144話
「(ありがとー!!それじゃ、仲間になってくれたお礼として先ずは傷を治して行くね!先ずは貴方から。)」
「(おいっ!いきなり両手を握…る…あれ、キマイラから噛まれて出来た腕の傷が…。)」
「(うん、まだ治っていなかったみたいなので回復させて貰ったよ。他にも怪我をしている仲間もいるみたいだし、聞いて貰っても良いかな?回復を希望するならボクが治すよ♪)」
「(ああ、分かった。)」
美羽は嬉しそうにしながらリザードマン代表の両手を握り、そのまま回復魔法のヒールを掛ける。
代表は4日前にキマイラに噛まれて出来た左腕の傷が治った事に驚いた。
その後美羽に促されて仲間に一通り説明してから回復して欲しい者を募る。
代表から話を聞いたリザードマン達はまだ半信半疑だったが、仲間達が美羽に回復されて行く様子を見てある程度警戒が解けて行った様だ。
回復が終わる頃には美羽の傍にいる者が何体かいた。
「(俺だけで無く仲間も治してくれて感謝する。それで、俺達はこれからどうすれば良いんだ?)」
「(今は直ぐ近くに魔物もいないし、この湖でゆっくりとして貰えれば充分かな?貴方達の事は予想外だったけど、ボク達は最近加わった子達の実践訓練をしにここへやって来たからね。)」
「(そうか、それなら仲間はここで休ませる。その間俺は邪魔はしないのでお前…いや、貴方様達に付いて行っても良いか?)」
「(勿論良いよー♪)」
美羽と代表は話し合い、代表が美羽達に付いて行く事が決まる。
代表は仲間達に自分は離れるのでその間は湖でゆっくりする様に伝えた。
以前凛達がベヒーモスを含む周囲の魔物を纏めて討伐を行った事で警戒されたからか、湖を中心に半径2~3キロ程の間にはほとんど魔物の姿が無かった。
美羽達は湖から少し離れるものの魔物がいる所へと赴き、ステラ達へと前回よりも少し強力な魔物の実践訓練を行った。
「ステラちゃん!いつの間にあんな強そうな魔物を倒せる様になったの!?」
「ん?デスグリズリーの事かな?僕は凛様から加護を貰っててさ、それのおかげで普通よりもかなり早く成長する事が出来るんだよ。他にも色々と便利な効果があるしね。」
「え、ステラだけズルいわ。私も凛様に加護を頂けないか聞いてみようかしら。」
「あ、私も私もー!」
ステラは最近練習しだした小太刀の二刀流で金級の強さを持つデスグリズリーの首を刎ねて倒した。
ステラは血振りを行った後に納刀した所を、ステラの事を尊敬した眼差しで見ていたキュレアに話し掛けられる。
ステラがそう説明すると、近くにいたリナリーが少し不機嫌になりながらそう言い、キュレアも加護が欲しいのかしゅばっと右手を挙げてそう言った。
「…かぁー!なんだいこの蠍!凄く硬ったいさね!!」
「それに力も強いだけで無く素早いし尻尾もあるのです。攻撃の回数が多くて中々攻められないのです…。」
ルルと梓はキラースコーピオンと戦っていたが、こちらはあまり状況が芳しく無い様だ。
今もルルが戦鎚でキラースコーピオンの胴体部分に攻撃するも、甲殻が硬いからか反動で手が痺れそうになり、ルルは危うく戦鎚を落とす所だった。
梓はそう言って少し辛そうにしているルルの前に立ち、キラースコーピオンの両手と尻尾の攻撃を大盾で防ぎなからそう言う。
「ルル、梓お待たせ。」
「遅かったじゃないか。この蠍はあたい達じゃ手に負えなくてさ、早く助けてくれないかい?」
「うん!」
「はーい!」
「分かったわ。」
その後3分程ルルと梓はキラースコーピオンと戦っていたが、キラースコーピオンは無傷だった。
反対にルルと梓はあちこちに傷を付け、疲れからか少し息を荒くしていた。
そこへデスグリズリーの他にも襲って来た魔物達を倒し、ルル達の元へとステラ達がそう言いながらやって来た。
ルルは疲労してはいるが嬉しそうにそう言い、ステラ、キュレア、リナリーの3人はそれに応える。
キラースコーピオンは先程迄優勢だったが、ステラ達が加わった事で一気に劣勢となり1分程で討伐された。
「(ステラちゃん、キラースコーピオンに止めを刺したのもそうなんだけど、もうすっかりあの5人のリーダー的な存在になってるよね。今もステラちゃんの周りに皆集まってるし、慕われてるのが分かるよ。)」
「(皆強いな…。それに見た目が違うのに仲の良さそうな所を見ると、先程の話も本当なのかも知れないな。…流石にあれに挑もうとは思わないが。)」
「(む?私の方を見ているがどうかしたのか?)」
「(いや、何でも無い。ベヒーモスってのはやはり強いんだなと思っただけさ。)」
「(そうか。)」
美羽はステラ達の様子を見てそう思った。
代表も同様なのだが、途中でステラ達から少し離れた所でキラースコーピオンやデスグリズリーを持っている大斧で一刀両断にしては次々に倒して行く猛を見てそう思った。
猛はステラ達の負担にならない様に間引いて欲しいと美羽から頼まれる。
了承した猛は前日の夜に凛が用意してくれた大斧『豪』を無限収納から出し、試し切りも兼ねて魔物の間引きを行っていた。
豪は魔力を込めなくてもキラースコーピオンを両断出来た事で、猛は凄い切れ味だなと内心思いながら豪を見ていた。
猛は背後から視線を感じた為、代表の方を向いて念話で尋ねるが、代表は首を振ってそう答える。
猛はそう言って再び間引く作業へと戻るのだった。
美羽達は午前10時、正午、午後3時頃になると湖へと戻って休憩を行う。
その度にリザードマン達にも料理やおやつを振る舞うのだが、リザードマン達は手持ちの食料が少なかったのと味覚が人間に近かったのか、何れも貪る様にして食べた後に感動していた。
「(…美味いな。これを味わってしまうと、これだけで今迄の暮らしに戻れそうに無いな。)」
代表は内心そう思い、この後も美羽達が切り上げる迄戦闘の様子を見ていた。
そして湖へと戻って来た美羽達は、来た時と同じく小屋に設置してあるポータルを使い、リザードマン達を連れて屋敷へと帰るのだった。