161話
「…隊長。これから俺達はどうなるんでしょうか。」
「俺に言われても知らん…。しかし俺達を殺す気は無い様だし、取り敢えず休ませて貰うとするか…って。お前…寝るの早過ぎじゃないか?」
「……(zzz)」
「ああ、これは物凄く良い素材を使っているな、感触が良い。…何だか寝ているこいつを見たら緊張する気も失せたな。明日にはどうなるか分からないし俺達も休ませて貰うとするか。」
「そうですね…。」
凛達がいなくなってから5分程経ち、暗殺者の1人がミゲルにそう尋ねる。
ミゲルはそう言いながらマットレスを見てみると、マットレスの上で既に横になって寝ていると思われる部下がいた事で呆れていた。
ミゲルはマットレスを軽く沈む程度に手で押さえてそう言った後、寝ている部下を見て微妙な表情のまま尋ねた部下と共にそう言って休む事にした。
「(コンコン、ガチャ)邪魔するぜー。…って、どうやら皆起きてる様だな。皆で朝飯食べるからお前等を呼びに来たぞ。」
「朝飯…?襲撃したのにも関わらず我等にも朝食を用意すると言うのか?」
「まーそう言うこった。心配しなくても毒なんぞ入ってねぇよ。それに、ガイウスとゴーガンの2人が来てるしあんまり長く待たせると五月蝿いから早く戻らねぇといけねぇ。あー…それとだが、もしあの時凛に何かしらで害を与えようとしていたら多分オレ達の誰かがその場でお前等をどうにかしてたかもな。凛は優しいから分け隔てなく接するが、オレ達は敵に容赦しねぇ。…さっさと行くぞ。」
『!?』
「(確かガイウスはサルーンの長でゴーガンは冒険者ギルドのマスターだった筈。そう言えば昨日ここで見たとか言っていたな。ったく、ここは化け物揃いか。)…分かった。」
『隊長!』
「…お前達も行くぞ。さっさと立て。」
「はい…。」
午前6時前に火燐がミゲル達の元を訪れ、ノックして部屋の中へと入る。
ミゲル達は1人を除き、それぞれ壁に凭れる等して休んでいた。
凛達は昨晩寝るのが遅かった為、凛と美羽以外の4人は早朝訓練に参加しなかった。
火燐は要件を伝えたので出て行こうと体を反転させる。
その際に殺気こそ放たないものの、顔だけを横へ向けてギロッと睨みながらそう伝えた事でミゲル達は身が竦んでしまう。
火燐はミゲル達を見るのを止め、正面を向いてそう言った事でミゲル達は安堵した。
ミゲルは内心そう思った後に返事して立ち上がる。
そして部下に発破を掛けて立たせ、既に歩き始めている火燐の後を付いて行った。
「凛、こいつらを連れて来たぜー。」
「………。」
「火燐、ありがとう。皆さんおはようございます。朝食は用意してありますので、そこの空いてる所に座って下さいね。少しは休めましたか?」
「おう。」
「…ああ、お陰様でな。こいつに至っては熟睡してた位だ。」
火燐がそう言いながら、少し沈んでいるミゲル達を連れてダイニングへと入って来た。
凛は火燐を労いミゲル達に挨拶をする。
火燐はそう返事をして入口側にあるテーブルに設けた、ミゲル達6人と火燐が並んで座れるスペースの端に座った。
因みに反対側には既に雫が座っている。
ミゲルはそう言って左手の親指で後ろにいる部下の1人を差す。
「隊長!恥ずかしいので止めて貰えると…。」
「事実だろうが。ふふっ、…まぁそんなお前を見て俺達も休もうと思えたんだがな。」
熟睡していた部下はそれを聞いて慌てるのだが、恥ずかしくなったのかだんだんと言葉が弱くなっていった。
ミゲルはそう言いながらも軽く笑っていた。
領地に住んでる人々の大半は、ミゲル達がダイニングに入って来た事で緊張していた。
しかしミゲルと部下のやり取りを見て少し緊張が解れたのか、あちこちからくすくすと軽い笑いが聞こえる様になる。
「皆さん落ち着いたみたいですし、一先ず食べる事にしましょうか。いただきます。」
『いただきます。』
凛や席に着いたミゲル達以外の全員がそう言って食べ始める。
