127話
火燐達は歩いて移動しているベヒーモスを追う途中で大地龍達やタラスク達と交戦になったものの、2分程で戦闘が終わる。
更に火燐に至っては始めからベヒーモス狙いだった為、最初のタラスクを倒して直ぐにベヒーモスの方向へと走り出し、美羽はその火燐の後ろを付いて行く。
やがて火燐がベヒーモスの前に回り込み、美羽はベヒーモスの後ろへとそれぞれ立つ。
「…へへっ、やっと追いついたぜ!さぁて戦闘開始と行こう…っておい!お前、逃げるんじゃねぇよ!!」
どうやら今回のベヒーモスは、以前凛から逃げたのと同じベヒーモスの様だ。
火燐は分からなかった様だが相手のベヒーモスは覚えていたらしく、少し観察した後に火燐の左側の方向へと抜けるつもりで体を動かした後に走り出した。
火燐は一瞬だけ呆気に取られたものの、直ぐに追い掛けようとする。
しかし火燐の後ろや周りから2人の武器に付着した血の臭いに惹かれたのか、ブラッディモスと言う蛾の魔物が大量にやって来た。
ブラッディモスは体調1メートル程の大きさで銀級の強さを持つ魔物だ。
羽ばたきながら相手へと近寄って6本ある脚でしがみ付いた後に噛み付いたり、羽に付いている毒の燐分を飛ばしたりして攻撃を行う。
それでも彼らはもここ中層では決して強くはないが、普段は火燐達が現在いる森の木の上らへんに止まる等して休んでいる。
しかし血の臭いに敏感な上に雑食でそれなりに大量に来る為、血を流した事でブラッディモスに気付かれて一斉に襲い掛かられてしまう事も。
その後蝗やハイエナの様にして食べ尽くされ、ほとんど何も残らなくなってしまう。
「火燐ちゃん!何か変な蝶みたいなのが火燐ちゃんの後ろや周りに沢山来たよ!」
「ちっ。折角ベヒーモスに追い付いたってのによ…。とは言え、このままベヒーモスを追いかけるよりも、数だけはやたら多いこいつらの相手を翡翠達に押し付けるのは流石に悪いしな。…仕方ねぇ、相手をするか。」
美羽がそう叫んだ後、火燐は舌打ちをして迎撃の構えを取る。
しかしブラッディモスは意外とすばしっこいのかスピード型の美羽は兎も角、ややスピード型になってはいるがそれでも一撃が重い大剣の火燐とは相性が悪い様で、思った様にブラッディモスの数を減らせずにいた。
そこへアイスニードル、風の矢、ストーンニードルが飛んで来て、それぞれ火燐の近くで飛んでいるブラッディモスへと当たる。
「火燐ちゃんお待たせー!」
「ったく、遅せえんだよ。そろそろ昼飯にしたいから皆で早く片付けて帰ろうぜ!」
「うん。」
「そうだね!」
「はい…!」
翡翠が走りながら火燐へ向けてそう叫ぶと、火燐はそう言いながらニヤリと笑う。
雫、翡翠、楓も同意なのかそう言った後にそれぞれ魔法や矢を放ち、5分程で100体以上いたブラッディモスを討伐し終える。
そして結果は1位が雫、2位が翡翠、3位が楓、そして火燐がビリと言う形になった。
ブラッディモスを倒した後にベヒーモスを追えない事も無かったが、火燐が興醒めしてしまったのと雫がプリンプリンと五月蝿いので屋敷に帰る事にした。
因みにランドドラゴンは楓よりも体が大きいのにも関わらず、今も楓の直ぐ後ろで地面に這いつくばる様にして震えていた。
「成程。それで屋敷の外にランドドラゴンがいたって訳なんだね。」
「はい…。翡翠ちゃんには悪いと思いましたが、私もドラゴンの配下を持ちたかったので丁度良いかと思いまして…。」
「楓もそうだったなんて意外だったよ。それじゃ外へ向かうとして、美羽、火燐、雫、翡翠はどうする?」
「ボクは行くー♪」
「オレは昼飯にする。」
「私も。早く火燐の分のプリンも食べたい!」
「あたしもお腹空いたしお昼を食べる事にするよ!」
