189話
凛はその後、念話でサムとサム以外に腕の立つ天狐、それと洪水龍、ドラゴニュートの男女をそれぞれ3人ずつ運動場へ呼んだ。
サムは昨日迄ウタル達元農民と共に亜空間で作物を育てていた。
そして既存のある程度育った作物とは別に、取り敢えず凛が用意した亜空間全ての種蒔きが一通り終わる。
これからは翠達がいてくれる事もあって、あまり作物を育てるのに人数を充てずに済む様になる。
それもあってサムや妖狐族の手が空いた所を(念話越しに)凛に声を掛けられた様だ。
少しして凛の元へと来たサム達やリーリア達の事を行列に並んでる人達へと紹介し、第1、第2運動場に並び直して貰った。
しかし男の悲しい性と言うか、ダークエルフと言う珍しい種族な上に美人でスタイルが良く、何より肌の露出の多い防具を身に付けているヤイナの所へと多くの男性が並ぶ様になってしまった。
しかしごく一部の者は行列の横で何故か倒れており、怒った女性が離れて行く様子が見れる。
その様子に凛と美羽、それとサム達天狐は苦笑いを浮かべ、美醜や羞恥に鈍いヤイナやアーサー達、流達は不思議そうな表情となる。
その頃領地内にある喫茶店の片方では
「お待たせしたわ。こちらマーマレードジャム付きのトーストとオレンジジュース、それとチョコレートパフェよ。それじゃ、ゆっくりしていって頂戴。」
「はっ、はい!ありがとうございます!」
ゴスロリ姿の棗が、そう言って男性客に出来上がった料理やデザートをテーブルに並べる。
客はお姫様の様な雰囲気を纏う棗に恐縮してしまったのか、固まったままで返事をしてしまう。
「お待たせ致しました。こちらフレンチトーストと、カフェラテでございます。」
「そしてこちらがホットサンドと、ココアでございます。」
「「ごゆっくりどうぞ。」」
「「あ、ありがとうございます…!」」
燕尾服に身を包んだ樹と柊が2人組の女性客へと料理を運ぶ。
樹達がそう言うと、女性客2人は顔を赤らめて答える。
凛の領地にも喫茶店や商店、そしてスイーツ店が出来た事で、(主にスイーツをではあるが)喫茶店では新たにメニューを増やした。
そして商店ではポテトチップス等の一部のお菓子の量が少ないと要望が結構寄せられた為、100円位の一般的な大きさの袋で販売する事になった。
「お待たせなのです。こちらがハンバーグに大盛のご飯、それとコーラなのです。ごゆっくりどうぞなのです!」
「お、お嬢ちゃんありがとう。しっかり働いてて偉いな。」
「えへへー♪」
「梓ちゃん張り切ってるねー。なんだか天使のあたしよりも天使の様に見えるよ。」
「背中の翼がパタパタ動いてるし、本人も可愛いもんね…。梓ちゃんが少し羨ましく見えるなぁ。」
もう片方の喫茶店には、メイド服に身を包んだ梓とエルマ、イルマの3人が働いていた。
梓は男性客に料理を届けてお礼を言われた事で、にへらと笑う。
そして嬉しい気持ちに影響したのか、背中の翼がパタパタと動いていた。
その後もきびきびと動く梓を見たエルマは苦笑いの表情で、(翼が凶悪な為人前で出せない)イルマは悲しい表情でそれぞれそう言っていた。
それとワッズが代表を務める解体場の隣に翌日、ルークが代表を務める鍛冶場と武具屋を設けた。
凛は梓の資源生成を用いたり加工して銅、鉄、鋼鉄、魔銀と言った金属を生成したり、
銅級から金級迄の魔物や竜の皮や鱗、それに森やトレントと言った木の素材等の用意を行う。
そしてそれらを使った様々な武具をルーク達鍛冶職人や防具職人が作り、制作後に武具屋に並べられて販売して行く形となる。
客は魔銀や竜を用いた武具を購入する事を夢見て運動場へと稽古に向かったり、領地の北以外の3ヵ所の門から外に出て魔物を探しに向かう。
ルーカスも再びアーサーに稽古を付けて貰った後、同じく訓練していたカインやイライザ達と合流し、領地の外へと魔物を探しに向かって行った。
そして午前10時過ぎ
「凛殿。忙しい所を済まないのだが、俺の屋敷に来ては貰えないだろうか?」
「あ、はい。分かりました。」
凛は映像水晶越しにガイウスから連絡が来て、そう言われたので返事をした。
そして美羽と共に、サルーンにあるガイウスの職場兼屋敷へと向かう。
「ガイウスさーん、呼ばれたので来ました。」
「おお、凛殿!呼び立てて済まないな。俺では立場上、あのお二方に何も言えなくてな。困っている所だったのだ…。」
「お二方?」
凛は屋敷の応接室へと向かうと、扉は空いたままで部屋の入口で中の方を向いているガイウスや困った表情のメイド等が立っていた。
凛がガイウスへ声を掛けると振り返り、嬉しそうな表情でそう言った。
しかし直ぐに困った表情に戻ってそう言った事で、凛はそう言って不思議そうな表情となる。
そしてガイウスがずれた事で室内の様子が見える様になり、凛は応接室の中の様子を見る。
すると応接室の中央で着飾った男女が揃って椅子から立ち上がり、お互いに一歩も譲らずに激しく言い争っていたのだった。