159話
ミゲルは最初ルーカスが叫んでいた事に興味がなかった為、その後もルーカスの発言を放置していた。
しかしライアンがルーカスに興味を持った事でミゲルはライアン達の話に意識を向ける様になり、凛が目標の人物、或いはその人物の関係者である可能性が高い事が分かった。
ミゲルは早速自分達が借りている宿へと戻り、同じ宿で部屋を1人で借りているマルクトへ顛末を話す。
「そうか。紅葉と言う者がサルーンから来たと聞いたから探していたんだが、まさかそんな所にいるとはな。…おい、ミゲル。貴様は門が閉まって外に出られなくなる前に部下を連れて外へ出ろ。そしてそのまま死滅の森入口付近で待機し、完全に寝静まった頃を見計らって奴らを襲うのだ。」
「はっ。」
報告を聞いたマルクトは少しの間部屋の中をぐるぐると歩きながら考え事をしていた。
マルクトはやがて歩くのをぴたりと止め、未だに部屋に入ってすぐの所で跪いているミゲルへと向かってそう言うと、ミゲルは返事をしてから立ち上がり部屋を出て行った。
ミゲルはあまりに大人数だと門番に怪しまれると思い、自分を含めた6人で向かう事を決めて森へ向かう為の準備を行う。
その後、門番に少し怪しまれたものの、ミゲル達はサルーンの南門から外へと出る事に。
「そこにいらっしゃる方々に通告します。その塀から先は私有地となっており、許可なく立ち入る事を禁止としています。それでもこちらへと向かわれる様でしたら敵対行動と判断し、捕縛させて頂きますのでご理解下さい。」
「(気配を殺して近付いたつもりだったんだがな。それに俺だけじゃなく、部下のこいつらの事も気付いている、か。…仕方ない)行け。」
「…敵対行動と判断、捕縛します。イプシロン。ゼータ。」
「「了解。」」
ミゲル達は森に入ってすぐにフード付きのローブから黒ずくめの衣装へと着替え、食事を商店で買った携帯食料で済ませた後、気配を消してゆっくりと森の中を進んで行った。
そして凛の領地まで残り50メートル程と言う所で、その先にいるアルファがイプシロンとゼータを伴い、ミゲル達に向けて通告を行う。
ミゲルはアルファ達が常時サーチを展開している事を知らない為、極力気配を殺して進んでいたのにも関わらず、何故アルファ達に自分達の存在があっさりと認識されたのかを疑問に思った様だ。
しかしミゲルはここまで来て引く事は出来ないと判断し、部下へ指示を出した後、自分も領地へ入ろうとして動き始める。
対するアルファ達も、ミゲル達が動いた事で臨戦態勢に入った様だ。
暗殺者達はミゲルの合図で素早く塀と塀の隙間から領地に入った後、Vの字を描くようにして隊列を組みながら領地を走り、そのすぐ後ろをミゲルが付く形で進んで行った。
先頭を走る暗殺者がアルファ達の方へ向かいながら、太ももの付け根に用意しておいた針を両手にそれぞれ4本ずつの計8本掴んだ後、前方にいるアルファ達へ向けて放つ。
その針には先端に猛毒が仕込まれており、今も先頭を走る暗殺者は、今放った針で多少なりとも隙が出来ると思っていた。
「無駄です。」
ブォン
「…!?(馬鹿な!!さっきまで手には何も持っていなかったじゃないか!…と言うか目の前に浮いてる鉄の板みたいのは何なんだ!?)」
しかしアルファは先程まで手ぶらだったにも関わらず、右手にはいつの間にか(風の魔力を纏わせた)大剣が握られていた。
そして大剣を両手で横向きに持った後、両手で団扇を扇ぐ様な動きで大剣を大きく横に振る。
それにより突風が発生し、投げた針が明後日の方向へと飛んで行っただけではなく、暗殺者達の動きを阻害する程の激しい向かい風となった。
更にアルファはその隙にシールドソードビットを6基展開し、ミゲル以外の暗殺者達のすぐ目の前の位置で止めていた。
暗殺者は急に吹いた突風によりよろけた為、一旦顔の前に手をやる等して視界を遮ってしまう。
その後、風が止んだ事ですぐに顔を上げるのだが、その時には既にすぐ目の前の位置にシールドソードビットがあった為、目を見開た状態で内心非常に驚いた様子となっていた。
その為、ミゲル以外の暗殺者達は目の前にあるシールドソードビットを警戒してか、その場から動けなくなってしまう。
「(ちっ、変わった戦い方をする!)せめて俺だけでも!」
ミゲルは少し後方にいた事で少し離れていたのと、顔を背ける事なく目を細めて見ていた為、アルファがシールドソードビットを展開していた様子を見ていた。
ミゲルは内心悪態をつくもののすぐに気持ちを切り替え、そう言って隊列の左から抜けようと走り始める。
「させません。」
「………。」
「なっ!?浮いているだと!?くっ…。」
しかしミゲルの5メートル程前の所にイプシロン、イプシロンのすぐ後ろにはゼータが配置されており、共に地上から少し浮く位の高さの状態でイプシロンがそう話す。
更にゼータに至ってはすぐにでも弓を発射する構えでいた為、ミゲルは驚いた後に走る事を止め、そう言ってその場で項垂れる事になるのだった。