198話
「どうじゃ?中々の物だと思うのじゃが。」
人間の姿となったティアマットは浮いたままその場でくるっと1回転し、満足げにふふんと言った後に腰に手を当ててそう言った。
人となったティアマットは年の頃が25歳位。
身長170センチ位で膝上位に迄真っ直ぐ伸ばした黒髪と、爬虫類の様な特徴を持った金色の瞳をしている。
「…凄いですね。殆ど人間にしか見えないです。」
「ふふん、そうであろ?大分昔にではあるが、先程迄の姿へ進化した時に得た物の1つに物質変換・闇とやらがあってな。妾程になれば、自身を物質として置き換えて姿形を変える事なぞ造作も無いのじゃ。」
「応用を効かせたって事ですね。その和服、似合っているのですがどうして真っ赤なんです?」
「これは和服と言うのかえ?先程触れた時に其方の知識を少しばかり拝借しての、体に流れる血の色を想像して用意してみたのじゃ。妾は昔、(身を守る意味もあったが)血気盛んであったからの。」
「成程…。貴方の様に、配下の方達も変化させる事は出来ますか?」
「無論。今ので少しばかり要領を得たのでな、そこ迄時間は掛からぬであろう。暫し待つのじゃ。」
凛は人間となったティアマットの足の爪先から頭の天辺迄を驚いた表情で見た後にそう言った。
ティアマットは満足げなままでそう言い、凛は納得した様にして頷く。
その後ティアマットへと尋ねるとティアマットは袖の部分をひらひらと動かしながら答える。
どうやらティアマットは凛の記憶から紅葉達の服の事を見て気に入ったのか、真っ赤な和服の様な物を体の一部として表面に用意した様だ。
再び凛が尋ねるとティアマットは頷いて答え、配下の者達を自分と同じ様に次々と黒い球体で覆った後に人間へと変えていく。
そして10分程でティアマットの13体の配下全員が色とりどりの和服に身を包んだ、黒や灰色の髪色をした人間の男女へと変わった。
「これで文句は無いであろ?世界樹への心配が無くなって安心したからかの、腹が減ったのじゃ。妾達はこの姿でも飛べる故、このまま凛が住む所へと向かおうぞ。早よう案内せい。」
「分かりました。」
ティアマットはふぅと溜め息をついた後、お腹が空いたのかお腹を擦りながらそう言う。
凛としても放置する事になってしまったアレックス達の事が気掛かりである為、ティアマットの言葉に頷いて領地へと進み始める。
「(ナビ。仮にこのティアマットへ名付けを行うとしたら、僕はどうなると思う?)」
《彼女は既に、美羽様にかなり近しい強さの魔素量をお持ちの様です。今迄の傾向からして邪神龍から先へ進化する事は無いかとは思われますが、それでも名付けによりマスターは気を失う可能性が非常に高いかと。場合によっては数日の間、目を覚まさない可能性もあります。》
「(やっぱりか…、猛の時も結構一杯一杯だったもんね。念の為にリンクの幅を広げるとか、無限収納内にある余った魔力を直ぐに出せる用意をする等の準備をして貰ってて良いかな?)」
《…畏まりました。》
「(ナビ、いつもごめんね?ナビがいてくれて助かるよ。)」
《いえ。万事私にお任せを。(マスターの期待に応えねば…)》
凛は領地へと向かいながらナビと話を行い、念の為ティアマットへの名付けの準備をする。
アレックスやその周りにいた者達は先程、凛達が空を飛んで行った事に驚いていた。
「あー吃驚した。まぁ凛だし、空を飛ぶ位の事は出来るわな。」
『(軽っ!?)』
そう言ってアレックスが割と直ぐに普通の精神状態へと戻った事で、周りの者達は内心アレックスへ盛大に突っ込む。
そしてアレックスも空を飛びたくなったのかそわそわし出した為、周りの者達はその様子を複雑な表情で見ていた。
「おっ、戻って来たな…って、随分沢山来たな。それも和服ばかりかよ。」
「ちょっと色々ありまして…。大分世界樹に近付きましたけど、違和感とかあります?」
「ほんの僅かではあるがの。しかし気にする程では無いのじゃ。」
「それは良かったです。アレックス皇子殿下。僕は一先ずこちらの女性を皇子殿下方が借りている宿へと案内しようかと思ってるのですが、皇子殿下と王女殿下はどうされます?」
「んー…なんだかんだでもう昼飯の時間だし、あの宿で出て来た料理は美味かったからな。パティ、俺達も一緒に行こうぜ。」
「そうね、今度は何が出て来るか楽しみだわ!」
暫くの間空中を飛んで領地へと戻って来た凛達は、アレックス達の近くへと降り立った。
エリオットは取り敢えず用が済んだからか、既に帰っていた様だ。
アレックスは火燐達4人を見るのが初めてではあったが、それ以上にティアマットの女性達が着ている和服へと意識を向ける。
アレックスは少しだけ困った表情でそう言うと、凛は苦笑いを浮かべて答える。
凛はそのまま女性へと尋ね、問題無いとの返事を受けて内心安堵する。
凛は女性達の案内がてら自分達も昼食を摂ろうと思い、アレックスへと尋ねる。
アレックスは昨晩出て来たオークとミノタウロスの肉の煮込みハンバーグや、今朝の訓練へ向かう前に出て来たオークのベーコンエッグの事を思い出す。
そしてアレックスはそう言った後、パトリシアへと促す様に言う。
パトリシアも同様だったのかニコニコしながら答え、一同は宿へと向かうのだった。