177話
「…おっと、動き出したみたいだな。凛様。今頂いた物の追及は後でさせて貰うぞ。」
「分かった。絶対に無理はしないでね!」
「ああ!」
ミゲルは凛へブーストエナジーについて訪ねようとしたが、ゆっくりではあるがサーチ越しに集団が死滅の森へと動き始めた事に気付く。
ミゲルは180度体の向きを変え、そう言って走り出した。
凛が少し大きな声で言うと、ミゲルも同様にして返す。
「凛様…あれってもしかして。」
「うん。早い話が、僕達の世界で言う所のエ○ジード○ンクを金花、銀花の薬液精製で強化した物だね。試行錯誤を重ねて、漸く実用出来る迄になったんだよ。とは言え戦闘中に炭酸を一気に飲むなんてまず困難だし、あの味をこの世界の人達は知らないからね。飲みやすい様に少し甘いレモン風味にしてみたんだ。」
『(やっぱり…。そしてあの味じゃ無く、まさかのレモン味…。)』
ステラが恐る恐る凛へ尋ねると、凛がそう説明する。
説明を聞いたステラと美羽達は、複雑な表情で内心そう思っていた。
凛は続けて皆に一回使うと半日は効果が無い事と、服用すると3時間程身体能力を3割程引き上げる事、
それと今後はレモン風味だけで無く、他の味も出す予定と言う事を伝えた。
「あー待ちくたびれたぜー。やっと人数が揃ったかよ。」
凛がミゲル達にブーストエナジーを渡す直前。
凛達、或いは凛が持つ金になる手段を狙う者達をサルーンの南西に集まる様に仕向けた張本人で、この集団の中で1番強い為に代表となっているジェフがそう言った。
ジェフはミゲルと同じく王都にある暗殺等を行う組織の者の1人で、黒い衣装を身に纏っている30代の男性だ。
ジェフが先頭に立って歩き出し、皆に付いて来るように促す。
「ここまで集まるのに時間が掛かった分、さっさと目標を掻っ攫うぞ。そんでその後は、他の奴らを殺すのを楽しまないとだな。」
「…悪いが、お前達にそれをさせる訳にはいかないな。」
「は?なんだ…ってお前、もしかしてミゲルなのか?」
「ああ。久しぶりだな、ジェフ。」
ジェフは森へと歩きながら嬉しそうに言う。
しかし少し離れた森の中からミゲル達が現れてそう言うと、ジェフは少しの間驚いた。
ジェフ達はその場で歩みを止めるがミゲル達はそのまま歩き続け、20メートル程の前に来た所でミゲル達も止まる。
そしてジェフはミゲルに尋ね、ミゲルも言葉を返す。
ジェフは金級上位の強さを持っており、組織の中では総長に次ぐ強さである副総長の位置にいる。
それに対してミゲルは、組織にいた頃は5番目の位置にいた。
ジェフは総長と自分以外の者を信用しない事と、集団行動そのものを嫌がる傾向にある。
その為副総長と言う位置にいながらミゲルの様に隊を率いる事は無く、基本的に1人で行動している。
ジェフは少し前にサルーンから北北西にある都市カプランで仕事を終え、ミゲル達が捕まった翌日にサルーンへとやって来た。
そして昨日の夕方頃、サルーンの中を1人で歩いているマルクトを見掛ける。
ジェフはマルクトに声を掛けると、マルクトは憤りながらジェフに事情を説明する。
そして代金代わりとして、王都から持って来た金目の物の殆どをジェフへと渡し、ジェフに凛の領地を攻め落とす様に依頼する。
「ミゲルを奴隷に出来る奴がいるとか、面白そうな事になってんな!マルクト、金は要らねぇ。サルーンにいる後ろ暗そうな奴らを集め、そいつの領地にぶつけるぜ。そんで俺は、凛って奴と遊んでやるよ!」
マルクトから話を聞いたジェフは、格下とは言えミゲルを奴隷に凛へ挑む事に乗り気になる。
ジェフはそう言って金目の物をマルクトに突き返し、走り出して行った。
ジェフはその日の内にサルーン中の凛に害意を与えようとする者達に声を掛け、翌日の午後になったらサルーンの南西へと集まる様に促す。
「お前達が死滅の森側から来たって事は、マルクトの言う通り本当に奴隷にされちまったんだな。でなきゃ、お前より強いこの俺に挑もうなんて真似をする筈がない。」
「ああ、お前は強かったからな。…だが今は私の方が強い。」
「私だと?お前、女だったのかよ!それに俺よりもお前の方が強い?はっ、笑えねぇ冗談だぜ!」
「御託はいい。さっさと…ああ、一応提案だけはさせて貰おうか。そちらの中で本当は参加したくないとか、降伏したい者はいるか?」
ジェフが自信満々に言うと、ミゲルも肯定する様に頷く。
しかし続けてミゲルが言った事にジェフは苛立ち、吐き捨てる様にして言う。
ミゲルも昔から殺人を楽しんでいるジェフの事が嫌いだった為、これ以上話す気は無かった。
そしてミゲルは僅かでも心変わりをしてくれる事を思って尋ねてみるも、誰も名乗りを上げる者はいなかった。
今回参加した者の殆どが、パメラの所で凛に牽制された者達やその者達から情報を受けた者達だ。
彼らは後が無いと判断し、皆で一斉に攻めれば凛に勝てるのでは、と思って参加した様だ。
「馬鹿かお前?ここにいるのは少なからず人を殺した事がある奴らばかりだ。今頃になって怖くなったから降伏します、なんて言う訳が無いだろうがよ!」
「…そうか、残念だ。」
「話は終わりだ!さっさと死合おうじゃねぇか!!」
「そうだな。」
ジェフは馬鹿にした様な表情でミゲルを見てそう言うと、ミゲルは悲しそうな表情で言う。
ジェフはそう言って目をくわっと見開いて走り出し、ミゲルも軽く答えて走り出す。
こうしてミゲル達とジェフ達との戦いが始まるのだった。
作者もよく○ナジー○リンクにお世話になっておりますw
個人的には赤い雄牛的な物よりも怪物的な方が好みです←