155話
「お待たせしました。こちらがカルボナーラ、こちらがミートソースのパスタですねー。」
「お前…またそれ頼んだのかよ。」
「好きだから良いじゃない!あっ、ありがとうございます。」
3日前にオープンした麺料理屋は、片方をパスタを中心とした麺料理を提供している。
こちらの店は少しお洒落な雰囲気となっており女性や若いカップルに人気だ。
今もメイド服を着た従業員の女性が届けた(オープンして3日連続で頼んだ)カルボナーラを見て、男性は呆れた表情になりながら女性を見てそう言う。
女性はムッとした表情になって反論し、その後従業員へお礼を言う。
「(くすくす)いえいえ。こちらのカルボナーラは女性に人気なんですよ。」
「ほらーっ!カルボナーラを注文するの私だけじゃ無いじゃない!」
「分かった!分かったから!恥ずかしいから止めてくれ…!」
「あっ!ごめんなさい…。」
「ふふっ。「すいません!注文良いですかー?」はーい!直ぐにそちらへ向かいまーす!それじゃ、ごゆっくりどうぞー。」
「「はい…。」」
従業員はくすくすと笑いながらそう言うと、女性はがたっと立ち上がりながらそう言った。
男性は女性を宥めながらそう言うと、女性は男性に言われて周りから見られている事に気付いて恥ずかしくなった様だ。
女性は顔を真っ赤にして座り直してそう言う。
従業員は他の客からの注文が入り、そう言って茶色のポニーテールを揺らしながら離れる。
しかし2人はそれどころでは無かった為、黙って食事を行い足早に帰って行った。
パスタ屋の隣は拉麺、うどん、そばを中心とした武骨な雰囲気の店となっていて、こちらも3日前にオープンした。
豚骨を使ったメニューは無いが醤油、味噌、塩をベースにしたスープの麺料理やチャーハンや餃子、天ぷら等を提供している。
こちらは他の食事処よりも少し安い値段にしている為、冒険者の男女や力仕事を行う男性を中心に人気となっている。
そして今日からはカレー屋とご飯屋(ご飯とご飯に合うおかず、丼を中心としている)がオープンとなっており、どちらも長い行列が出来ている。
カレー屋はコ○壱の様に辛さや量、トッピングの具材を選び、それらを組み合わせて注文を行う。
カレーの惹き付ける香りが店の周辺一帯に漂っている為、列に並んでる人達も含めてお腹が鳴る音が鳴り止まなかった。
これにより更に行列が長くなってしまった為、急遽外にもテーブルと椅子を設ける事になる。
しかし夕方になっても行列が続いてしまった為、追加で応援を呼び並んでる人達に今日だけ立ち食いで我慢して貰うと言う事で一気に捌いた。
ご飯屋は少し値段が高いが、ご飯の炊き方に拘っている。
客はご飯の存在を知らない人が結構いる為、本物そっくりに作った茶碗に盛られた状態のご飯のサンプルを見て茶碗一杯銅貨3枚(喫茶店では銅貨2枚)と言う値段にまず驚く。
しかし折角来たからとご飯メニューの中で1番安いご飯(並)を注文し、届いたご飯を食べて広がる香りと味に更に驚くと言った光景をよく見掛ける。
しかし以前行った試食や喫茶店のメニューにもある海鮮あんかけチャーハンやご飯を食べた事がある人はある程度分かっていた(とは言えご飯屋の方がご飯の味が上)ので、ご飯では無く丼を頼むと言う客が多かった。
ご飯屋ではおにぎりの持ち帰りが出来る会計がある為、食べ終わった後に買って帰る客が結構いた様だ。
今日オープンしたカレー屋やご飯屋、それと3日前にオープンした麺料理屋へはメイド服に身を包んだ女性達が、数日の間各店2、3名ずつ応援に向かう様にしてある。
このメイド達はトーマスの部下で今はホズミ商会にいるカリナ(サルーンの隣のダライド帝国にあるスクルドと言う街から帝国に嫌気がさして移住して来た22歳の女性)が、ポータルを設置している王都やソアラ等の奴隷商へと向かって購入し接客が出来る様になる迄勉強して貰った奴隷達だ。
カリナは面接の時に応募した者の1人で、最初は商店に勤めていた。
真面目な性格で実力を認められ、トーマスを補佐する幹部となりその後ホズミ商会へと勤務先を移す。
カリナは凛の加護を得た事で銀級の一歩手前に迄強くなっている。
凛はサルーン内に商店や喫茶店を各3店舗ずつ展開したかった為、ポータルを使って王国各地に赴いての人材確保をカリナに頼んだ。
因みにサルーンの奴隷商へはマーサに会う事も兼ねてトーマスが赴いている。
トーマスとマーサが話をしている光景を見た者曰く2人共良い雰囲気だったそうだ。
メイド達は購入された後、屋敷組(現在はコーラルが代表で、何故かナナが副代表らしい)に一旦預けられる事になる。
「凛様!梓ちゃんばっかりズルい!私も強くなって皆の役に立ちたいのに!!」
「凛様ごめんなさい…。この子昨日からこんな調子で全く機嫌が直らないのよ。私も気を付けるし、この子も屋敷で頑張ってくれている様だから凛様の加護を与えては貰えないかしら?」
「うーん…。ナナもコーラルと同じく頑張ってるのは知っているんだけどね。1人で森に行く等危険な行動をしたら加護を取り上げる、それでも良いなら加護を与えるよ。」
「それで良い!凛様お願いします!」
5日程前にナナは同じ位の見た目の梓が戦闘組にいる事が切欠で、自分も戦ってみたいと物凄くごねる様になってしまった。
母親であるニーナのフォローもあってナナも凛の加護を与えられる事になったが、凛がそう説明するとそう言って勢い良く頭を下げる。
「分かった。ナナ、あまりお母さんを困らせないで、これからもしっかり頼むよ。」
「えへへ♪ありがとー凛様♪大好き!」
凛はそう言ってナナの頭を撫でながら加護を与える。
ナナは気持ち良さそうにした後、凛へと抱き着いてそう言った。
その後ナナは凛の加護を得た事で訓練に参加する様になる。
そして凛から余った魔素を与えられた為、見た目に反して身体能力も普通の大人より大分上となった。
「ここはねー、こうすると良いんだよー!」
「分かりました(何この子、物凄く手際が良いんだけど…)。」
今もナナが今日から入って来たメイド見習いに向けてそう言って皿洗いの指導をしているが、見習いはそう言いながらも内心は複雑の様だ。
新しく来たメイドの中には今回の様にナナに指導して貰う者もいるのだが、見た目は幼女なのに凄くてきぱきと皿を洗って行く様子のナナを見て吃驚するのだった。