因みに今日の朝食は半分に切って重ねたトーストとミックスベリーのソースをかけたヨーグルト、コーンスープ、オークの肉を使ったベーコン、ハーピィの卵を使ったオムレツを3分割した物、綺麗に盛られたサラダだ。
ミゲル達は今も目元以外を布で覆った様な衣装のままで周りの様子を見ていた。
しかし皆が美味しそうに食べる様子を見て毒気を抜かれたのか、或いは食欲に負けた様だ。
暗殺者の1人が黒い頭巾の様な物を外し、恐る恐るトーストを掴んで食べ始める。
ミゲル達はその様子を固唾を飲んで見ていたが、最初の1人が続けて食べ進んで行った為次々と他の者達も食べ始めた。
しかしスペースの真ん中に座ったミゲルだけは抵抗があるのか、中々食べようとしなかった。
「隊長が要らないのなら俺が頂きます。」
「じゃあ俺も。美味いと思った喫茶店よりも味が上ですし。」
「待て!それは俺…あぁもういい、私の分だ!お前達は既に食べたから良いだろうが!」
そうこうしている内にミゲルの朝食へと両隣にいる部下からそれぞれ手が伸びて来た。
ミゲルはそれを両手で払った後、もどかしくなったのか頭巾の様な物を外す。
そこに現れたのは女性の顔だった。
『!!』
「隊長…男性かと思ったら実は女性だったんですね。」
「驚きました…。」
「(はぐはぐ)ふぉうはよ。ふぁふふぁっふぁふぁ。」
「隊長、食べながら話さないで下さいよ…。そういやこの野菜のやつ…サラダでしたっけ?やたら綺麗に盛られてますが誰が用意したんですかね?」
「私だが?」
「ぶふぉっ!?ゲホッゲホッ!!」
「ちょっ!!隊長汚っ!?俺だって驚いてるんですよ!何であの見た目であんなに綺麗に野菜を盛れるんですか!!」
「…私は褒められてるのか?」
暗殺者達は驚き、ミゲルの両隣にいる部下がそれぞれそう言った。
ミゲルはトーストを口いっぱいに頬張ってそう言った為、ミゲルの左隣にいる部下は困惑しながらそう答える。
部下は続けてサラダを右手の人差し指で指差してそう尋ねると、猛がそう言った。
ミゲルは少し左奥にいる猛をちらっと見ると盛大に吹き出した後にむせてしまった為、部下は慌ててそう言った。
猛はサラダだけなら作れる様になったのだが、真面目で几帳面な性格な為か作品みたいに綺麗な見た目になる様だ。
ミゲル達は綺麗に盛られたサラダがまさかこんなにがたいの良い男が作ったとは思っていなかったのか、猛が作ったと聞いた後に少し顔色が悪くなった。
猛は首を傾げながらそう言ったのだった。
朝食を摂る事で露になった暗殺者達は年の頃が20~30代の男性で、中には犬耳や猫耳を生やした獣人もいる様だ。
ミゲルは年の頃が25歳。
少し茶色がかった金髪のショートボブの髪型をしたクール系のお姉さんと言った風貌をしている。
「中性的な声だなぁとは思っていましたが…女性だったんですね。」
「…さっきは悪かった。小さい頃に親の借金の形に組織に売られて以降、女だと思って舐められたく無かったから私も必死だったんだよ…。それで、私達はこれからどうなるんだ?」
「いえいえ、そうだったんですね…。昨日話した通り、サルーンの近く迄送ろうと思っています。出来れば貴女達にここへはもう襲って欲しくないなとは思っているんですけどね。」
「私達だって好きであんたを襲おうと思ってここ迄来た訳じゃ無い。私達は組織の一員だからな、依頼主の要望には応えないといけないんだよ。…なぁ、相談があるんだが良いか?」
ミゲルが女性だった事は暗殺者達だけで無く、凛達も衝撃を受けた。
一通り皆が食べ終わって食休みに入る。
凛がそう言うとミゲルは寂しそうな表情になり、その後それぞれそう言った。
「相談?」
「ああ。このまま向こうに戻ってもいずれ私達は消されるだろう。今迄沢山の人を殺めて来た私が言う事では無いが、ほんの少し見ただけでもここの雰囲気は温かく素晴らしいものだと思う。今回の襲撃の失敗の責任を負うのは隊長である私だけで充分だ、私だけサルーン…そして王都に戻ろうと思う。こいつらは戦死した事にするから、悪いがここに置いてやってはくれないだろうか?」
凛がそう尋ねると、ミゲルはそう言ったのだった。