141話
「行けっ、苦無達!」
「…ステラ、やっぱりファン○ルミサ○ルって叫ばないのかしら?最初の頃そう言ってあんなに楽しそうに訓練していたのに。」
「止めてー!僕が悪かったからー!もうその事は言わないでー!!」
「? そう、分かった。ステラがそう言うなら止めるわ。」
「(ここにも黒歴史が…。)」
ステラは両手にそれぞれ4本ずつの計8本の苦無を掴んだ状態で無限収納から出した。
ステラはその掴んだ苦無に魔力を付与し、少し遠くから武器を構えてこちらに向かって来ようとするレッサーオーガ数体へと向けて投げる。
その放たれた苦無はステラによって操られ、レッサーオーガの喉や心臓等の急所へと深く刺さり、次々と倒して行った。
リナリーはステラが来て直ぐの頃に、今とは違う叫び声を上げながら楽しそうに訓練していた事を今でも覚えていた様だ。
リナリーはステラが苦無を投げる様子を見て不思議に思ったのか、何故言わなくなったかをステラへ尋ねた。
ステラはそう言って凛から用意して貰った黒い忍装束からはみ出た黒い猫耳を塞いでしゃがみ込み、いやいやと首を左右に振る。
リナリーは何故ステラがその様な行動をするのかが分からなかった為、首を傾げながらそう言った。
凛はそのやり取りを見てステラに同情してしまう。
ステラが仲間になった次の日から訓練に参加して貰ったのだが、凛の予想通りイータ達の中でもステラはイオタ、ニュー、クスィーに興味を持つ。
特にクスィーはステラと同じ苦無や手裏剣を扱い、遠隔操作で敵へと当てる戦いをする為ステラの戦い方にぴたりと当て嵌まった。
ステラは嬉々としてクスィーの元へと向かい、投擲の訓練を行う。
しかし訓練を始めてからあまりにもファ○ネルミサイ○と連呼しながら的へと向けて投擲していた為、凛は見兼ねてステラの元へと向かう事にした。
「ステラ。僕も最初ビットの練習をしていた時に似た様な事をしていたから気持ちは分かるんだけど、ここの人達は元が何なのかを知らないんだ。僕みたいに後で見悶えなくても済む様に、ステラも余計な事は言わない方が良いよ。」
「!? そうか、僕達にしか分からない事だもんね。ゴメン凛様。これからは気を付けるよ。」
「うん。けどさっきも言ったけど、ステラの気持ちは分かるよ?僕もこの間イータ達8体と全力で戦った時は凄くわくわくしたからね。」
「うわー!良いなー!!僕も凛様から加護を貰ったし、早く皆に追い付ける様にならなきゃ!」
「ははは…。」
「(ステラがさっきからずっと叫んでいた言葉って、何か意味があるのかしら…?)」
凛は真面目な表情でステラへ伝えると、ステラは理解したのかはっとなった後に耳と尻尾をぺたんと下げ、悲しそうにしながら凛へと言葉を返す。
凛はステラに気付いて貰えればそれで充分だった為、気分を変えようとしてイータ達のテストの時の事を話す。
ステラは羨ましいと思ったのか目をキラキラと輝かせ、黒い尻尾をふりふりとさせながら凛へとそう言う。
しかし凛は自分の加護と言う単語が出た事で苦笑いの表情となる。
リナリーはその2人の様子を少し離れた所からじっと見て、そんな事を考えていた。
その後も新たに戦闘組へと加えた5人を中心に森を探索を続けると、その途中で銀級の強さを持つ森林狼の群れが現れる。
「えい!なのです。」
その内の1体が梓へ噛み付こうとして向かって来た所を、梓は左手に構えた大盾で森林狼を抑える。
そして梓は可愛らしい掛け声を上げるのだが、それとは真逆の様なフォルムである金属の棒の先に棘状の金属の突起が付いた塊のメイスを森林狼の頭へと振り下ろし、森林狼を倒して行く。
梓は名付けによりランドドラゴンから金級中位の強さを持ち、上位龍であるグリーンリーフドラゴンとなった。
しかし梓は少し臆病な性格故か、凛が一通り武器を見せた際に迷わず自身を守る大盾を選ぶ。
「この大盾を構えて相手に突撃して倒すのです!」
「勢いが弱くて倒しきれなかった時とか、避けられたり防がれてしまった時はどうするの?」
「あ……。」
梓は最初自身の膝から肩まである大盾を両手で前に構え、ふんっと鼻息を荒くして自信に満ちた顔でそう言ったが、凛にそう突っ込まれると言葉に詰まってしまう。
その後色々試した結果右手にメイス、左手に先程よりも一回りだけ小さくした大盾と言う形で落ち着いた。
梓は見た目は小さな女の子だが、その見た目に反して5人の中で1番力が強い。
その為複数の魔物の突進を大盾で防ぎ、その隙を狙ってキュレア達が攻撃して倒して行く事も何度かあった。
「梓ちゃん頑張ったねー!」
「本当よね。こんなに可愛らしいのに、実はドラゴンだなんて普通思わないわよ。」
「そうそう。梓ちゃんも僕達のパーティーに加えたい位だよねー!」
「あんた、ドワーフのあたいより小さいのにやるじゃないか!」
「恥ずかしいのです…。」
凛は雫と翡翠を出迎える為に一足先に屋敷へと戻る。
凛がいなくなった後も美羽を隊長とし、夕方になる迄討伐を行っていた。
そしてそろそろ帰宅時間となる為帰ろうとする所でキュレア達が梓の元へと集まり、大盾で沢山の魔物からの攻撃を防いだ梓を労ったり頭を撫でたりしていた。
梓は勿論嬉しいのだが、それ以上に褒められ慣れていなかった為か恥ずかしそうにしながら撫でられていた。
美羽達はその様子を微笑ましく見ていたのだった。