169話
その後、凛は片手剣と盾を使って戦うシータと、投擲術で戦うクスィーを訓練部屋へ喚んだ。
凛は2体にトーマスとミゲルへ今迄以上に指導する様に伝え、自身も美羽との手合わせへと戻る。
再開した凛と美羽の手合わせは、2キロ四方の訓練部屋の中央で向かい合う所から始まった。
凛達はその場から消えたと思うと少し離れた空中からガキィィンと鍔迫り合いを行い、再び消えたと思ったら直ぐに別な所でバシィッと音を立てて蹴りを交差させていた。
その後もまるでド○ゴンボールの戦闘シーンでも見ている様に、地上や空中で戦っていると思ったら消え、消えたと思ったら別な所に現れて再び斬り結んだり足技で攻撃すると言った戦いをしていた。
火燐達はその事を知っていた。
その為巻き込まれない様に離れた所で的へ向かって魔法を放ったり、手合わせをしたい者は別な部屋に移動する等して訓練をしていた。
凛達の様に、人外の強さを持つ者同士の戦いや手合わせを行うと、どうしても周りへの被害が出てしまう。
その為離れた場所で魔法(早朝訓練では上級以上を使用するのが殆どの為広範囲)の練習をしたり、手合わせをする場合だと1つの訓練部屋が2~3組で埋まってしまう。
凛と美羽は手合わせをしながらでも周りの配慮が出来る為、他の人に近寄る事無く(それでも音や衝撃が少し響くが)手合わせしている。
因みに、凛と美羽がお互いに本気同士での手合わせになると、まず互いの魔素量が高過ぎて空間部屋が揺れまくる。
そして飛ぶ斬擊や全ての属性の魔法、ビットやシールドソードビットが入り交じって直ぐに地獄絵図へと早変わりしてしまう。
美羽がヨグ=ソトースに進化して間もない頃、周りに人がいる状況で美羽は自分がどこまで出来るかを凛と試した。
しかし5分も経たない内に訓練部屋がぐちゃぐちゃになってしまった為、凛と美羽は訓練部屋に正座させられて火燐にこっぴどく叱られてしまう。
それ以来、凛と美羽は剣技と足技だけで手合わせする様になった。
しかしトーマスとミゲルは初めて見る為、どうしても凛達へと意識が向いてしまう。
結局そのままシータ達との訓練に集中出来ないまま、初めての早朝訓練を終えてしまった。
「凛様、凛様はやっぱ凄いんだな…。俺、訓練をもっと頑張る様にするよ。」
「トーマスの言う通りだ。私達は幸運だったのだな…。」
「? 良く分からないけど頑張ってね?」
訓練の後にトーマスとミゲルが少し沈んだ表情でそう言うと、凛はこてんと首を傾げてそう言った。
「(あれ程の戦いでも、凛様と美羽様は本気では無い様に見えた。私達はこの様な人達に戦いを挑もうとしていたんだな…。)」
訓練部屋から屋敷へと帰る際、ミゲルは内心そう思いながらブルッと体を震わせていた。
早朝訓練が終わると凛達はキッチンへと向かい、汗をかいた者達は一旦シャワーへと向かった後に料理を作る手伝いをする。
しかしミゲルはシャワーの際に憂鬱な表情となり、そのままキッチンへと入る。
そして包丁を両手で持つと言う、非常に危なっかしい持ち方をしていた。
「…ふぅ。よし!行くぞ!」
ミゲルは気合いを入れ、そのままダン!とまな板に乗せたキャベツを一刀両断にした。
「あの、ミゲルさん…。無理に料理しなくても、僕達が全部やりますよ?」
「そうですよ。隊長は昔から料理が全く出来なかったので、代わりに俺達が作っていたじゃないですか。なのにどうして急に料理をしたいなんて言い出したんです?」
「う、うるさい。私だって女なのだ、料理を覚えたいと思うのは当然の事だろう?(チラッ)」
「ですが、火燐様や藍火様はあちらで座ってらっしゃいますよね?」
「うぅ…。」
ミゲルの危なっかしくキャベツを切る様子を、凛を含めた皆がハラハラとしながら見ていた。
凛は見兼ねてやんわりとミゲルを止めに入り、ミゲルの部下の1人が代表でそう言った。
しかしミゲルはテーブルに座って火燐や藍火と話しているトーマスをチラッと見て反論するも、部下にそう言われ言葉に詰まってしまう。
お祝いをした次の日からミゲル達がキッチンに入る様になる。
男女含めた元暗殺者達は、屋外で料理をする機会がそれなりにあった為か簡単な料理が作れていた。
しかしミゲルだけは壊滅的に料理が下手なのか、全てにおいて酷かった。
顔の横に両手で包丁を持って来る時点で、お察し下さいと言いたくなる位には。
その後、凛やミゲルの部下達がやんわりと料理は止めた方が良いのでは?と説得するが、それでもミゲルは諦めようとしなかった。
暫く凛達はどうする?と互いに見合うのだが、解決案が浮かばなかった。
ミゲルはその間真っ直ぐ凛を見ていた。
「ふぅ…、分かりました。少しずつではありますが、ミゲルさんに料理を教えて行こうと思います。ミゲルさん、僕達の言う事をしっかりと聞いて下さいね?」
「!! …ああ、分かった。凛様、宜しく頼むよ。」
凛は根負けしミゲルへそう伝えると、ミゲルは目尻に涙を浮かべて花笑んで見せるのだった。