126話
美羽達は前方の少し離れた所にいるベヒーモスを目指しながら、襲って来る魔物を倒して進んでいた。
途中で上位竜の土竜、それと下位竜のランドドラゴンを率いている古龍の大地龍も攻撃して来たので討伐する事にした。
大地龍は土竜が進化した魔物で、全長12メートル程になり魔銀級下位の強さを持つドラゴンだ。
以前凛が倒した森林龍は大地龍の亜種で、現在の藍火と同様に魔銀級中位の強さを持つ。
因みに死滅の森表層の木々の間隔は大体20メートルずつ、中層での間隔は大体30メートルずつでそれぞれ生えている。
1本辺りの太さは直径2メートル位と変わらないが表層よりも中層の方が魔素が濃い為、地面から魔素を吸収する量が増えてより頑丈になっているのと、魔物が進化するにつれて大型化している影響もあって表層よりも中層の方が木と木の間隔が広くなっているのかも知れない。
「よっ!今だよ!」
「いただきっ!!」
「あ、ずりぃぞ!」
大地龍が右足を上げ、こちらへと向かって来る美羽達をその巨体で踏み潰そうとしていた。
そこを美羽が白と黒の双剣を交差させて防いだだけでなく、上方へと向けて弾き返す。
それにより隙が出来たので、美羽は誰かに攻撃して貰おうと思いそう叫んだ。
すると翡翠がとん、と跳んで空中から大地龍の頭に狙いを定め、テンペストアロー程ではないものの結構強めに魔力を込めた風の矢を斜め上から射貫き、そのまま大地龍を倒した。
火燐は大地龍迄後少しと言う所で、後方斜め上から翡翠によって矢を射って倒された事で少し悔しそうにしながら言う。
その頃雫は前方にいる大地龍を美羽、火燐、翡翠に任せ、こちら側にいる残った土竜8体とランドドラゴン17体の殲滅を行おうとしていた。
どちらも大地龍に比べて弱いもののそれなりに巨体な為、1度に複数ものアイスニードルを放っては、その度に1体から3体もの土竜へと突き刺して倒して行く。
雫は先に強い者から倒す傾向にある為、土竜を倒した後にどのランドドラゴンを倒そうかと思いながら標的を定めていた。
「雫ちゃん、あのランドドラゴンだけは残して貰って良いですか…?あの少しだけ小さい子は既に敵意を失って怯えているので、私が引き取ろうと思います…。」
「プリン…プリ…む?分かった。それならあの子だけは手出ししない事にする。」
「ありがとうございます…。」
そこへ楓が雫に声を掛けて1体のランドドラゴンだけを残す様に頼む。
当の雫は大好物のプリンの事で頭が一杯だったのか、目が完全にプリンの様な姿になって(る位魔物を倒す事に集中して)いた。
雫は楓に声を掛けられた事ではっと我に返り、楓の申し出を受ける。
そして楓は雫へとお礼を言い、怯えているランドドラゴンの元へ向かって説得を始める。
雫は楓が目標としているランドドラゴンに着く前に、土竜とランドドラゴンの群れを一掃していた。
ランドドラゴンの元に辿り着いた楓は優しくランドドラゴンを説得するのだが、楓の少し後ろでは大地龍達と縄張り争いをするつもりだったタラスクの群れが近付いていた。
タラスクは全長12メートル程で長い尻尾を持った亀の様なドラゴンだ。
非常に獰猛な性格で金級の強さを持ち、体中に鋭い棘で覆われていて毒の息を吐くとされる。
タラスクは少し離れた湖から集団にて、ドドドドと足音を立てながらこちらへとやって来ている様だ。
「おらぁぁぁぁ!!炎っ斬!」
ガァァァ、とこちらへ向けて走りながら吼えるタラスクに負けまいと、火燐もタラスクの方へと走りながら大声で叫ぶ。
そしてタラスクが目の前に来て鋭利な牙で噛み付こうとした所を火燐は左側に避け、6本ある足の内の右前足の付け根部分の甲羅へと大剣に炎を纏わせ、見た目のままの技の名前を叫んでから大振りな斬撃をタラスクへと与えて倒した。
「真っ直ぐこちらに向かって来るから楽…。」
「まぁ…そうだよね。」
土竜とランドドラゴンの殲滅が終わった事で翡翠の元に着いた雫は、そう言いながらこちらに向かって来るタラスクの額へと少し強めにしたアイスニードルを放って倒し、翡翠も苦笑いを浮かべつつ同意しながら雫と同様にして風の矢を放って倒していた。
楓に説得されているランドドラゴンは楓の後ろの光景が凄すぎ為、そちらに意識が向いてしまい楓の説得がほとんど聞こえていなかった。
「(…と言う訳で貴方は私の配下と言う形にはなりますが、良ければ私の仲間になりませんか?)」
「(ぶんぶんぶんぶん)」
「(ありがとうございます…♪これで私も…、ってこちらにも3体来たんですね…。ですがこの子に手出しはさせませんよ…ロックスタブ。終わりました、怖い思いをさせてごめんなさいね…?)」
「(がくがくぶるぶる)」
一通り説明を終えた(ランドドラゴンはほとんど聞いていなかったが)楓はランドドラゴンに仲間になるかを尋ねると、ランドドラゴンは話を聞いていなかったが頷く以外ないと判断したのか凄い勢いで頷く。
楓は了承を得られたと思いにこりと笑うも、すぐ近くにタラスクが3体来ていたので戦う事にした。
楓は溜め息をついてから後ろへと振り向き、少し多目に魔力を注いだ土系中級魔法ロックスタブを発動させる。
すると地面から直径3メートル程、高さ7メートル程の尖った槍状の岩が現れてタラスク達の体の中心を刺した。
その槍の岩はそのままの勢いでタラスク達の体を持ち上げる様にし、暫く宙に浮かせる形となった。
強制的に宙へと浮かされたタラスク達は、少しの間もがいていたがやがて動かなくなる。
説得されたランドドラゴンはその光景を見て完全に心を折られてしまった。
楓はランドドラゴンの方を向いて再びにこりと笑ってそう言ったのだが、ランドドラゴンは内心でこの人間に絶対に逆らわない様にしようと思い恐怖で体を震わせるのだった。