137話
火燐達は猛の名付けにより座り込んでしまった凛を気遣い、凛の座った場所を中心にして周りの魔物の討伐を行っていた。
火燐と楓は紅葉達と合流し、少しでも安心して凛に休んで貰う為に、敵と判断した魔物の討伐をして行く考えで纏まる。
しかし魔物の討伐を行うにしても、皆で固まり一方向だけで進めてしまうと反対側から攻められた場合に対処が難しくなる。
その為、火燐と紅葉を隊長として戦力が大体半分ずつになる様に2つの班に分ける事にした。
そして火燐達を時計回り、紅葉達を反時計回りにして進み、合流しそうになると反転すると言うやり方で森を進んで行く。
猛は元々魔銀級上位のベヒーモスで、凛から名前を授かった。
その事で凛の魔素が猛へと与えられた結果、早朝訓練でも今迄見せた事が無い位に弱ってへたり込む姿の凛を見る事になる。
それにより猛が名付けの影響で進化するとしたら、自分達の強さを軽く越えるのではないかと火燐達は思った様だ。
火燐達は焦ったのか少し急ぎ足で討伐を行うのだが、それでも凛の事が心配になる。
その後の昼食、午後3時のおやつの時間になると森の散策を一旦中断し、凛の元に集まっては皆で凛の様子を見る。
凛は休憩の度に皆から視線を浴びるので少し困った表情になる。
凛はあの後直ぐに無限収納内に収めている余った魔素を自分の中に戻したので、大分元の状態に戻っている。
しかし前回の紅葉の時と同様に心配した美羽達が今日は安静にする様に言うので、凛は苦笑いを浮かべ美羽達に従う事にした。
その後足早に討伐をしていったからか、おやつの時間の前には火燐、紅葉、篝、リーリアの4人が進化出来る様になり、30分程のおやつや小休憩を挟んでから午後5時過ぎに猛が目を覚ます頃には、楓と琥珀、瑪瑙、紫水、渚、クロエの6人と、立て続けに進化が出来る様になっていた。
前回の逃げられた地点から、ある程度東側に進んで行った所に今回猛がいた。
そして場所も中層の深部に近くなったからか、魔物の生態が変わった様だ。
金級の強さを持つスプリガンと呼ばれる、見た目はドワーフの様だがいきなり巨大化して襲って来る魔物や、
オーガが進化した天狗にコカトリスが進化して大きくなったパイロリスク、
グールが進化してドラウグルと呼ばれる屈強な戦士ではあるが黒ずんだ死体の様な魔物がそれぞれ群れで襲って来た。
他にも下半身が獅子でそれ以外の部分は鷹のグリフォン、
3メートル程の大きさの全身金属鎧が自らの意志で動き回るリビングアーマーにイービルアイと呼ばれる巨大な目玉の魔物が数体、
それと魔銀級の強さであるグレーターサイクロプスと呼ばれる、サイクロプスが進化して更に大きくなった魔物や、
イービルアイが進化して触手の様な物が生えたゲイザー、
タラスクが進化して硬く刺々《とけとげ》しくなったタートルドラゴン、
キマイラが進化して凶暴さが増したキマイラロードが新たに出て来て襲って来たので火燐達は倒して行った。
猛が目を覚ます少し前になると、間もなく進化が終わる合図なのか猛の体全体が光る。
凛と美羽は事前にナビから猛が光る事を知らされていたので、猛に背を向ける形で光を見ない様にしていた。
その後光は少しずつ縮んで行き、やがて光が収まるとそこには褐色の肌で金髪ショートカットの髪型をした、筋骨隆々で年の頃は30歳位の男性が裸で横になっていた。
どうやらベヒーモスキングになった事で体の色が紫から金色に近い物となり、髪色も同じく金色となった様だ。
「……む…?」
「猛、おはよう。気分はどうかな?」
「ああ、おはよう。…私は人間になったのか、人間の感覚は随分久しぶりだ。しかしこの姿になる以前よりも、体に力が漲っている様に感じるな。」
「猛はさっきまで魔物だったからね。名付けを行った事で僕が猛の主となり、猛に僕の力の一部を分け与えて進化した…って感じかな。猛は元々強かったから、僕の魔素を結構持って行かれちゃったけどね。取り敢えず猛、今は裸だから服を着て貰えるかな?その間僕も背中を向けておくね。」
猛が目を覚ますと凛が挨拶を行い、猛も挨拶を返す。
猛は上体を起こして胡座の様な座り方をしながら自分の体を見たり、手をグーパーグーパーと閉じたり開いたりして確認しながら凛と話を続ける。
美羽はその間ずっとそのまま猛に背中を向けたままだった。
「む、済まない。私はこの世界の事に疎いが、そういう事なのだな。…着替えたぞ。」
「分かった。あらら…。」
「(くすくす)」
「む、何故私は笑われているのだ?」
凛は猛がいつまでも裸だと猛や美羽、それと猛が起きた事を念話で伝え現在こちらに向かっている火燐達、紅葉達に悪いと思い、無限収納から白いシャツと黒いズボンを出して猛へと渡す。
しかし凛が渡したシャツとズボンはゴーガンを想定した物だったからか、身長が2メートル以上と凛の想像以上に高かった猛は少し窮屈そうに着ていた。
その為、今の猛は少しつんつるてん気味になっていた。
その姿を見た凛は苦笑いを浮かべ、美羽はくすくすと笑っていた。
猛は何故笑われたのかが分からなかった為、再度自分の姿を見るのだった。
因みに何がとは言わないが流石ベヒーモスだった。
その後5分程(猛には改めて服を渡して着て貰った)経って火燐達や紅葉達が凛の元へとやって来る。
「猛…、お前強くなったな!今の猛だと反対にオレが負けちまう。それとさっきは済まなかったな、オレは火燐ってんだ。」
「火燐、先程迄は敵同士だったから仕方無かったが、私とお前はこれから仲間になる。流石に仲間同士で本気にはなれないが、また戦ってみたいものだ。」
「オレはもう少ししたら進化の為に休むが、目覚めたら存分に頼むぜ!これから宜しくな!!」
「ああ、宜しく頼む!」
火燐は一目で今の猛が強い事が分かり、へへっと笑いながら真っ直ぐ猛を見て話す。
猛も真面目な表情になりながら火燐と話し、火燐が握手を求めると猛も笑いながら握り返すのだった。
その後猛は美羽達にも挨拶を済ませ、凛達と一緒に屋敷へと向かう事になる。
夕食の際に凛に猛は元ベヒーモスだと紹介されるとざわめきが起きてしまう。
しかし猛は真っ直ぐ皆へ向かって挨拶を行うと、ベヒーモスと言っても思っている程恐くないと分かったのか猛に対する皆の緊張感が少し解れた様だ。
次々に猛の元へと人が集まって行き、猛は皆に歓迎されるのだった。
猛はハガ○ンのス○ーの様な見た目だと思って頂ければ。