195話
アレックスとステラは朝食後の訓練を終えた後、揃って運動場にやって来ていた。
アレックスは先程の訓練の後半で見る事となった魔物同士の戦いで少し心が挫けそうになったものの、訓練の前半を見た事を思い出したのか自身も動きたくなった様だ。
しかし並んでいた者達が気を遣ってアレックスに手合わせする順番を譲ってくれた為、アレックスは並んでいる者達にお礼を伝え、それから10分程アーサーから稽古をつけて貰う事に。
10分後
アレックスが金級の腕前を持ってるのもあってか、訓練が終わった後にステラや周りで観ていた者達から拍手が起き、これにアレックスも満更ではない様子を見せる。
その後、アレックスとステラは休憩がてら、運動場の周りにあるベンチへと座った。
「…一国の皇子としてダメな発言だとは思うんだが、ここの奴らに帝国の軟弱な兵士共を鍛えて貰いたいぜ。特に篝…だったか。パッと見、同じ身体能力のまま分ける事が出来るみたいだし、是非とも欲しい人材だよな。」
「んー、でも篝さんは凛様一筋だし、スカウトするのは難しいと思うよ?」
「そうか…。(しかし妖狐族が化けるもんだな。強くなるとあんな真似が出来るなんてよ。こんなん予想すらしなかったぜ。帝国にも妖狐族はいるし、奴らに頑張って貰うとするか…。)」
そして今日から指南役に加わった篝が九尾を用いて分裂を行い、(自身を含め)近くの9ヵ所で指南をしている様子を見て、アレックスは満足そうな表情を浮かべてそう言った。
しかしそれに対し、ステラが不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げて言うと、アレックスは返事を行いつつそんな事を思っていた。
一方、凛はパトリシアを宿まで迎えに行った後、凛の屋敷から少し東側にある宝石店へと向かっていた。
本来なら凛達も、アレックスがいるであろう運動場へ向かう筈だった。
しかし宿から出てすぐに、パトリシアが女性を中心に宝石店へと向かうのを発見し、宝石店に興味を示した為行き先を変更する流れとなる。
宝石店は2階建ての建物で、1階はアクセサリーショップ、2階は貴金属や宝石を使ったジュエリーショップとなっている。
アクセサリーやジュエリーは凛が資源生成で出した物をナビが加工しており、その中の幾つかはリーリアやヤイナの情報を元にした、少し変わったデザインの物を展示してある。
「ジュエリーショップ…だったかしら。王都の装飾品店よりも種類だけじゃなく、質や技術も上なんて凄いわね!」
「ありがとうございます。これらの中には、領地に住んでるエルフからの情報を元にして作ったのも幾つかあるんですよ。」
「ここにはエルフがいるのね!それでたまに違うデザインがあると言う事か。けれど、アクセサリーを含めて良い物ばかり並んでいるし、どれか1つに絞るって言うのは難しいわ…。」
パトリシアは1階が見終わった後に2階へと向かい、こちらも一通り見終わった事でそう話していた。
凛が説明を行うと、パトリシアはそう言って悩み始めてしまう。
それからパトリシアは5分程悩んだ結果、ルビーを中心に装飾が施されたバレッタを購入する事に。
それからパトリシア達も目的を終えたとして運動場へと向かうのだが、運動場で指南役をしているヤイナの前には今日も長い行列が出来ており、例によって張り倒される等して気絶している男性の姿が何人かいる事が窺えた。
「初めて見るけどあれがダークエルフなのね。…そのダークエルフの所、凄く並んでるみたいだけど何故なのかしら?それに、列の横で何人か倒れてる様に見えるけれど?」
「あー…あの光景はいつもの事ですね。パトリシア王女殿下は気にしなくて大丈夫だと思います。」
「そう?ならそうするわ。アレクは…あっ、いたいた。…けど、あの娘と訓練してるのね。」
パトリシアはヤイナのスタイルや衣装に特に意識が向かなかったのか、不思議そうな様子で凛に尋ね、凛が苦笑いの表情を浮かべながら答える。
パトリシアはヤイナに関する話は終わったとばかりに運動場を見渡し、訓練しているアレックスを見付けるも、アレックスの相手をしているのがステラだった為か少し不機嫌となる。
「あー、くそっ!こっちは全力でやってるってのに、全然掠りもしねぇぜ!!」
「ふふっ、僕だって一応神輝金級だからねー。…ん?凛様達が来たみたいだね。アレク、僕達もあっちに向かおうか。」
「ん?…ああ、すまねぇな。」
「………。(じっ)」
アレックスはいくら攻撃を仕掛けてもステラに当てる事が出来なかったからか、自棄になった様子でそう話し、どかっと音を立てながら勢い良くその場に座った。
一方のステラはニコニコとしながらそう言うのだが、凛達の存在に気付いた様だ。
ステラは続けてそう言った後にアレックスへ右手を差し出した為、アレックスは返事をしてから右手でステラの手を繋いで立ち上がり、2人は並んで凛達の方へと向かう。
しかしパトリシアは、普通にアレックス達が手を繋いだ様子を見て、軽く嫉妬していたりする。
「それにしてもここは凄いよな。この世界の最先端って言っても良い位だぜ。今パティが着けてる髪止めも昨日までなかったって事は、ここへ来る前に買ったとかだろ?似合ってるじゃねぇか。」
「(アレク、気付いてくれてたんだ…!)ええ、ここにある宝石店で購入した物よ。この技術を是非王都にも伝えたい所よね。」
アレックスとパトリシアがベンチに座って話をし始めた為、凛と美羽、ステラはアレックス達の後ろで立ちながら話をしたり聞いたりしていた。
そしてアレックスがそう言うと、バレッタ越しとは言え褒められた事でパトリシアは少し恥ずかしくなった様だ。
パトリシアは頬を少し赤く染め、俯きながらそう話していた。
「帝都もだ。あの武具屋程の品揃えはとてもじゃねぇが真似出来ねぇ。特に、ミスリルなんて帝国にある鉱山でも僅かにしか出て来ないからな。帝国に分けて欲しい位だぜ。」
「え?王都が先でしょ?」
「は?帝都が先だろ。」
「(…成程。昨日初めて見た時も、こんな感じで口喧嘩が始まったって事か。)」
しかしアレックスがそう言った事が切欠で口喧嘩が始まってしまい、凛はやれやれと言った様子で内心そう思った後、美羽とステラの方を向いた。
これには美羽やステラも困った様子となるのだが、凛達はひとまずこのまま2人を見ると言う事に。
「凛は王都に来てくれるのよね!?」
「いや、帝都に来るんだろ!?」
「いや、観光でって意味も含めてどちらにも行きませんよ。お二方の案内が一通り終わったら、ここにいるエルフとダークエルフと一緒に、エルフの里へ遊びに行く予定ですしね。」
「「はぁーーーーっ!?」」
それから少しの間、パトリシアとアレックスは口喧嘩を行うのだが、2人共仲良く凛の方を向き、それぞれ叫ぶ様にして凛へ尋ねた。
しかし凛がそう答えた事で、やはりと言うか、2人仲良くそう叫んだのだった。