「分かった。それじゃ楓、美羽行こうか。」
「はい…!」
「はーい♪」
凛は帰って来てから恥ずかしそうにして前で手を組み、自分へと説明をしている楓と話をしながら4人に尋ねる。
美羽は一緒に来る事になり、火燐、雫、翡翠の3人は昼食を摂る様だ。
凛は楓と美羽に声を掛けて屋敷の外に出る。
因みに、その後雫が昼食の最後に恍惚の表情でプリンを食べ、羨ましいのと悔しいので火燐がその横でぐぬぬと唸りながら雫を見ていた。
凛が屋敷からでてすぐそこには、先程と同じくぶるぶると震えながら地面に這いつくばっているランドドラゴンがいた。
「…何だか初めて藍火と出会った時の事を思い出すな。」
「ん?自分の事を呼んだっすか?」
「んー、呼んだと言うより思い出していた、と言った感じかな?藍火も最初この子みたいだったしさ。」
凛がそう呟くと、屋敷の直ぐ近くのポータル付きの建物の上で紫水と共に日向ぼっこをしていた藍火が上体を起こしてランドドラゴンを見た。
紫水は少し眠そうにして起きた後、凛の元へと向かい頭を撫でられて気持ち良さそうにしていた。
美羽は先程の討伐の後、屋敷の中ではなく目の前に出る様にして使い捨てのポータルを使って帰還した様だ。
美羽達は中へ入ったのだが、他のと比べて少しだけ小柄とは言え窮屈そうにしてポータルを抜けたランドドラゴンは、周りが自分よりも格上ばかりいる事が分かって怖くなったのか、再び震えて這いつくばる様になる。
「(直ぐに戻るので、済みませんがそのまま待ってて下さいね?)」
「(あ、ちょっ!!)」
楓は苦笑いを浮かべてそう言い、たたたと小走りになりながら屋敷の中へと入って行った。
ランドドラゴンは一瞬だけがばっと体を起こしたのだが、やはり這いつくばるのだった。
「……(はぁ)」
「(……?)」
「(……!!)」
立ち上がった藍火はよっ、と言いながら建物の屋根から飛び下りた。
そして凛の方へと歩きながら呆れた表情をしてはぁ、と溜め息をついて、ランドドラゴンの方を向いた。
凛は藍火が何故溜め息をついたのか分からなかった為首を傾げる。
しかし藍火はその事に触れず、2足歩行の様にして後ろ足で立った龍形態へと変化する。
ランドドラゴンはこちらへとやって来た存在が人だと思っていたのが、いきなり青い体で自分よりも大きく全然強いと分かる龍へと姿を変えた事に驚いた。
「(あー…今でも思うんすけど、主様達は理不尽な位強いっすからね?とは言え、今は降伏して正解だったと思うっす。かなり快適な環境な上に今の強さになれる、なんて一生掛かっても無理だと思っていたっすからね…。貴方も今は怖くてしょうがないだろうけど、いずれ自分が言っている意味が分かる様になると思うっすよ。)」
「(あ、貴方に私の気持ちが分かる訳無いのです!)」
「(いや、分かるっす。自分元々ワイバーンで、一瞬で仲間達を倒されてあ、自分ここで死ぬんだって思ってたっすから。)」
「(え?ワイバーン?でも今は…。)」
龍形態へとなった藍火はちらっと凛を見た後にランドドラゴンへ向けてそう言うと、ランドドラゴンは龍形態になった藍火が怖かったのか、小型犬がキャンキャンと鳴く様な感じで藍火へと向けてそう叫ぶ。
すると藍火は龍形態のまま人の様に腕を組んで目を閉じてうんうんと頷いた後そう言った。
ランドドラゴンは藍火が元ワイバーンだった事にも驚いたのか、ぴたりと震えを止めてそう呟いた後、藍火とランドドラゴンは軽く話し合いを始める。
『?』
因みに、この2体はグォォやガァガァ等と鳴いている為、話の内容は凛達に全く伝わっていない。
なので途中から少し元気になったランドドラゴンを見ても、藍火と話をして元気になったんだ位にしか思わなかったのだった。