197話
「んー、出来れば貴方程の知性がある方と戦いたくないんですよね…。」
「(…はぁ。もうよい、興が削がれたわ。妾は600年以上は生きておるからの、これ位の知性があって当然であろ。…とは言えどうするのじゃ?其方は妾にこの先も我慢せよ、とでも申すのかの?)」
「600年…凄いですね。僕達の方が後から来たのに、前から住んでいる貴方に無理をしろなんて言う訳が無いですよ。ナビ、何か良い方法無いかな?」
《世界樹とマスターの目の前にいる龍の関係性を調べ、対策が無いかをお調べ致します。彼女に触れた状態で暫くお時間を頂いても宜しいでしょうか?》
「すみません。少し調べますので、暫くの間触れていても宜しいですか?」
「(妾は構わぬぞ。)」
「ありがとうございます、それでは失礼しますね。…ナビ、宜しく頼むね。」
《畏まりました。》
凛が苦笑いの表情を浮かべながら、右手の人差し指で頬を掻いてそう言うと漆黒の龍はガクッと崩れ落ちる。
そして溜め息をついた後にそう言ってから凛へと尋ね、凛は驚いた後にナビへ尋ねる。
ナビが答えて凛が漆黒の龍に尋ねて了承を貰い、(害意が無い事が分かっている)凛はゆっくりと漆黒の龍へと向かう。
凛は漆黒の龍の左前足の人差し指に当たる部分に触れ、ナビへそう言った。
凛はナビの解析が終わる迄待つのも勿体無いと思い、漆黒の龍と話を始める事にした。
漆黒の龍は神輝金級上位の強さを持ち、神龍である邪神龍ティアマットなのだそうだ。
ティアマットは死滅の森深部にて、配下である古龍の暗黒龍や深淵龍、頭が2つあり少し灰色がかった混沌龍達とのんびり過ごしていたとの事。
ティアマットの配下の龍達は現在、6割程が神輝金級下位で残り4割程が魔銀級上位の強さとなっている。
暗黒龍は上位龍の黒竜がそのまま進化したもので、混沌龍や珍しい個体である深淵龍は黒竜からの派生だ。
しかし混沌龍は白竜からも派生出来るからか、暗黒龍以上深淵龍未満の強さとなっている。
しかし数日前に遠く離れた(凛の領)地で、世界樹が出来た事が本能で分かった。
最初は行くのも面倒で気にしない様にしていたのだが日増しに苛々し、やがて我慢の限界となった為破壊しに向かっていたとの事。
因みにこのティアマットとは戦闘にならなくて済んだものの、実はかなり強かった。
凛は本気で少し時間掛けて倒せるが美羽だとギリギリ、ここにいない猛が空を飛べたとしても敗れ、火燐達は4人で戦って何とかと言う位だった。
美羽達5人はティアマットと対峙した際、最悪自分達を犠牲にしてでも凛を守らなければと決意していた。
凛は普通にティアマットと話をしているが、美羽達は戦わずに済んで良かったかも知れないと内心冷や汗をかく。
美羽達は後程集まって話し合い、もっと強くならなければと静かに決意する事になる。
《マスター、解析が完了致しました。世界樹の影響を無効化する障壁の様な物を施しますので、彼女とのリンクする許可を頂いても宜しいでしょうか?》
「お、解析が終わったんだね。世界樹の影響を無効化する様にしようと思います。貴方とリンクする許可を貰っても良いですか?」
「(リンク?よくは分からぬが、妾に害が無ければ構わぬぞ。)」
「ありがとうございます。ナビ、お願いね。」
《畏まりました。》
「(…む?世界樹に対する違和感が無くなったようじゃの。体に何か纏わり付いた感じはするが、今迄のに比べれば微々たるものじゃしかなり気が楽になったわ。其方らもやって貰うが良い。凛とやら、頼めるかの?)」
「分かりました。」
10分程話をした頃に、凛はナビから報告を受ける。
凛はティアマットへ尋ねて了承を貰い、1分程で見えない障壁の様な物を施す。
ティアマットは少し上機嫌となってそう言った後に、配下の方を向く。
ティアマットは続けてそう言い、凛から無効化の障壁の様な物を施して貰った。
「(凛よ。妾だけで無く、配下迄面倒を見させた様で済まなかったの。)」
「いえいえ。まさか世界樹が貴方達に影響を及ぼすなんて思いませんでしたし、貴方が話の分かる方で良かったです。この後はどうされます?」
「(そうじゃな…。やろうと思えば半日程で戻れるとは言え、折角ここ迄来たしの。このまま凛の住む所へ向かっても良いかえ?)」
「僕としては歓迎したいのですが、住んでる人達は確実に貴方の姿を見て混乱が起きると思うんですよね…。」
「(人とは不便じゃのぉ。…ふむ。要は、其方らと同じ様な姿になれば良いのじゃろ?少し待っておれ。)」
ティアマットは10メートル程先の上空で浮いている凛に向かい、満足そうにそう言った。
凛が尋ねると、ティアマットは少しの間目を閉じて考えて答える。
凛は嬉しい反面、領地がパニックになる事を想像して困った表情でそう言った。
ティアマットはそう言って、凛達を一通り見終わった後に集中し始める。
5分後
「…待たせたの。これなら問題無いであろ?」
ティアマットが集中し始めて直ぐに、黒い球体の様な物で自身を覆う。
そして少しずつ球体は小さくなり、やがて球体が消えて真っ赤な和服に身を包んで黒髪を伸ばし、目を閉じた状態の女性が現れる。
その女性はそう言って、爬虫類の特徴を持った金色の瞳を開けるのだった。