140話
訓練を終えてそれぞれの行き先へと向かった後、凛達は死滅の森の中層中部…ではなくかつて渚達が住んでいた湖から北に向かった、表層に近い中層にいた。
この日から猛だけでは無くキュレアとリナリー、ステラ、梓、それとルルにも戦闘組に加わって貰う事に。
今回加わった全員が銀級(梓は名付けた影響で既に金級だったが)の強さになったので、凛は火燐達が休んでいる今の内に少しでも強い魔物に慣れて貰おうと考えた為だ。
キュレア、リナリー、ステラ、梓の4人にはサルーンと死滅の森の間の平原にて暫く実践も兼ねて魔物の討伐をして貰っていた。
その後ルルを加えた5人で領地に入って来た魔物を倒し、アルファ達のいずれかに一緒に付いて来て貰いながら領地の周辺の魔物の討伐を行って来た。
因みにニーナ達幹部は銀級上位に迄凛の加護で強くなったのもあり、ストレス発散がてら領地内や近辺の魔物を討伐していたりする。
しかしルルは領地内にあるお酒の製造所の様子も見なければならない為10時、お昼、おやつの休憩時間を少し伸ばして領地へと戻り、お酒の様子を見に行く為の時間を設ける事にした。
「リナリーちゃん!何だか私達、凄く冒険してるって感じがするね!」
「ふふ、そうね。でも今迄が平原だったり、領地の中や領地が見える所での戦闘だったからそう思えるだけなんだろうけど…。それよりキュレア、私達2人がこの中では1番下で足を引っ張るのだから、貴女も気を引き締めないと駄目よ?」
「分かってるって~。もうっ、リナリーちゃんは真面目なんだからぁ!」
「はぁ…。(本当にこの子分かってるのかしら?)」
キュレアは目をキラキラさせながら両手をそれぞれ握って胸の前にやり、隣を歩くリナリーへと向かって興奮気味にしてそう言った。
リナリーは少し笑った後に真面目な表情になってキュレアへそう言うも、少し楽観的なキュレアはもう、やだわ~とおばちゃんみたいなリアクションをリナリーへ向けながらそう言った。
リナリーは溜め息をつき、内心そう思いながらキュレアへと白い目を向ける。
「キュレア、リナリー、2人共どうかしたの?」
そこへ最近、キュレアとリナリーの2人と一緒に組む事になったステラが前方からやって来てそう言った。
「ステラ、ここに来たばかりで悪いんだけど、キュレアとリナリーって女の子とパーティーを組んで貰って良いかな?ステラとは同い年だし話が合うと思う。それにあの子達は自分達がよそ者だって思ってるみたいでさ、ちょっとよそよそしい所があるから見てられなくってね…。」
「そうなんだ。でも僕で大丈夫なのかな?」
「大丈夫だと思う。あの子達、よく一緒にいる僕や紅葉達とかでも少し気を遣っちゃうみたいなんだよね。僕とステラが普通に話す所を見て少しでも緊張感を軽くして欲しいなって思ってさ」
「分かった、やるだけやってみるよ。」
「ありがとう、宜しく頼むね。」
ステラが加入したその日の夕食後に凛に呼ばれ、凛はステラにキュレアとリナリーと一緒に行動する様にと言われた。
そしてステラは同い年なのもあってか直ぐにキュレアとリナリーと仲良くなる。
しかしステラは外見は女の子だが内面は男性だ。
「ステラちゃん、私達折角仲良くなったんだし一緒にお風呂に入ろっ♪」
「(しまった!女の子同士が仲良くなるって事は当然こうなるよね!?)…うーん、折角のお誘いだけどまだやる事があるんだ。僕は後で入るから、2人は先に入って来なよ。」
「あら、そんなの後で良いわよ。取り敢えず一緒にお風呂へ行きましょ?」
「そーそー。後で良いの良いの♪」
「(えええええ!?ちょっ、まだ心の準備が出来てないんだけど!!ってか2人共力強っ!?)」
キュレア達と話をし始めて2時間近く後の午後9時にステラが自室にいると、風呂の用意をしたキュレアとリナリーの2人に、一緒に風呂に入ろうと誘われる。
ステラは女性の裸を見慣れていなかったのと、最後にゆっくりと湯船に浸かろうと思っていた為、ステラとしてはこの出来事はかなり予想外だった様だ。
