178話
戦闘を開始して5分が過ぎた
ミゲルの隊の副隊長のクリフは、戦闘開始早々にミゲルと共に離れて行ったジェフ以外の100人以上の者達相手に苦戦…する事無く、隊の仲間達と共に戦い続けていた。
クリフは茶色の猫耳を持った猫獣人の男性であり、現在は嘗てのミゲルよりも少し上の金級中位に近い強さを持っている。
クリフ達は元々銀級の強さだったが、他の仲間達もステラ達と一緒に行った死滅の森での高速且つ連続討伐の影響により、クリフ以外の者達も金級下位の強さとなる。
先程の散策で(凛の加護の事を知らない)クリフ達は討伐する事に夢中で気が付かなかったが、凛の加護を持つステラ達が気を遣って凛の加護を持たないクリフ達に多くの魔物を討伐させていた。
以前ミゲルが自分以外を領地に残す様に凛へ頼んだ際に、ミゲルへ向けて叫んだのが副隊長のクリフでは無く隊員の1人だった。
クリフは自分が言おうとした事を先に部下に言われてしまい、人知れずこっそりと落ち込んでいた。
それも相まって暗殺者の中で1番やる気を出した結果、最も討伐した数が多くなり、以前よりも他の隊員との力の差が広がった。
因みにエルマ達は完全にサポート役で、ステラ達は全体の2割程の数の討伐を行うのだが、それでも凛の加護のおかげかステラはギリギリ魔銀級、キュレア、リナリー、ルルの3人は金級中位の強さとなった。
今回ジェフによって集められた者達の内の殆どが銅級で、10名程が銀級から銀級上位の強さとなっている。
戦闘が始まって最初にクリフ達へと突っ込んで来た者達は、揃ってクリフ達が持っているアズリールダガーによってナイフの刀身を斬られて呆然となる。
クリフ達はその隙を見逃す訳が無く、アズリールダガーの柄や蹴り等を用いて相手を昏倒させたり蹲らせる。
その後も相手は数に物を言わせて向かって来るが、クリフ達が悉く無力化させる。
その為戦闘が開始されてそう時間が経っていないにも関わらず、既に半数以上の者が戦闘不能となっていた。
「…副隊長。俺達、ここ迄強くなっていたんですね。」
「…ああ。丁度、俺もそう思っていた所だ。環境の良さと凛様が用意して下さったこの武器のおかげだな。」
犬獣人でありミゲルの男性隊員が背中合わせになったクリフに少し乱れた息を整えてそう言うと、同様に息を整えたクリフが軽く笑いながら答える。
「ふっ!…まだ、誰も倒れずに頑張ってくれているな。優秀な部下を持った俺は幸せ者、だよ!っと。」
「はっ!そりゃ、隊長と副隊長が頑張っているのを見てますから、ねっ!」
クリフと男性隊員はそう話しながら、向かって来る者達を倒していく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、…ふぅ。どうやら、粗方片付いた様だな。」
「ちっ。これだけの数をぶつければ全員倒せると思ったのに1人も死なないのかよ。お前等化け物か?」
「ははっ。今の俺達程度じゃ化け物には程遠いな…。お前、オークジェネラルを指先1つで倒せる人がいるって言ったら信じるか?」
「んなもん信じる訳が無いだろうが!それに戦闘中にへらへら笑ってんじゃねぇよ!イライラし過ぎて殺したくなるだろうが!!」
「(本当の事なんだがなぁ…。)」
その後も戦闘は続き、残りは銀級の強さを持つ者だけとなっていた。
軽く肩で息をしているクリフは息を整え、ジェフの次に強い者の前でそう言った。
クリフの目の前に立っている者は、ジェフが離れる前に自分が戻る迄の間、上手く集団を率いる様に言われる。
その者は内心悪態をついて従うも、戦闘が始まって10分弱で残りが自分達だけとなった。
その事で目の前にいるクリフを倒したとしても良くて自分は半殺し、最悪その場で斬り殺されると思ったからか苛立っていた。
その者は舌打ちをした後にそう言うと、苦笑いを浮かべて言ったクリフの態度が気に入らなかった様だ。
そう叫んでクリフへと向かって行き、クリフは内心そう思いながら応戦する。
「これでどうだ!」
「馬鹿な…。」
その後1分程で、クリフが相手のこめかみにアズリールダガーの柄を少し強めに当てて倒す。
「良し!他の皆も優勢みたいだし、どうにか終わり…。」
ダンッ!ズザザー…
クリフが満足そうな表情でそう言っている途中で、後ろから何かが吹き飛んできた。
その黒い物体はクリフの直ぐ左横を通り過ぎ、10メートル程前に進んだ所で止まる。
「ぐっ…!く……。」
「? …! 隊長!!ご無事ですか!?」
黒い物体の正体は吹き飛ばされたミゲルだった。
ミゲルは苦悶の表情で上体を起こそうとする。
吹き飛んで来たのがミゲルだと分かったクリフは、そう言ってミゲルの元へと慌てて向かうのだった。