131話
その後凛、美羽、ステラの3人は訓練部屋へと移動した。
鉄の鎧の的から少し離れた所で凛がステラに練習用の苦無と手裏剣を与え、それぞれを的へ向けて投げる練習をしていた。
やり始めて30分程経ったからか少し慣れ、大体的のどこかに当たる迄に命中率を上げている。
実はステラは生前、忍者に憧れを抱いていたのだそうだ。
こちらの世界に転生し、人間ではなく猫の獣人になってしまったものの生前と変わらない様な黒髪だし、体も猫の様にしなやかなので機会があればなってみたいなぁとはここに来る以前から思っていたそうだ。
「つまり…猫忍者?」
「そう、ネコ忍だね!」
「(ステラにクスィーを見せたら真似をしそうな気がするな…。でも多分、相性良いんだろうな。)」
凛が実際に苦無を渡す前に、一通り扱いたい武器等を聞いた後にそう尋ねる。
ステラは肯定し、嬉しそうにしながら投擲の練習を始める。
凛は内心そう思った後に、ステラが色々な角度から苦無や手裏剣を相手に当てるのを想像しながらステラの様子を見ていた。
そして更に30分程程経つと、ナビからそろそろ梓が目を覚ますと凛へ連絡が入る。
「ステラ。さっき紹介した藍火とは別で、ステラが来る前に新しく配下にして梓って名付けたドラゴンがそろそろ目を覚ましそうなんだ。もう少ししたら夕食だし夕食の準備も兼ねて僕は梓を迎えに行くけど、ステラはこのまま投擲の練習を続ける?」
「ドラゴン!?さっき紹介して貰ったドラゴンの中で、藍火ってドラゴンが1番格好良かったし楽しかったー!!その梓って言うのも見てみたいので僕も一緒に行きたい!」
凛は汗を流して楽しそうに苦無を的に向かって投げているステラへ尋ねる。
ステラは藍火とは別のドラゴンと言う単語に惹かれたのか直ぐに苦無を投げるのを止め、しゅたっと右手を素早く上げ気合いの入った表情になりそう言った。
先程凛がステラへと領地内を案内した際に、領地にいた人だけで無く他の種族も紹介した。
ステラは領地の人達を紹介して貰った中でも、元日本人だったからかドラゴンは別格な扱いの様だ。
シーサーペントはそれなりだったがアーサーや渚、それに藍火に対しては非常に興奮していた。
3人共ステラから尊敬の眼差しで見られた事が満更では無かったらしい。
アーサーと渚は軽く競う様にして新しい湖の端から端迄を泳いだり、藍火に至っては龍形態になった後に凛とステラを自身の背に乗せて、軽くだけだが領地内を飛んだりしていた。
その様子を渚とアーサーは少し悔しそうにしながら見ていた。
凛は既に何回も藍火に乗っているので慣れているが、ステラは勿論初めてなので凛の後ろできゃっきゃとはしゃいでいた。
凛は藍火を名付けで進化させた次の日位から、近所迷惑になるので訓練部屋でだがたまに藍火に乗って空中遊泳を楽しんでいたので、凛はステラがはしゃぐのも無理はないよなぁと同意していた。
「(くすくす)分かった、それじゃ戻ろうか。」
その変わり身の早さがツボに入ったのか、凛と美羽はステラを見てくすくすと笑っていた。
美羽はそれを見てステラへの警戒を解き、凛と仲の良い兄妹みたいに思える様になった。
その後3人は揃って屋敷へと戻り、ダイニングにいた楓にそろそろ梓が目を覚ます事を伝える。
同じく夕食前だからかダイニングにいて、話の内容を聞いていた火燐、雫、翡翠、それと同じドラゴンとして興味があるのか藍火と渚も付いて来る事になった。
実はアーサー以下シーサーペント達もそこにいて話を聞いていたのだが、あまり大人数で押し掛けてもと言う事で自重した様だ。
凛達が名付け部屋に入ると、直ぐの所で猫の様に丸まっている姿で8歳位の少女が寝ていた。
その少女は黄緑色の髪色で肩まで位の長さで、むにゃむにゃと言いながら幸せそうにしている。
ランドドラゴンが黄色に近い茶色の体をしていたので、黄緑色の髪色になっていた事で上手く進化出来たんだなと凛は安堵する。
「……んぅ…?」
「梓、おはよう。僕の事が分かるかな?」
「自分の事も分かるっすかね?」
「ふぇ?…えーっと、藍火先輩と、その主様なのです?」
梓はその可愛らしい外見と同じ様にして、小さな声を発して目覚めた様だ。
凛は白いバスタオルで優しく梓の体を包んで梓に声を掛け、藍火も近くに来てしゃがみながら声を掛ける。
梓はまだ寝ぼけている様で、少し考え込む様にして答えた。
凛はそれを聞いてから梓の頭を撫で、藍火も続けて梓の頭を撫でる。
梓はえへへー、と言って気持ち良さそうにしていた。
「それじゃ梓とステラの紹介もあるし、屋敷に戻って夕食にしようか。」
『はい(なのです)!』
くぅー、と梓のお腹が可愛らしく鳴った事もあり、凛は夕食の準備と2人の紹介も兼ねて屋敷に戻る事にした。
夕食の準備と2人の紹介、それと挨拶を済ませて夕食を摂る。
紹介の際に、梓は今は小さく見えるが元の龍の姿になったら今のところ領地内で1番大きくなると凛が説明すると、土竜を見た事がある戦闘組以外の人達(ステラ含む)は驚き、少し緩めのツインテールにした梓は少し恥ずかしそうにしていた。
その後梓は初めて見る、ステラは懐かしさもあってか美味しそうな料理の品々を輝いた目で見ていた。
2人はとても美味しそうにしながら食べている。
ステラに至ってはここ迄の食事はこの世界に来てからは初めてだった様で、涙を大量に流しながら食べていたので周りの人達を引かせていた。
凛はその様子を見てほっこりしていた。
そこへトーマスとニーナの2人が少し複雑そうな表情で凛の元へとやって来たので、凛は直ぐに真面目な顔へと戻る。
「凛様。言おうか悩んだんだが、昨日位から高圧的な物言いをして来る客が目立つ様になって来たんだ。」
「こっちもよ。サルーン以外の客が増えて来た事自体、勿論良い事なのだろうけれど…。」
「今迄のサルーンはガイウスさん達のおかげで、特にトラブルらしいトラブルは無かった。けどこれから先は違うって事か。色んな人達がこれからサルーン、それにここへと来るだろうから対策を考えないとだね…。」
トーマスとニーナは互いに顔を見合わせてからそう言うと、凛は難しい顔をしてそう言った。
トーマスとニーナによると商品や料理を提供した事で感謝する客も沢山いる一方で、
希望の商品の棚が空になる迄纏めて買われただけではなく、早く追加で持って来る様にと催促する商人らしき人物や、
早く料理を作る様にしろ、
喫茶店で使っているコップ(アクリルの様な物で少しガラス細工の様に見える綺麗なコップ)が気に入ったので売れ、又は寄越せ、
料理を持って帰って食べたいので持ち帰る為に何か容器を用意しろ、
コーヒーの砂糖やミルク、サラダのドレッシング、料理に掛かっているソース等を珍しいから持って帰る、又は持って帰って使いたいので寄越せ等と言って、従業員を困らせる客が出て来たのだそうだ。
「(それって、何だか悪質なクレーマーみたいだね…。)」
凛は内心そう思いながら対策を考えるのだった。