133話
凛は雫と翡翠が顔を洗っている間に翡翠用にとパンケーキを焼いていた。
5分程で出来上がったパンケーキの上や周りには、ホイップクリームや領地で育てたストロベリー、ブルーベリー、ラズベリーのベリー3種、それに同じベリーを使ったソースを掛けた物を用意した。
翡翠のパンケーキを用意した後に、雫にと思い魔導冷蔵庫で今朝から準備してある600グラム程のプリンを取り出す。
そして既に顔を洗って少しすっきりした表情で椅子に座っている雫と翡翠の前にそれぞれ並べると、それらを見てテンションが上がった2人はいただきます、と言った後にそれぞれ食べ始める。
「………(はぐっはぐっ)」
「んー!すっっっごく美味しーーー!!」
雫はハイ・ハーピィクイーンであるトルテの卵のみを使った大きなプリンを一心不乱に食べ、翡翠は最上級の果物、小麦粉、卵を使ったパンケーキを、左手を頬に当てて非常に美味しそうにしながら食べていた。
他の人達には普通の大きさのハーピィの卵を使ったプリンを出したのだが、どうやら物足りなかった様だ。
極上とも言えるプリンとパンケーキを食べる雫と翡翠に、羨ましそうな視線が集まるのだった。
雫は水の精から進化して神輝金級の強さを持つクトゥルフとなった。
雫は進化により『水神化』と言うスキルが使える様になり、雫自身が水の様に体をぐにゃぐにゃにしたり、霧の様に細かくしたりして体を変化させるだけでなく、水系統魔法に限り意識するだけで自在に操れる様になった。
翌日の早朝訓練の際に体の変化、水との親和性等を調べていたらその事が分かった。
そしてその影響は加護を与えた人達にも現れた様で、訓練の際に魔法が扱い易くなったと言う声が次々に上がった。
その様子を見ていた渚達を含む元シーサーペント達が、雫の加護を与えられている人達の事を羨ましがっていた。
「それじゃ貴女達にも私の加護を与えようと思う。…だけどその前に、いあ いあ くとぅる「雫、渚達には多分通じないと思うから止めた方が良いと思うよ?」…残念。それじゃ加護を与えるので右手を出して。」
凛から丁度良いタイミングなので、未だに与えていなかった渚達にも加護を与えようと言う事になったのだが、雫が悪のりしようとしていたので凛が釘を刺す。
因みにステラと美羽は、雫のいあ いあの件を見て盛大に吹いていた。
その後雫の加護を得た渚達は嬉しそうにしながら扱い易く威力の上がった水系、それと氷系統魔法を的に放っていた。
翡翠は風の精から進化して、同じく神輝金級の強さを持つハスターとなった。
翡翠は『風神化』のスキルを得た様で風と一体化出来る様になる。
『………(じー)』
「あたしは雫ちゃんみたいに変な事を言わないから!だからそんな目で見ないで!!」
訓練中に雫が渚達に何か吹き込もうとしているのを見たリーリア、琥珀、瑪瑙、紫水の4人は、自分達も何か言われるのかと思い近くで指導しつつ一緒に見ていた翡翠の事をじーーっと見ていた。
雫のとばっちりを受けてしまった翡翠は、困った様な表情で4人へ向けてわたわたと狼狽えながら否定をしていたのだった。
それと雫の氷結の長杖が雫の進化に伴いカドゥケウスへと進化した様だ。
今迄の杖の先に氷の塊が付いた様な青い杖とは一転して杖の先に1対の銀色の天使の翼、それとその下には白と黒の蛇の様な物が互いに交差する様に杖へと巻き付いている。
見方によっては白い蛇が生、黒い蛇が死をそれぞれ象徴する風に見えなくもない。
「魔法を扱い易くなったのに見た目が可愛くない…。どうしてこうなったのか…解せぬ。」
早朝訓練の際に雫はカドゥケウスを見てぐぬぬ、と唸りながらそう言っていた。
翡翠の風纏う緑の剛弓も進化してフェイルノートとなった。
ヴェールは全体的に少し濃い緑だったのだが、フェイルノートは外側が翡翠の髪色と同じくエメラルドグリーンの色となり、近接でも振り回せる様になのか三日月の様な形をしていて弓の上下に持ち手もあり、弓の内側も月の様に白っぽくなっている。
どうやら進化した翡翠の弓は単純に放つ矢の威力が上がっただけで無く、何も考えずに放ったとしてもサーチと連動して敵の頭に自動追尾して狙う仕様となった様だ。
勿論狙いたい箇所を意識して放つと、目標の箇所に向かって行くので便利になった。
「これって、サーチと連動してるのもあって普通に辺り一帯殲滅出来る武器になっちゃった、…って事なんだよね?」
「そうだね。追わなくて良いから楽と言えば楽なんだろうけど…。」
凛と翡翠は一通り試した後に難しい表情でお互いにそう言った。
それと弓の外側は鋭い刃物の様になっていたので、翡翠は試しに早朝訓練で鉄の鎧の的を切ってみたらあっさりと切れ、強硬石の鎧も切れてしまったので本人を含めて周りが唖然としていた。
これにより弓だけで無く特殊な近接武器としても使える事が分かったので、翡翠はうへーと言って苦笑いを浮かべながら弓と近接の両方を訓練をする様になる。
「(見た感じがブーメランだから扱え無くはないんだろうけど…、でもこれ以上忙しくさせるのは可哀想だから止めておこう。)」
凛は両方の訓練をする事になった翡翠を見てそう思った。
それと朝食後の訓練の時にステラもそう思ったらしく凛に言おうとしたが、事前に分かっていた凛がステラを制した後に黙って首を横に振る。
ステラはそれで察してくれた様だ。
ガイウス達に相談をしてから少し精神的な負担が減ったトーマス達やニーナ達は、未だに忙しそうにしながら今日も仕事をしている。
そして今日から2号店と言う事で、サルーンの北側のフーリガンの人達が住んでいた家々の跡地に、本店より少し大きめの商店と喫茶店をオープンさせたので、少しだけだが余裕が出て来た様だ。
2号店のそれぞれの店長はトーマスとニーナが選び、一昨日凛の元へ案内していた。
「それでは貴方達を2号店の商店と喫茶店の店長に認めるとしまして、ナビのお「「凛様?」」うぅ…、僕の、加護を与えます…。」
「「ありがとうございます!!」」
凛は男性と女性を見た後にそう言…おうとした所でトーマスとニーナがにっこりと笑い、分かってますよね?と言わんばかりの圧力を掛けて来た。
ナビの恩恵と言おうと思っていた凛は、トーマスとニーナの圧力に負けてがくっと項垂れながらそう言った。
それを聞いた2号店のそれぞれの店長は元気良く返事を行い、その後凛の加護を得た。
そして今日の午前9時を少し過ぎた頃に、カーヴァン伯爵小飼の商業ギルド員が護衛を連れてサルーンへと入ったのだった。