162話
「隊長!隊長は王都を出てから昨日迄マルクトのクソ野郎に散々当たり散らされてましたし、今迄だって俺達よりも長く組織へ尽くしていたじゃないですか!寧ろ俺達が帰りますから隊長がここに残って下さいよ!」
「駄目だ。私が隊長である以上責任を負うのは当然の事だし、組織の掟に部下を犠牲にしてでも隊長が生き残り、組織へ戻って報告する様にとあっただろ。」
「ですが…!隊長1人だけでなんて…。」
「…あのー、でしたら形だけって事で僕の奴隷になってみます?僕達に負けて奴隷になったって設定で。」
「「は?」」
ミゲルの左隣にいる部下がそう言うと、ミゲルは少し下を向いて首を左右に振ってそう言った。
部下は更に言葉を加えようとするも言葉が見付からず悔しそうな表情になる。
そこへ凛がそう言った事でミゲルと部下は驚いた顔でそう言ってしまう。
「奴隷商の知り合いがいまして、もしかしたら使う機会があるかも知れないと言う事で教えて貰いました。」
「何でも出来るんだな…。」
「貴女達が部下思いで上司思いだと分かりましたからね。見てて協力したくなったんですよ。」
「済まない…助かる。」
軽く微笑んだ凛がそう言うとミゲルは羨ましそうにポツリとき、その後そう言って凛へ頭を下げる。
知り合いとはサルーンの奴隷商の店主のマーサの事だ。
凛はニーナ達を購入した際に、マーサから奴隷術を使ってニーナ達に奴隷紋を付けるかを尋ねられた。
しかし凛は奴隷紋で強制的に押さえ付ける事を嫌がった為、これを断った。
それもあってニーナ達やマーサからかなり良い信頼関係が築けているのだが、凛はこの事に気付いていなかったりする。
凛がトーマスを購入して数日後にマーサから必要になるかも知れないと言われ、マーサ指導の元で奴隷術を習得した。
この世界では奴隷を購入した際に(凛は特別何もしないのだが)その場で奴隷の手足や背中等、奴隷の体のどこかに購入者の血を媒体とした奴隷術を行使する。
それにより奴隷だと一目で分かる様にする為と言うのもあるが、購入者を傷付ける事無く守ったりある程度従わざるを得なくする為の方が強い。
しかし購入者が何らかの理由で死んでしまうと、奴隷の体にある奴隷紋は消滅してしまい奴隷は自由となる。
その為奴隷となってしまっても購入者を亡き者にして自由になりたいと、悪い考えを持っている者は一定数いたりする。
他にも使役と言う意味では以前のサルーンにはいなかったが最近外から来る様になった、ウルフやスライム等を使役する調教師がいる。
他にもエルフに多いとされる、リーリアの様に精霊と共に戦う精霊術師、
数は少ないものの紅葉がクロエに行った様な死霊術師がいるそうだ。
凛は調教師では無いが、紫水や琥珀や瑪瑙、ライムと言った弱い立場の魔物や好奇心の強い魔物から好かれる事がある。
割と最近になって、特に害意が無いからと言う事もあり領地に入って来る様になった森林狼(♂)やバトルマンティス(♀)も凛に懐いていたりする。
余談ではあるが、ライムは進化した事で更に小さくなれる事が分かり、次の日からハンバーガー位の大きさになって雫の肩に乗る姿をサルーンで見掛ける様になる。
女性達は雫の肩でぷるぷると震えるライムを可愛らしいと思ったのか、雫の周りに女性が集まって盛り上がっていた。
その様子を見た男性達が自分達もそうなりたいと、外にいる野生のスライムを手懐けようと必死になる姿を見掛ける様になった。
「…奴隷って言っても特に体に違和感を感じないんだな。ついでと言ってはなんだが…サルーンにはまだ部下が何人か残っているんだ。凛様、後であいつらの事も頼めないだろうか?」
「奴隷と言っても殆ど制限を設けなかったですからね。僕は構いませんが、ミゲルさん宜しいんですか?」
「ああ、構わない。いい加減マルクトにも頭に来ていたしな。ふふふ…。」
『(うわっ、折角の美人が台無し!)』
凛によって左の手の甲に施された、赤い六芒星の様な形の奴隷紋を見たミゲルがそう言った。
他の暗殺者達にも同じ様に左の手の甲に奴隷紋を施してあり、それぞれが色んな角度で左の手の甲を見ている。
その後凛がミゲルにそう尋ねると、ミゲルは鬱憤が溜まっていたのかかなり悪い笑みを浮かべてそう言った。
ミゲルの部下達は内心そう思い、残念なものを見る目を一斉にミゲルへと向けるのだった。




