175話
「凛様。この子がね、その子の事を試してみたんだって。幼い森林狼の割に自分達に怯む事が無い、度胸のある奴だって褒めてたよ。その子も凛様の配下になりたいみたい。」
「そうなんだ?この子にはペット感覚で接してたけど、そう思ってくれたなら嬉しいな。それじゃ、この子に名前を考えないとかな?」
「(名前?欲しい!欲しい!良いの付けてー!)」
クロエがワーグの1体の頬を撫でながら言うと、凛も森林の頭を撫でながら言う。
凛がそう言うと、森林狼は甘える様にしてクーンクーンと鳴いていた。
その後凛は興奮する森林狼を宥め、名付け部屋に移動して『昊』と名付けた。
そしてその様子を見ていた雌のバトルマンティスを名付け部屋に呼び、『菫』と名付ける。
菫は渚達が泳ぎに行く際に姿を変える事を見ていたのか、人間になりたいと念話で言われる。
凛はナビに頼んで人化スキルを施す事に。
凛達は昊と菫が進化に備えて休んだ事を確認し、名付け部屋から出る。
そして出て直ぐに、丁度帰って来たステラ達とばったり会う。
「ステラお帰り。帰って来るのが遅かったね?そろそろ連絡入れるか、こちらから迎えに行こうかと思った所だったよ。」
「凛様ただいま。それがねー、皆で討伐を頑張り過ぎちゃってさー。昼を過ぎてる事に気が付いて慌てて帰って来たんだ。」
凛とステラが挨拶を交わし、ステラから経緯を説明される。
ステラのパーティーはステラ達やエルマ達、猛、藍火、篝、それとミゲル以外の暗殺者達の18人だ。
エルマ、イルマ、猛、藍火、篝がサポートする形で森の中層の入口付近を散策していた。
ステラにも紅葉と同じ様に凛から念話が入り、ステラ達や暗殺者達にアズリールシリーズ、それと隊長であり既に金級中位の強さであるステラには火炎と飆風の短剣が用意されてあった。
「! これって、所謂魔剣ってやつだよね。僕にも使える日が来るなんて…。嬉しいなぁ…!」
ステラはキュレア達、暗殺者達にアズリールシリーズを渡した後に出した火炎と飆風の短剣を掲げ、うっとりした目で見ていた。
「ステラちゃん良いなー!ね、ね、リナリーちゃん!私達も頑張って強くなれば、ステラちゃんが持ってる様な武器が貰えるのかな?」
「うん、確かに気になるわね。今さっきステラから渡されたアズリールロッドですら、今迄の物とは全然違うとんでもない物なのよねぇ…。ステラは炎と風に適性があったから、あの短剣になるのよね。と言う事は、私が強くなったらステラの様に水の杖が…?」
「貰えるかも知れないね。凛様から聞いた情報だと、火炎、水氷、飆風、崩土の4種類の属性武器があるそうだよ。僕以外にもミゲルさんや梓ちゃん、それと時雨さんと氷雨さんに属性武器が用意されたみたい。」
『!!』
キュレアとリナリーが話をした後にステラがそう言った事で、キュレア、リナリー、ルル、それと暗殺者達が驚く。
特に暗殺者達に至ってはここにいないミゲルにも属性武器が渡されたと聞いて、驚きの中に喜びも混じっている様だ。
キュレア達や暗殺者達は頑張れば自分達も或いはと期待感が高まり、かなりやる気になっていた。
「…あたし達もレイアやリリィが無かったら、ステラちゃん達みたいに物凄くやる気になってたんだろうなぁ。」
「そうだね。気付けば私達も神輝金級だもんね…。」
「まあまあ、良いじゃないすか。強い仲間は多い方が良いっすからね。」
「そうだな。あたし達も当時は強くなりたいって目標があったからな。」
「うむ。目標がある事は良い事だ。私達もしっかりとステラ達のサポートしないとな。」
「「「はい(っす)。」」」
「ああ。」
エルマ、イルマ、藍火、篝、猛も話し合い、静かにやる気を出していた。
それからステラ達はサーチを使い、強い魔物が沢山いる所を狙って進む様になる。
ステラ達が行動を開始して直ぐに、グレーターサイクロプスをリーダーとするサイクロプスの群れを見付けた。
「(この短剣なら行ける!)…迅雷剣!」
グレーターサイクロプスの右の蹴りを避けた後、右手に飆風、左手に火炎の短剣を持ったステラが飆風の短剣に雷を、火炎の短剣に炎を纏わせる。
ステラはそう叫びながらグレーターサイクロプスの太ももへと、雷を纏った飆風の短剣を深く斬り付ける。
グレーターサイクロプスは迅雷剣を右太ももに受けた事で雷が体中を伝わり、感電して動けなくなる。
「…紅蓮剣!」
そこへ更に火炎の短剣に炎を纏わせた紅蓮剣を背中に受け、瞬く間に全身にボゥッと火が点いた。
グレーターサイクロプスは火を消そうとして動こうとするが、全身が痺れて動けなかった。
グレーターサイクロプスはそのまま燃やされ続け、やがて前方へと倒れる。
「ほう。」
「おお!ステラ、カッコいい技を使うじゃないか。」
猛と篝はステラが放った技を見て感心していたが、2人以外の人達はその光景に言葉を失っていた。
この世界の雷属性単体は炎と風の混合らしく、両方の属性に適性が無いと扱えないそうだ。
ただし旭が持っている紫電は特殊で、凛が改良した際に炎の適性しか無い旭でも紫色の電光を短刀に纏える様に調整した。
因みに暁は炎と光、旭は炎、月夜は水と闇、小夜は闇に適性がある。
暁達はジャガーノートとの一戦の後、硬い敵にも対応出来る必殺技の様な物を開発しようとあれこれ試している。
数日前に旭は凛から改良された紫電の説明を受ける。
しかし旭は身体強化は得意だが、体以外の場所で魔力を操作する事を苦手としている。
今朝の訓練時でも少しでも上達しようと、猛達の戦いを見ずに部屋の隅で紫電に紫色の電光を纏わせる練習をしていた。
その事にステラが気付き、旭から紫色の電光についての話を聞く。
その後凛達の元へ戻ったステラは、猛達の戦いの合間に苦無に炎や雷を纏わせる練習を行っていた。
しかしステラでは技量不足だった為か、訓練中に先程の迅雷剣や紅蓮剣程の雷や炎を練習用や量産品の短剣で行う事が出来なかった。
ステラはそれぞれの属性に特化した飆風と火炎の短剣でなら出来る気がしたので試してみた所、今朝の苦労はなんだったんだろうと言う位あっさり出来てしまう。
この事にステラは平静を装いつつ、内心とても喜んだ。
「どうやら僕がグレーターサイクロプスを倒した事で、別な意味で皆に火が点いちゃったみたいなんだ。それからは魔物が沢山いる所を狙っては返り討ちを繰り返しててさ。皆も段々と楽しくなっちゃったのか、休憩も取らず戦い続けてたらいつの間にかお昼を過ぎちゃったって感じかなー…。」
ステラは既に自分以外の人達に昼食を摂らせようと屋敷へ向かわせ、凛も名付けが終わったので美羽、火燐、雫、翡翠、楓以外の人達を屋敷へと向かわせる。
暗殺者達だけは昼食を摂らず、この後に備えシャワーだけ済ませて休んだ様だ。
そしてステラはあはは…と明後日の方へと目を反らしながらそう締め括るのだった。