139話
早朝訓練が終わり凛、美羽、エルマ、イルマ、月夜、小夜が料理を始めると、その後次々と料理が出来る人達がキッチンへと集まって来る。
「猛、僕達の事を見ているけど料理に興味があるのかな?」
「ああ、昨日食べさせて貰った物は初めての物ばかりでどれも美味だった!生前の時でもあそこ迄手の込んだ料理は見た事が無かったから感動したんだ。どうすればあんな料理が出来上がるのか興味があるな。」
「…ふふっ。昨日のは領地内で取れた野菜を使ったミネストローネや人参のドレッシングのサラダ、それと土竜の肉を少し細かくしたステーキや唐揚げ、それとサーモンと玉ねぎをマリネした物だったんだ。」
「名前を聞いても私には良く分からないのだが、それでも充分に凄いと思うぞ…。」
美羽と手合わせをした事で汗だくになった猛は、凛の案内で真っ先に浴室へと向かわせ、シャワーで汗を流して貰う。
その後湯上がりでまだ少し髪等が湿っており、白いランニングと半ズボンを着用し首にタオルを巻いた状態の猛は次々に料理を作っていく凛の事をじっと見ていた。
凛は猛に尋ねると、猛は昨晩の食事の事を思い出したのか少し興奮した様にして返事をする。
その様子を見た凛は何と無く猛に犬耳と尻尾が見えた気がして食欲旺盛なゴールデンレトリバーの様に思えてしまった。
凛はそれも相まって笑みを浮かべながら猛へそう言うと、猛は腕を組んで難しそうな表情になる。
「凛殿おはよう。そちらは前掛けしているが男性…だよな?一緒に何をしておるのだ?それにいつもより人が少なく見えるが…。」
「凛君おはよう。僕も見てて少し気になっていたんだ。」
午前6時になる少し前、凛は猛に黒いエプロンを用意して着て貰い、凛の指導の元で簡単な料理の盛り付けをしている所をやって来たガイウスとゴーガンが目撃する。
凛は2人にまだ猛の事を伝えていなかった為、凛の傍でがたいの良い男性がエプロンを着用して何かをしていると言う、凶悪な様なコミカルな様な絵面を不思議に思ったガイウスが凛へと尋ねる。
「あっ、ガイウスさんゴーガンさんおはようございます!そう言えば言ってませんでしたね、彼は猛と言って僕達の新しい仲間です。元々はベヒーモスでしたが名付けの影響で進化してベヒーモスキングになりました。猛は料理に興味がある様でしたので、軽く盛り付けの作業をして貰っていたんですよ。それと、人数が少ないのは進化に向けて休んでいるからですね。なので恐らくですが、今は休んでいる人のほとんどが神輝金級になると思います。」
「「はぁーーー!?」」
凛はパタパタとダイニングの入口へと小走りで移動しながらそう言うと、非常に驚いたガイウスとゴーガンの絶叫が辺りに響いた。
その後凛は2人から追求される事に。
「…全く。凛殿に不意打ちで驚かされて朝から疲れてしまったぞ。」
「ははは。まぁ良いじゃないか、凛君達が強くなる事はサルーンの安全にも繋がる事だしね。そう言えば凛君、猛君は何か武器を使ったりするかな?」
「あ、はい。猛もゴーガンさんみたいに大斧を気に入ったみたいですね。先程も楽しそうにしながら美羽と手合わせをしていましたよ。」
「ほう?イータ君も僕より強いと言うのに美羽君程の強さとは…。ふふ、この後の訓練が非常に楽しみだよ。」
ガイウスは大声で叫んでしまった事で疲れたり、恥ずかしくなった事もあってかげんなりしながらそう言った。
ゴーガンはガイウスを宥めつつ、新しく加わった猛の武器について凛に尋ねる。
凛がそうゴーガンへ伝えると、ゴーガンの戦闘狂の血が騒いだのか直ぐにゴーガンの目がギラッと光り、口元を緩めてながらそう言った。
「はははっ、やはり猛君は強いね!まだ大斧を使いこなせずに不慣れな所が多々あるが、それを補って余りある力!それに勘も良い!凛君達に稽古をつけて貰って少しは成長したと思っていたんだけど、こうも簡単に力負けするとは思わなかったよ!!」
「ふふ、ゴーガン殿も素晴らしいな。力こそ私が上だが立ち回りや斧の使い方は、非常に勉強になる!」
朝食後の訓練にて、ゴーガンと猛の2人は訓練用の同じ大斧で手合わせをしていた。
動く速度は少しゴーガンの方が上だが、力は圧倒的に猛が上だ。
ゴーガンは手合わせを始めてから幾度と無く猛へと攻撃を行うが、死角からの攻撃を仕掛けても猛の野生の勘が働いて簡単に避けられたり、そこまで力を入れていない様に見えるのに弾かれてしまった事で更にゴーガンに火が点いた様だ。
2人は一旦距離を置き、お互いにそう言った後に再び斬り結ぶ。
その後ゴーガンは切り札の大岩斬こそ放たないものの、魔力を用いて身体強化した全力の攻撃を猛に仕掛けたり大斧によるフェイントを行う様になる。
猛にとってはそれでも焼け石に水程度ではあるが、格下とは決して思えないゴーガンの鬼気迫る迫力を見てゾクゾクして来たのか自然と口角が上がる。
ゴーガンは凛達の訓練に参加する様になってから更に腕を上げ、魔素量こそ少し劣るものの実はライアンにも勝とうと思えば勝てる位に強くなっていたりする。
だがゴーガンにとってもはや冒険者階級に興味は無い。
それにもし魔銀級に階級が上がってしまうと今の様に気軽に朝食や訓練、それに夜の酒場に集まっての酒盛りへの参加がし辛くなる。
ゴーガンはそれを嫌がって少し前からギルドマスターの仕事を早く片付ける練習をしていて、そろそろ凛達に混じって数時間だけでも死滅の森へと向かおうか考えている。
因みにガイウスはこう見えて戦闘に関しては堅実な戦い方を行う。
その為ゴーガン程強くならず、現在は金級上位より少し下の強さとなっている。
「ははは、いやぁ実に楽しいね!」
「ふふふ、私もだ!」
「「ははははは!!」」
そしてゴーガンと猛と言う、2人の戦闘狂は訓練が終わる迄お互いにそう言って笑い合い、激しく斬り結んで行く。
その様子をガイウスを含めた周りの人達はドン引きしながら見て、凛と美羽は苦笑いを浮かべながら見ていたのだった。