170話
バシィッ
「(痛いのですー!)」
魔物形態となった猛は、自身へと近寄って来る龍形態の梓を遠ざけようとして尻尾攻撃を当てた。
猛は結構加減したつもりだったのだが、それでも尻尾の長さが梓の全長よりも大きい上に、神輝金級中位と金級上位では差があり過ぎた様だ。
その為、梓は悲鳴を上げて吹き飛ばされて行った。
「ぐすっ、主様ぁー。私じゃ止める事が出来なかったのですぅ…。」
「よしよし。だけどさっき迄と違って、今は皆が面白そうに猛達を見てるみたいだよ。たまにはこう言うのも面白いかもね。」
「(ずずっ)そうなのです…?」
梓は猛の尻尾で凛達から少し離れた所に迄吹き飛ばされた。
梓は人間形態に戻り、泣きながら凛の元へと向かい慰められる事に。
「…まるで怪獣映画みたい。」
「んー、となると今みたいに立ち上がった猛は○ジラとか?」
「遠目だと見えなくもないね…。」
梓が吹き飛ばされた後に魔物形態の猛、それと龍形態の藍火と渚との戦いが始まった。
その様子を見て雫がそう呟くと、それを凛が拾い微妙な表情のステラがそう言った。
3体の中でも一際大きい猛に挑む2体の姿を見て、皆は興奮した様に見ていた。
『………。』
しかし、領地に来てまだ日の浅いミゲル達はこの世の終わりの様な表情で猛達の事を見ていた。
「梓ちゃん。梓ちゃんはここに来てから進化したんだよね?私、梓ちゃんが藍火ちゃんみたいに龍になる所を見た事が無いから、龍になった梓ちゃんを見てみたいの!」
「私は主様に名前を貰って、一応グリーンリーフドラゴンになったのです。ですが私は見ての通り小さいので、龍形態も小さいのです…。それでも見たいのです?」
「うん!」
「分かったのです…。」
訓練が始まって30分が経とうとした頃に、ナナが元気良く梓へそう言った。
しかし梓は自信が無さげに答えるが、キラキラとした目でナナがそう言う。
梓は呟く様にして言った後、直ぐ近くに人がいない事を確認して龍形態になる。
「梓ちゃん格好良いー!」
「(そ、そうなのです?)…ふぅ、取り敢えずはこんな感じなのです。」
ナナは嬉しそうにしてそう叫ぶと、少しだけ照れた梓は龍から人へと戻った。
「梓ー。いきなり龍になったみたいっすけど、どうかしたんすか?」
「私が頼んだの!梓ちゃん格好良かったー!藍火ちゃんとは違った格好良さだよね!」
「成程っす。」
そこへ藍火がナナ達の元へ行って声を掛けた。
ナナが楽しそうにそう言うと、藍火はぽんぽんとナナの頭に手を乗せる。
梓はニコニコとしている。
「世界には色んな龍がいるっすからねー。まぁ自分は格好良いだけじゃ無く、強さも兼ね揃えているっすけどね!」
「…それは聞き捨てならないわね。私も中々だと思うんだけど?」
「私は龍ではないが凛様、美羽様に次いだ強さだと思っている。と言うか藍火、お前は今迄私に勝てた事が無いではないか。」
なっはっはっは、と藍火は高笑いをしながらそう言った。
しかしこれに渚と猛がカチンと来たのか、藍火の元へ向かいながらそう言う。
「うぐっ、痛い所をっす…。これはあれっすね、それぞれ魔物形態になって白黒をつけるしか無いっすよ!」
藍火は言葉に詰まり、自棄になったのかそう言って龍形態へと変わり猛を見下ろした。
「…面白い。ならば私も久しぶりに魔物形態になるとしようか。」
「ふふん!ぎゃふんと言わせてあげるわ!!」
猛と渚もそう言って魔物形態と龍形態へと姿を変える。
「(猛はやっぱり大きいっすねー!けど自分もそんなに猛と強さ自体は変わらないっすから、良い勝負が出来る筈っす!!)」
「(ちょっとー!私の事を忘れてもらっちゃ困るわよー!)」
「(2人纏めて相手をしよう。掛かって来ると良い。)」
全長10メートルを越える大きさとなった龍形態の藍火がそう言うと、全長50メートル程となった渚が藍火の直ぐ横でとぐろを巻いてそう言う。
猛は後ろ足だけで立ち上がり、左前足を器用にくいくいと動かして掛かって来る様に促す。
「3人共ー!そのまま戦ったら皆が迷惑するよー!やるなら充分に離れてから戦ってねー!」
「「「(あ、はい。すみません。)」」」
猛達がいきなり魔物や龍になった事で皆は危険だと判断し、壁際にいた凛の元に集まる。
それでも危ないと判断したものの、少し面白そうに思えた凛は藍火達にそう言うと3体はその状態のまま凛達から離れて行った。
「やっぱり止めるのですー!」
梓は自分が切欠でこの様な事態に発展してしまったと思った様だ。
そう言って走りだし、猛達へと向かう途中で龍形態となる。
しかし梓の健闘も虚しく、あっさりと猛の尻尾で吹き飛ばされてしまう。
「「(それじゃ…行くっすよ[わよ]ー!)」」
猛達から少し離れた所で梓がズズゥンと音を立てて地面に着地(?)したのを合図に、藍火と渚が500メートル程離れた30メートル程の大きさの猛へと突っ込んで行く。
その後猛は四足や二足で立ち、藍火は二足で立ったり翼を使って飛んだり、渚は飛行魔法で浮く等してブレスや魔法を使い、暫くの間激しい戦いをしていた。
たまに凛達の方へと流れ弾が飛んで行くのだが、先頭に立った凛や美羽が防いでいった。
ミゲル達は魔物形態で戦っている藍火達を見て、恐怖に思ったのかがくがくと震えていた。
しかし凛達やガイウス、ゴーガンは新しい娯楽の様な感覚でその戦いを見ているのだった。