142話
翌日になり凛達は凛と美羽を隊長とする2つのグループに分かれ、それぞれ森の違う箇所にいた。
凛のグループ(暁、旭、月夜、小夜、藍火、クロエ、ライム、渚、それにハスターとなった翡翠と凛を加えた10人)は強い魔物を討伐する為に中層深部へと進んでおり、
美羽のグループ(ステラ、キュレア、リナリー、ルル、梓、それに美羽と猛を加えた7人)は渚達がいた湖を中心に討伐を行う事になった。
「ごめんお待たせ!それじゃ引き続き、気を引き締めながら行こうか。翡翠も進化したばかりなのに、付き合わせてしまってゴメンね。」
『はい!』
「あたしは大丈夫だよー!それに早速皆の役に立てると思うとやる気も出るしね!」
凛は行動を開始して直ぐにトーマスから助けを求める念話が来た為一時的にトーマスの元へ向かい、凛が不在の間は暁達に待って貰っていた。
凛のグループは森に来てからの戦闘は最低限だけ行い、それ以外は中層中部を足早に移動していた為、昼前に中層深部へと辿り着く。
「皆。軽く昼食も済ませた事だし、これから本格的な戦闘に入るよ。相手は強い魔物ばかりだから、決して無理をしない事。翡翠は僕と同じくサポートを中心にお願いね。」
『はい!』
「分かったー、早速生まれ変わった弓の出番だね!雫ちゃんには悪いけど、実はあたし今回の討伐を楽しみにしてたんだー!」
凛は皆へ気を引き締める様にしてそう伝えると、皆は真面目な顔でそう返事をする。
翡翠はフェイルノートに生まれ変わった弓を嬉しそうにしながら撫でてそう言った。
今回凛達がやって来た中層深部は深層へと近くなって来た事もあり、下位とは言えついに神輝金級の魔物も出て来る様になる。
魔銀級のキマイラロードが更に進化して毒蛇の頭、獅子の上半身、鷲の下半身、蠍の尻尾を持ち全長が10メートルを越える大きさとなったムシュフシュ、
グレーターサイクロプスが進化して3メートル程に迄身長が縮んでしまったものの、筋肉の密度や凶暴性がかなり増したジャガーノート、
それとドレッドノートと呼ばれる全長15メートル程の黒くて巨大な枯れ木の魔物が、その進化前のエルダートレントとトレント等の同系統の仲間を連れて襲って来た。
エルダートレントは金級上位の魔物で全長20メートル程で少し枯れた木、トレントは銀級の魔物で全長12メートル程の木の姿をした魔物だ。
凛達にはサーチがあるので判別出来るのだが、動かずにじっとしている姿は普通の木にしか見えない。
場合によっては木に紛れたり、或いは凭れ掛かる等して休んでいる所を襲ったりする様だ。
幸い戦闘のタイミングが重なる事にはならなかった為、それぞれ合計10体以上で組んで襲って来た所を倒して行った。
ムシュフシュはその巨体に似合わず凛に近い位に動きが素早かった。
その為ムシュフシュの相手は1番動きの早い凛が行い、そこそこ弱らせた所で藍火と代わりそのまま倒して貰った。
「主様が真っ先に尻尾を切っててくれたおかげで相手の攻撃手段が減って楽に倒せたっす。」
「この魔物は速度重視だからか動き回るのが主体みたいだね。同じく速度重視の僕と相性が良くて助かったよ。それに強くなってるとは言え、基本的な動きはキマイラと同じだったしね。」
凛と藍火は特に苦労しないで倒せたムシュフシュを見てそう言った。
ジャガーノートは身長こそ縮まったものの、深緑色となった体は筋肉の密度が非常に高くなり、刃物が通りにくくなっていた。
「(うーん、暁達の様子を見ていると外側からダメージを与えるのは難しそうだな。この魔物を一刀で決めるとなると相当な魔力を消費するだろうし…。仕方ない、少し時間が掛かるけど内側から攻めるか。)暁、僕が代わりに戦うよ。」
「凛様、申し訳ありませんが宜しくお願いします。俺達では時間が掛かりそうです…。」
凛は10分程ジャガーノートと戦っている暁、旭、月夜、小夜を見ていたが、刃物が体の表面に軽く食い込むだけで中々有効なダメージを与えられずにいるのを見て、暁へと自分が相手をする事を伝える。
凛は玄冬を構えずにジャガーノート同様に素手の構えを取る。
それからの凛は発勁の1つである浸透勁の様に、外側では無く内側の内臓を破壊しようとする。
ジャガーノートが放つ蹴りは避けるだけだが、拳に関しては繰り出そうとするタイミングで手に特殊な気と魔力を集めたものを生成し、避けた後にそっとジャガーノートの胸へ触れる様にして当てるを繰り返した。
それからは徐々にジャガーノートの動きが鈍くなって行き、3分程で血を吐いて倒れる。
