135話
アイテム袋を商店内で販売する事が困難となった為、外に特別に設けた会計で販売する事となった。
外でアイテム袋を販売する為の要員として見習い従業員の女性に、その横でアイテム袋を出しては見習い従業員へと渡したりする等の補佐を行う役目として、凛は雫にやって貰う様に頼む。
何故雫がかと言うと、現在他に雫程販売に適した者が戦闘組以外でいなかったからだ。
雫はこう見えて(?)好奇心旺盛で、美羽の次に凛が行っている事の模倣をしている。
その為最近ではデザートを中心にではあるが料理もある程度出来る様になったし、水や氷の塊でではあるがビットの様に動かしてから目標に向けてウォータージェットの様にして高圧での射出や塊での迎撃、瞬時に伸ばして盾の様に展開すると言った事も出来る様になる。
なので勿論接客もこなせる(じと目であまり表情が変わらないが)ので凛が雫に頼んだのだ。
因みに他の接客に向いてそうな戦闘組の人達はとある事情で全員森へと出払っていたり、進化に向けて休んでいる。
午後1時過ぎ
「おお、雫殿。先日はありがとうございました!」
「アル、お疲れ様。貴方達はプリンの良さが分かる人達だから渡しただけ。機会があればまた渡すので気にしないで。」
雫は今日はまったり出来ると思い少しご機嫌になりながら見習いの補助をしていた。
そこへサルーンの巡回をしているアルフォンスが雫を発見し、一緒に回っている部下2名を連れて挨拶をしにやって来た。
アルフォンスは喫茶店開業日の次の日に来店しており、スイーツを中心に頼んで行った結果プリンが1番美味しく感じたそうだ。
それが切欠で元々軽く話す位の間柄だった雫と仲良くなり、つい先日もハーピィの卵を用いたプリンをアルフォンスに家族分を渡して喜ばれた所だ。
2人は軽く挨拶をした後に雑談を始める。
最近凛達はアルフォンスの事をアルさんと呼ぶ様になったが、火燐と雫だけはアルと呼ぶ。
アルフォンスはにこにこしながら、雫はじと目のまま楽しそうに話をしていた。
しかし雫はアルフォンスと話をしながらも客の要望のアイテム袋の色を的確に出し、場合によっては見習いに指摘もしながら見習い従業員に渡すと言う、人間離れした技の様な事をしていた。
その様子を見ている見習い従業員やアルフォンスの部下、それとアイテム袋を買いにきた客達は雫の事を凄いと思いつつ、こいつ本当に人間か?とも思っているのか少し引いていた。
そこへ今度はライアンが通り掛かる。
ライアンは雫の事を表情を変えないクールビューティーだと評価しているらしく、雫にも普通に声を掛けて来る。
「やあ、雫ちゃ「お巡りさん、この人です。」…え?」
「雫殿、お巡りさんが何なのかは分からないのですが、俺は警備隊長ですよ?」
ライアンが雫迄後3メートル程と言う所に近付いて声を掛けようとすると、雫は立ち上がりライアンの方向を指差ししてそう言った。
雫がライアンを指差した事で、皆の視線がライアンへと集まる。
これにライアンとアルフォンスは少し驚き、アルフォンスは雫へそう言った。
「アル、細かい事を気にしてはダメ。それよりも、ライアンは先程から道行く女性に声を掛け続けている。このままだとサルーンの治安に悪影響を及ぼすのではないかと私は思うの。」
雫は暇潰しも兼ねて、アルフォンスが来る迄は10分位置きにサーチを展開していた。
凛がそうする様に頼んだとかではないのだが、サルーンを行き交う人の中に怪しい表情をした者を見掛ける様になる。
疑問に思った雫はサーチを展開し、その度に人々の様子を見ていた。
なのでライアンがこちらに来る事も分かっていたし、それ以外の事も認識していた。
しかし雫は向こうが仕掛ける等をしない限りはこちらからは何もしないつもりなので、後で凛に報告しようと思いながら今は静観していた。
アルフォンスが来てからは、少し大変ではあるが念の為にサーチを展開したままにしていた。
なのでライアンが道を歩きながら女性に声を掛けている事を当然雫は知っていたので、アルフォンスへ向けて淡々としながらそう言った。
「えっ、何故それを?ここからだと見えない筈なのに…。」
「取り敢えず詳しい話は詰所でお伺いします。ライアン殿、参りましょうか。では雫殿、またお会いしましょう。」
「うん。アル、行ってらっしゃい。」
ライアンは不思議そうな表情をしていたが、アルフォンスにそう言われてがっくりと肩を落とした。
アルフォンスはライアンの背中を押しながら詰所へと移動しようと雫に軽く頭を下げ、雫は頷いた後に軽く手を振りアルフォンス達を見送った。
因みにライアンはその後詰所にて、雫の元へ向かうまでに15人程の女性に声を掛けては少し話をしていたのだそうだ。
「…お願いですからもう少し節度を持って下さいね?」
「はは、善処するよ。」
「(あ、これは駄目なやつだ。はぁ、後でガイウス様に相談するか…。)」
その説明を聞いたアルフォンスは頭が痛くなりそうだったが、今はどうしようも出来ないのでライアンにお願いをした。
しかしライアンは悪びれた様子は見られなかったので、これからのサルーンに悪影響を与えるかも知れないと思ったアルフォンスは、内心溜め息をつきながらガイウスに相談する事を決めたのだった。