158話
時は更に8時間程前に戻る
ルーカス達は死滅の森に入り、真っ直ぐ凛の領地へと進んで来た結果凛と知り合う事になった。
凛の領地に住んでる者達が力を付けてきた事で、ある程度の者達が領地の周りにいる魔物の討伐が可能となった。
凛は安全の為、領地周辺の魔物の討伐を行う時は4人以上のパーティーで組む事と決めている。
それでも毎日10以上のパーティーが領地周辺の魔物の討伐を行っている為、領地から半径5キロ圏内は魔物が少ない傾向にある。
それとルーカス達は木を見に行く事が目的で死滅の森に入った為、元々少なくなっている魔物の討伐を行わず避けて進んでいた。
しかし反対に帰る時は目的が済んだ事と、森林狼やバトルマンティス、オークがそれぞれ1~2体ずつと出て来る魔物が少なかった為自分達でも討伐が可能だと判断する。
その途中、オークと戦っている時に(凛と美羽が領地の周りに塀を建てていた為)軽く揺れた気がしたが、気のせいだと判断されオークとの戦闘を続けた。
ルーカス達は討伐した場所で森林狼達を解体し、お金になりそうな部分だけを持ち帰る事に。
持ち帰った素材を全てサルーンの冒険者ギルドで売ると数日分の宿代と飲み代になり、ルーカス達はほくほく顔になる。
その後宿に戻って荷物を置き、公衆浴場で汗を流して再び宿へと戻って昼食と凛から貰った桃を食べる。
ルーカス達は桃をしっかり堪能した後、宿で少しゆっくりする事に。
そして夕方4時頃になり、皆でお酒を飲もうと酒場へ向かう事になった。
「いやーそれにしても凛さんが本当に良い人で助かった!あんなに可愛いのに人当たりが良くて人望があるとか凄すぎだぜ。貰った桃もこの世の物とは思えない位美味かったしな!」
仲間内で乾杯をしてから30分後、酒もツマミも美味くて機嫌が良くなったのかルーカスがそう言った。
「…へー。良かったらその話、詳しく僕に教えてくれないかな?」
「…え?なんだいきなり…ってあ、あんた、いえ貴方はもしかして…。」
「ああ。アウドニア王国でただ1人の魔銀級冒険者、ライアンさ。」
そんなルーカスのたまたま近くで食事をしていたのか、立ち上がったライアンがルーカスの肩にぽんと手を乗せてそう言った。
ルーカスは折角良い気分で呑んでいたのにと言いたそうな不機嫌な表情で相手の事を見るが、直ぐにライアンだと気付き慌てて言い直す。
ライアンは頷いてそう言った。
ライアンは相変わらずロイドやルル達に飲まされては潰される(ゴーガンが自分に近い強さになった事とルルがエルダードワーフになった事で更に強制される様に)生活を送っている様だ。
それでもやり始めた当初よりはお酒に多少免疫がついた事と、深夜に空腹で起きる事があるので少しでもお腹を膨らませよう(結局は戻すのだが)と考えた様だ。
ライアンは最近、午後4時頃から夕食の様な形で酒場で食べる様になった。
「やはりライアン様でしたか…。ですがどうしてライアン様は王都では無く、ここにいるのですか?」
「ちょっと人探しをね…。」
「! その探してるって人ってもしかして…。」
「そう。丁度話に出ていた凛君の事だよ、可憐なお嬢さん?」
ルーカスがおずおずとしてそう尋ねると、ライアンは少し寂しげに言葉を返す。
イライザがはっとなった表情でそう言うとライアンはにこっと笑いながらそう言った。
「そんな…可憐だなんて…。」
「「「(いや、お前可憐なんて言われる様な性格してないだろ!!)」」」
「皆、どうかしたの?」
「「「いえ、何でも無いです…。」」」
イライザはライアンから可憐だと言われた事でしおらしくなり、顔を赤らめてもじもじとしながらそう言う。
ルーカス達3人は信じられない物を見た様な表情になり、内心そう思いながらイライザを見る。
そう言ったイライザは笑顔なのだが、有無を言わせないプレッシャーが漂っている事に気付いた3人はそう言って黙るしかなかった。
その後、ライアンはルーカスから凛の居場所を聞き出す為に少しでも仲良くなろうと色々な話をする。
その中で王都の鍛冶ギルドで凛が見せてくれたベヒーモスを少し誇張して話した所、ルーカス達は非常に良い食いつきを見せた。
「サルーンのギルドマスターが言ってた通り、凛さんは本当に強いんだな!!」
「そうだね。余計な傷を付けずにベヒーモスの首だけを一刀両断、あれには流石の僕もお手上げだと言わざるを得なかった。」
「凛さんすげぇ!!」
「そうなんだよ。凛君のおかげで僕も新たな目標が出来たんだ。それで凛君にお礼を言いたいと思ってサルーンを探し回っているんだけど、中々見付からなくて少し困っていた所なんだよね…。」
ルーカスは尊敬の眼差しをライアンに向けて話を聞いていた。
ライアンは少しわざとらしく体を動かしてそう話す。
「そうだったんですね…。凛さんはサルーンから真っ直ぐ南に進んだ所にいました。俺達と会った時は他にサルーンの冒険者ギルドのマスターと街の長、それと美羽って言う物凄く可愛い子がいました。」
「そうなんだ、教えてくれてありがとう(ふふ、美羽ちゃんもそこにいるんだね)。」
ルーカスを含む、虎狼の牙4人全員がライアンを哀れに思った様だ。
4人は互いに目配せを行った後に頷き、代表でルーカスがそう言った。
ライアンは申し訳無さそうな表情でルーカスへお礼を言うのだが、内心ではそう思いながらほくそ笑んでいた。
ライアン達がいるテーブルの隣の隣のテーブルでは、マルクトの護衛隊長であり暗殺者の隊長でもあるミゲルが座って軽く摘まみながら周りの話し声に聞き耳を立てて情報収集をしていた。
ミゲルはルーカスが来る前から酒場に来ており、当然ライアン達の話も聞こえていた。
ミゲルはマルクトからベヒーモスについて聞いており、商業ギルドとは別にもう1体のベヒーモスについても存在が明らかになっている事も知っている。
ライアンの話を聞いた後、凛と言う人物は商業ギルドで披露した紅葉の関係者だろうと判断する。
「…そうか。死滅の森…、そこに目標の人物がいるんだな。」
そしてミゲルはそう呟いて立ち上がり、酒場からいなくなるのだった。