174話
その頃、凛達以外の戦闘組は紅葉とステラをそれぞれ隊長として森を散策していた。
紅葉のグループは紅葉達、アーサー、流、泉、それと休みで来たトーマスと、同じくパン屋が定休日の為に来た時雨と霙の12人だ。
「本日は初めて死滅の森中層へ来られた方が多い様ですね。皆様、ここは魔銀級上位の魔物も出る危険な場所です。あまり私達から離れない様にお願い致しますね。」
紅葉達は今回、凛達がいる鍾乳洞から東北東に暫く進んだ中層中部へとやって来た。
紅葉がそう言って皆へ頭を下げると、色々な返事が帰って来る。
今回は午前中の内に、アーサーを洪水龍へと進化させる事をメインに行う事にした。
そこへ一緒に行きたいとの事で流、泉、トーマス、時雨、霙の5人が加わる。
「(紅葉ー。ちょっと良いかな?)」
「(凛様!どうかなさいましたか?)」
「(うん、あのね…。)」
紅葉達が行動を開始して直ぐに、凛から紅葉へと念話が来る。
紅葉が念話越しに尋ねると、凛は紅葉達以外の6人にアズリールシリーズの武器を渡す事、時雨と霙には水氷の弓とハルバードを追加で渡す事を伝える。
「(畏まりました、その様に致しますね。)」
「(ありがとう。僕達は午前中だけ森を進んで午後は領地にいる予定だよ。紅葉達もサポート頑張ってね。)」
「(はい!凛様もご武運を。)」
その後も凛と紅葉は少しの間念話でのやり取りを行う。
紅葉は念話を終え、念話越しとは言え凛と話せた事で嬉しそうにしている。
しかし直ぐに紅葉は真面目な表情になり、無限収納からアズリールシリーズを出してアーサー達6人に渡す。
それと時雨と霙の2人には追加で、水氷の弓とハルバードを無限収納から取り出して渡した。
流は大剣を扱うのでアズリールグレートソード、泉は槍を扱うのでアズリールスピアを紅葉から貰い、2人はそれぞれ大剣と槍を眺めていた。
「こいつは…凄いな。そんで俺ももっと強くなれば、時雨や霙の様に属性の剣が貰えるんだな!」
「そうですね。凛様は先程念話で、魔銀級の時雨と霙の2人に水の属性武器をと仰いました。ですので皆様が強くなりましたら時雨様、霙様が持ってらっしゃる様な武器を賜る事が出来るのでは、と考えております。」
「よし!俺も炎の剣が貰える様に頑張るとしますかね。」
トーマスはアズリールソードとアズリールシールドを上に掲げて見た後に時雨と霙を見てそう言うと、紅葉が返事をする。
トーマスは右手に持ったアズリールソードをぐっと握ってそう言った。
「傘下に加わったばかりの俺達でも、水の属性武器とやらは貰えるのだろうか。」
「多分ね。とは言え固執し過ぎて足元を掬われたらどうしようもないわ。今まで通り、堅実に行きましょ。」
「…そうだな。」
流と泉はそう話し、静かにやる気を出していた。
その後の散策でアーサーが進化出来る様になった。
アーサーは梓と同様に、昼食を摂った後自室で休むと言う事で皆で屋敷へと戻る。
「あ、紅葉達お帰り。」
「はい。只今戻りました。」
紅葉達が帰宅すると、ダイニングでは既に凛達が昼食を摂っていた。
凛と紅葉は互いに挨拶を行い、紅葉達も昼食を摂り始める。
「あ、そうだった。クロエ、ワーグって言う結構大きな狼の魔物を倒したんだけど…どうする?」
「欲しい!もふもふ!もふもふがしたい!!」
「分かった。それじゃ外へ行こうか。」
「うん!」
凛達は互いに情報交換や雑談を交えて昼食を済ませる。
昼食後に凛はクロエに尋ねると、クロエはそう言って両手を机に置き、ずいっと身を乗り出した。
凛とクロエはそう言って外へと向かい、既に休んだ梓とアーサー以外の皆も興味があるのか付いて行く事に。
「わー、大きいね!えっと、2匹が雌で1匹が雄。雄よりも雌の方が少しだけ強いみたいだね。3体共もう少ししたら進化するみたい。ワーグ達って呼ぶのは可哀想だから、進化してから名前を考える事にするね。」
屋敷の前でワーグ達を不死の軍勢で甦らせた後、クロエを主と認めたのか3体揃ってクロエに擦り寄って来た。
クロエはもふもふだー!と喜んだ後に皆へそう説明する。
「………。」
「驚かせちゃってごめんね?あれはワーグって言って、君が成長した姿になるんだよ。君も強くなったら、いずれあの姿になるかもね。」
「ウォン?」
「よしよし。」
しかしその様子を見た森林狼がワーグを見て怯えてしまったのか、ポータルを設置した小屋の陰に隠れてしまう。
凛に懐いている森林狼は凛以外にも心を許す様になったのか、最近は屋敷の前にまで来る様になった。
領地に住む人々は移動の度に、屋敷の前にいる森林狼を可愛がっている。
凛は縮こまっている森林狼を撫でながらそう言うと、森林狼はそうなの?とでも言いたそうな顔で凛を見上げる。
凛はそう言ってわしゃわしゃと撫でると、森林狼は気持ち良さそうにする。
「ウー、ワフッ。」
「ん?皆の所へ行く?」
「ウォン!」
森林狼は立ち上がり、屋敷の方へと体を向ける。
凛が尋ねると森林狼は吠え、皆の所へと向かう事に。
「「………。」」
「ワフッ。」
「ウォン!」
凛と森林狼は皆の所へと戻る。
森林狼とワーグの1体は少しの間じっと見詰めていた。
ワーグの1体が軽く吠えると、森林狼もつられる様にして吠える。
そして森林狼は凛の方を向き、尻尾をぶんぶんと振りながら凛の事をじっと見詰めるのだった。