179話
「凛様が下さった服が物凄く丈夫なおかげで助かったが、身体中が打撲痕だらけになりそうだな…。」
「隊長…、笑っている場合じゃないですよ。隊長は今の俺よりも全然強い筈です。ジェフに後れを取るとは思えないのですが…。」
「ああ、それはだな…。」
ミゲルはクリフに背中を支えられて上体を起こす。
ミゲルは以前なら体に傷が付く事を厭わなかっただろうが、今は想い人の為に少しでも綺麗な体でいたいと思ってしまった。
ミゲルはそんな自分に対してふふっと笑みがこぼれ、独り言の様にしてそう言う。
クリフはミゲルに対して軽く突っ込みを入れ、その後心配そうにしてミゲルへと言う。
ミゲルは手短に説明を始める。
「お前、少し見ない間に強くなったじゃねぇか!それに面白そうな武器を持ってるしよ!ははは!楽しくなって来たぜぇ!!」
「………。」
戦闘が始まって2分程、クリフ達とは少し離れた草原にて2人は斬り結んでいた。
ジェフは最初こそ気怠そうにしてたものの、ミゲルが自分が思っている以上に強くなっている事でテンションが上がって来た様だ。
ジェフは右手に持った短剣だけだが、ミゲルは両手にそれぞれソードブレイカーを持っている。
そしてジェフの短剣とミゲルのソードブレイカーが鍔迫り合いの様な形で交差した所でジェフがそう言った。
その後キィンと弾いて距離を取り、アズリールソードブレイカーを両手に持ったミゲルは先程からずっと黙ったままだった。
「ミゲル、さっきから黙ったままだがどうしたんだ?俺に勝てないと分かって、逃げる算段でもしてるのかよ?」
「…お前弱くなったんだな。いや、私が強くなったと言えば良いのか…。昔はお前に勝てなくて散々悔しい思いをしたが、今となっては虚しさしかないのだなと思ってな。」
「あぁ!?俺が弱いだと!?ミゲルの癖に…言う様になったじゃねぇかぁぁ!!」
再び斬り結ぶ様になって30秒程経ち、ずっと黙ったままのミゲルに違和感を感じたジェフがそう言った。
しかしミゲルから淡々とした口調でそう言われた為、怒ったジェフはそう叫んで激しさを増す。
そしてジェフはミゲルの隙を突き、袈裟斬りにしようとしてミゲルの左側へと回り込んだ。
「遅い。」
「何!?ぐはっ!」
しかしそれはミゲルが誘った罠で、回り込んだつもりが反対に回り込まれ、ミゲルがそう言って放った蹴りがジェフの背中へと当たる。
ジェフは驚いたのもあってか、ミゲルが放った蹴りをまともに受けてしまう。
ジェフは5メートル程吹き飛ばされた後、俯いたまま立ち上がる。
「どうする?私としては無益な殺生はしたくないのだが、まだ続けるのか?」
「…無益?無益だと?少しばかり強くなったからって、ミゲルの癖にこの俺を虚仮にするとは良い度胸だ…。これを使うのは癪だが、お前に情けをかけられる位なら死んだ方がマシだ!」
ミゲルがそう提案するとジェフはそう言って懐から土で出来た小瓶の様な物を取り出し、蓋を開けて中の液体を口に入れて小瓶を横へと投げる。
「今お前が口にした物…まさか!?」
「飲んで1時間後に死んでしまうが、その間は身体能力が5割増しになるって言う組織の『薬』さ。お前も聞いた事があるだろ?」
「何が薬だ!そんな物、唯の毒でしかないじゃないか!!」
ミゲルはその小瓶を見て言うと、ジェフは肩を竦めて言った為ミゲルは激昂する。
「ミゲルよぉ。怒るのは勝手だが、果たしてそんな余裕があるのかねぇ?」
「ジェフ、お前…ぐあっ!?」
「取り敢えず、さっきのお返しな。」
ジェフはやれやれと言いたそうにした後、先程のミゲルの様に瞬時に背後へと回り込んだ。
ミゲルはまだ話は終わってないとばかりに続けようとするが、後ろへと回り込まれたジェフの蹴りを背中に受け、前へと吹き飛ばされる。
ジェフはゆっくりと蹴りの構えを解き、へらへらと笑いながらそう言った。
その後はミゲルが防戦一方となる。
ミゲルは何とか頭等の急所に攻撃を受けない様にしているが、凛が用意した衣装とは言え薬の効果で魔銀級中位より少し強くなったジェフの攻撃を完全に抑えるのは難しかった。
ミゲルは顔や両手首から先に小さな傷しか付いてはいないものの、ジェフから放たれる打撃や斬撃の衝撃で身体中が打撲の痣だらけになってしまう。
そしてミゲルはジェフが放った斜め下からの蹴りで体を浮かされ、続けて放った回し蹴りを受ける。
その影響で40メートル程飛ばされてクリフの近くに止まり、今に至るそうだ。
「何とかジェフを説得したかったのだが、全く話を聞いて貰えなかった。とは言えここ迄飛ばされてしまったと言う事は、お前達にも被害が及ぶ事になるのか。…仕方が無い。お前達を傷付けられるのは嫌だからな。私も、ブーストエナジーとやらに頼らせて貰うとするか。」
ミゲルはクリフへ説明を終え、体に力を入れてぐぐぐっとゆっくり立ち上がる。
そして無限収納からブーストエナジーを取り出し、一気に飲み干すのだった。