しかしまだジャガーノートは諦めていないらしく、横になったまま凛へ手を伸ばそうとしていた。
それを掻い潜った凛はごめんね、と呟いて再び胸へと当てるとジャガーノートは苦しみだす。
その後仰向けになり断末魔を上げながら右手で胸を抑えて左手を空へ向けて挙げる。
そしてごぽっと口に貯まった血を吐き出すと、そのまま動かなくなった。
「凛様流石ですね。俺達はあのままでしたら、大分消耗しただけで無く相手の体もぼろぼろになっていたと思います。戦いは真正面で戦うだけでは無いのだと勉強になりましたよ。」
「暁、皆お疲れ様。いつか硬い敵が来るだろうなと思って準備はしていたんだ。良ければ暁も覚えてみる?」
「ええ、お願いします。」
「凛様、私も学んでみたいです。」
「分かった。明日から2人に教えるよ。」
「「宜しくお願いします。」」
凛以外の人達は既に戦いが終わっていた為、皆で凛の戦闘を眺めていた。
戦闘後に暁が凛の元へと歩きながら、傷はあるものの割と綺麗な状態のジャガーノートを見た後に凛を見てそう言った。
凛がそう言って暁に尋ねると暁だけで無く月夜も名乗りを上げる。
旭と小夜もやりたそうにしていたが、恐らく自分と相性が悪いと思い断念した様だ。
凛がそう言うと暁と月夜は凛へと頭を下げる。
「そう言えばこのジャガーノートって、なろうと思えば暁達もなれたんだよね?」
「ええ、そうなりますね。ですが縮んだとは言えこの大きさですし、決して良い見た目とは言えません。とてもではありませんがなりたいとは思わないですね…。それに紅葉様が妖鬼から鬼姫、そしてその次へと進化する事に何か意味があると思い、俺達は紅葉様の様に妖鬼となりました。残念ながらこちらは鬼神で終わってしまいましたが、決して後悔等してませんよ。」
「だよね…。変な事聞いてゴメン。」
「いえ、気になさらず。鬼神よりもジャガーノートの方が強さが上なので凛様が不思議に思う気持ちも分かります。もし凛様や紅葉様がいらっしゃらないで上手く生き残れていたとしたら、もしかしたらジャガーノートになっていたのかも知れませんね。」
「うん、ありがとう。そうだね、暁達だけでも救えて良かったよ。」
「俺達も凛様に救われて良かったと思ってますよ。」
その後凛は鬼神は魔銀級中位なのにジャガーノートは神輝金級下位の強さを持つ事を不思議に思ったのか、少しの間暁と話をする。
話の最後に暁は凛へと向けてにっこりと笑いながらそう言うのだった。
ドレッドノートはジャガーノートと同様に、大きさこそ縮んでしまったものの硬く強くなっていた。
しかし見た目通りの濃い茶色をした枯れ木の魔物だからか、高温の炎を扱える藍火と相性が良かった様だ。
「藍火、この魔物を燃やすと周りの木に移るかも知れない。ここはあの技を使い、一点突破で倒すんだ!」
「分かったっす!行くっすよー!…藍火キィーーーックっす!!」
ドレッドノートは両腕に見える枝や根を伸ばして攻撃をするも、藍火の蒼い炎を纏った部分龍化した手でいなされたり反撃を受けていたので攻めあぐねている様だ。
凛は藍火が有利な内に倒してしまおうと考えた様で、藍火に発破をかける。
藍火は返事をした後に一旦距離を取り、ドレッドノートの方を向きながらやや後方の空中へと跳んだ。
そしてある程度空中に浮いた所で天歩を使い、天歩を壁の様にしてぐぐぐっと反動をつけて勢い良くドレッドノートの方へと跳ぶ。
そこから蒼い炎を纏わせた右足を突き出し、まるで○イダーキックの様な構えを取る。
藍火の蹴りはドレッドノートの中心部分に当たり、ドコォォンと音を立てて直径1メートル程の丸い穴を開ける。
ドレッドノートは後方へゆっくりと倒れて行き、そのまま動かなくなった。
藍火は美羽にぼっこぼこにされてから少し経った頃に今の様な蹴り技を思い付いた。
藍火は当時蒼炎龍だったのでブルーフレイムキックと名付ける。
しかし藍火は蒼紅炎龍に進化したので技の名前を変更しようとも考えたが、再び進化したらまた変更しなければならないのかと少し面倒になった様だ。
「そうだ!自分の名前を技の名前に組み込んでしまえば変更しないで済む様になるっす!!自分、冴えてるっすね!」
藍火は蒼紅炎龍に進化した後も、そのアホっぷりは健在の様だ。
そう言った経緯もあって凛や翡翠のサポートで魔銀級の魔物を中心に、出て来ては襲って来る魔物の討伐を行っていった。
そして夕方になる迄に藍火、クロエ、ライム、渚が進化出来る様になるのだった。