな表情で言うと、パトリシアは早速貰った鉄扇を開いて口元へと持って行ってそう答える。
それからパトリシアとアレックスは水や炎の壁や人1人を吹き飛ばす小爆発魔法等を、互いに競い合う様にして的へ向けて放って行く。
その様子の2人を、ステラとマリアはニコニコしながら観ていた。
凛達は朔夜を連れて屋敷へと戻り、昨日のヤイナに引き続き朔夜達の歓迎会をする為の準備を始める。
凛は朔夜に先程渡した宵闇は人へ向けて使わない事と、この後出す予定の料理は何日かに1回しか出ない事を伝える。
朔夜は了承し、配下共々ダイニングにあるソファーで寛いでいた。
「凛様、帰ったぞ。…む?」
「む?凛の配下かえ?」
「…ほう。貴方はとても強い力をお持ちの様だな。」
「ふふ、其方もな。こうも妾の配下よりも強い者が多いと、これからが楽しみで仕方が無いのじゃ。」
「猛、どうしたんっすか…ひっ!」
「ただいまなのですー…ひうっ!」
そこへ森の散策から帰って来た猛が朔夜を見て、即座に自分よりも格上だと判断したからか狂戦士の血が騒いだ様だ。
猛は獰猛な笑みを浮かべてそう言うと、朔夜も口元に開いた鉄扇をやりながら嬉しそうに言う。
しかし同じく散策から帰って来た藍火や仕事から帰って来た梓を含むドラゴン達は、猛と違って朔夜の強さの重圧に中てられていた。
その為藍火達は朔夜が自分達とは格が違うと認識させられ、萎縮してしまう。
「朔夜は600年以上を過ごした、経験豊富な邪神龍みたいなんだ。最近訓練がマンネリ化してる部分もあったし、今の僕とそんなに変わらない強さの彼女から色々と学べる事があると思う。皆がそれを吸収して自分の物にすれば、色々な意味でもう一段階強くなれるよ。」
『(…!)』
「それじゃ、朔夜達の歓迎会を始めようか!」
凛は皆へ朔夜の紹介を行い、最後にそう説明すると皆は凛の説明に驚く。
そして凛はそう言って歓迎会を始め、この日を締め括るのだった。