ステラは生前男性だった上に、こちらの世界で唯一見た女性の裸が母親のみだった。
ステラは今日見知ったばかりの、それも同年代の女の子の裸は見た事が無かった。
なのでキュレア達と一緒に風呂に入る事に抵抗があったステラはその申し出を断る。
しかしキュレアとリナリーは同い年の人間(実際はステラは獣人だが関係無いらしい)でこれからパーティーを組むステラと親睦を深めたいと思った様だ。
リナリーがステラの右手と適当な服を、キュレアがステラの左手を掴み、それぞれそう言いながら女性風呂へ向かおうとする。
ステラは内心で非常に困惑している内に女性風呂へと着いてしまった。
未だに決心がつかないステラはキュレア達と一緒に恐る恐る女性風呂に入るも、中にいるのは勿論女性のみ。
なるべく周りの女性の裸を見ない様にするのだが、キュレア達は例え裸だろうがお構い無しにくっついて来たりする。
心は男性のつもりなステラは、周りが全員女性の女性風呂に耐えられなかった様だ。
急いで体を洗ってそのまま逃げる様に風呂から上がり、直ぐに凛へと相談しに行く。
「何のアドバイスにもならないんだけど、慣れるしか無い。僕も自分が男だって言ってるんだけど、未だに毎日誰かしら来るからあんまりお風呂に入った気がしないんだよね。1人でゆっくりお風呂に入りたいんだけどな…。」
「マジですか…。」
しかし何のアドバイスにもならない凛の意見を受けて、ステラは崩れ落ちた。
因みに凛はトイレが不要な為、男性の部分をナビに頼んで排除して貰っている。
それもあって男性女性共に、凛を男性だと分かっていても心のどこかで女性なんじゃないかと思っている者が結構いたりする。
ただし美羽を筆頭に何割かの女性(ナナやコーラルも含む)は、凛に対して純粋に好感を持っている。
彼女らは少しでも凛と仲良くなろうと一生懸命な為、凛が自室以外の屋敷にいる間以外は結構な頻度で女性に囲まれていたりする。
凛から全く参考にならないアドバイスを受けたステラは、努力はしてみたものの前世では主に男友達と遊んでいたのもあってかなり苦労していた。
それに対してキュレアとリナリーはステラが同性だからと安心しきっているのか、会ったり話をしたりすると必ずと言って良い程体のどこかに触れてくる様になる。
その度にステラは内心非常に困っていた。
凛からは言っても困惑されるだけで信じて貰えないからと口止めされているが、本当は自分は男なんだと言ってしまいたいと何回もステラは思っていた。
「ステラちゃん!ステラちゃん!リナリーちゃんとこれからが楽しみだなって!」
「私はそんな事言ってないわよ!!(はぁ…)ステラ、貴女からもこの子に気を引き締める様に言ってくれないかしら?」
そして今回も左肩の上にキュレアが両手を乗せて嬉しそうにピョンピョンと跳ねながらそう言い、リナリーもリナリーで困った表情になり、信頼しているからか話をしながらそっとステラの右手を両手で握る。
いつの間にかステラは3人の中でリーダー扱いになっている様だ。
「(ちょっ!2人共近い近い!!)…ははは、2人共相変わらずだね。リナリーが心配するのも分かるけど、肩に力を入れすぎてもダメだよ?反対にキュレアは少し気を抜き過ぎかな。だけど程々でならリラックスしても良いんだよね?凛様。」
ステラは内心焦りつつもなるべく平静を装って2人へとそう言い、先程迄一緒に話をしていた凛がステラ同様に前方からやって来たのでそう言った。
「そうだね、危なくなったら僕達が助けるよ。だから皆の戦いたい様にして貰って大丈夫だよ。勿論ルルもね。」
『はい!』
「分かったよ!」
凛がそう言うとキュレア、リナリー、ステラは元気良く返事を行う。
返事を行う為にキュレアとリナリーはステラから少しだけ距離を取り、その事でステラは内心助かったと安堵する。
ルルは持ってきた戦鎚を無限収納から出し、両手で構えながらそう言ったのだった。