119話
凛は腕組みをしながらうーん…と唸りながら鮮緑色の髪をした女性の事を考えていた。
しかしいくら考えても分からないのか、そのまま3分程時間が経過してしまう。
「分からない様だからヒントをあげるわね♪1ヶ月位前、貴方は誰を助けたのかしら?」
「えっと…確かその頃は僕達は草原に移動したばかりで、オーク達に襲われているエルマとイルマ、それとゴブリン絡みで紅葉達を助けたんだったかな?」
「正解♪それじゃあ、エルマちゃん達の近くにあったものは?」
「オーク以外だと背の高…まさか!?」
「そう!その考えで合っているわよ!」
「だからか…。どこかで聞いた事がある声だと思ったんですよね。」
女性からのヒントで凛は当時を思い出しながら答える。
エルマ、イルマも当時を思い出して顔を青ざめながら身震いをし、
紅葉、暁、旭、月夜、小夜も当時を思い出したのか悲しそうな表情になる。
凛は今は別館になってしまったが、当時オーガの集落だった所を領地として屋敷を建て背の高い木を移した際に聞こえた声の事を、正解した後になって漸く思い出したのか1人で納得した様な表情になる。
因みに女性は立ち上がって凛へ向けながら逆○裁判の異○あり!の様なポーズを取りながら言った後、再びにこにこしながら両手を太ももの上に乗せて椅子に座り直したのだった。
「折角2人が進化の報告をしてくれたのに、こちらの人達に全部持っていかれた感があるよね…。」
「「俺も(私も)そう思っているので、それを言わないで下さい…。」」
「うん、ごめん…。それで、貴女達はどうしてここへ?」
「私、こう見えて結構長く生きているんだけど、貴方は見ていて面白いし何より優しいわ。それに、今迄ただの背が高い木でしかなかった私の事を気に掛けてくれる人なんていなかったから嬉しくてね。ここに来てから毎日貴方は私に話し掛けて魔力の籠った水を与えてくれたお陰か、ついさっき私の根元辺りに生えていたこの子達と一緒にこの姿になったのよ。先ずは貴方にお礼を言おうと思ってここに来たのだけれど、私達はどうやらアーサー君とトルテちゃんよりも早く来たみたいで、他には誰もいなかったのよね。それと、人の姿になった時に何も身に付けてなかったのよ。そのまま何も着ていない状態だとそこで座っている子みたいに注意されると思ったから、そこにある服を借りさせて貰った…って感じかしらね。」
凛が苦笑いを浮かべながらアーサーとトルテに向かって言うと2人はがくっと項垂れながらそう言った。
凛は2人に謝った後に女性へと尋ねる。
女性は凛を見ながら話していたが、途中で未だにショックから立ち直れていないのかぺたんと座ったままの元代表の女性を見た後、いつ魔物から人化して人に変わっても大丈夫な様にと思い男性、女性風呂の前にそれぞれ置いてある白い衣装ケースを見た。
衣装ケースは5段の物をそれぞれの浴室の前に2つづつ横に並べていて、男性側には黒いズボンと白いシャツ、女性側には白いワンピースがそれぞれ畳んだ状態で入っている。
そして人間の目線ではあるが引き出しの位置でサイズが異なり、大体の年代と身長を表記して用意してある。
どうやら女性はその衣装ケースを利用して3人分のワンピースを引き出しから選んで出し、2人に渡した後にそれぞれ着た様だ。
「そうだったんですね。貴女は背が高かったので周りの状況が把握しやすかった。僕がその子に服を着る様に注意していた事を知り、理解するだけの知性もあると言った感じでしょうか。」
「そう言う事。ある程度はサルーンの事も見ていたのでそれなりに分かるわよ。…それと、私これでも一応700年以上生きているのだから、あまり馬鹿にしないで欲しいわ。」
『なっ、700年!?』
凛は左手の上に顎を乗せて得心が行った様な顔をする。
しかし途中から少しだけ怒気を含ませた、女性からの発言にこの場にいた者全員が驚いた。
「…とは言え先ずはお礼を。貴方…そして土に愛されている貴女のお陰で私はこうしてドライアドへと、この子達はベラドンナへと変化する事が出来ました。ありがとうございます。」
「「ありがとう、ございます。」」
「え…私もですか…?」
女性は凛、そして楓を見た後にお礼を言った後に頭を下げ、少女2人もたどたどしいながらも同じ様に行う。
凛は喜んで良いのか分からない様な表情に、楓は何故自分にもお礼を言われているのか分からないと言った表情にそれぞれなるのだった。
「…凛殿、先程は驚いたが何やら話が長くなりそうな様子。話を聞きたいのは山々なのだが、俺はこれから自分の屋敷へ向かわねばならぬし、他の者達もそれぞれ割り当てられた職務があろう。だがその前に軽く汗を流したいので浴室へと向かっても良いか?」
「あ、はい。話は僕と美羽、楓で聞いておきますので、皆さんは汗を流して来て下さい。」
ガイウスが痺れを切らす様にしてそう言った。
凛は自分と美羽と楓をこの場に残し、それ以外の人達に汗を流して貰おうと思いガイウス先導の元で浴室へと向かわせた。
最近は皆、訓練に精を出す様になったからか汗だくで訓練を終える人が多くなった。
その為以前の屋敷では訓練後、汗を流そうとして浴室に行列が出来てしまい、作業の開始が遅れる事態が発生する様になってしまった。
その為新しく建てた屋敷は訓練で汗を流しやすい様にシャワーの数を大幅に増やした。
更にシャワーを使えなくても大丈夫な様に、温めとやや冷たい温度のお湯等を張った浴槽も用意しておくようにと、凛は予め屋敷組に指示を出しておいた。
その為シャワーでなくても大丈夫な人はこちらを利用した事で、今の所一度に全員浴室へ入ってもすんなり済ませられる様にしてある。
因みにシーサーペント元代表の女性は未だに固まったままで、浴室へと向かう人達の誰からも声を掛けられなかった様でぽつん、とその場に1人だけ残っていた。
凛はその様子を見ていたが、今は鮮緑色の髪をした女性と話す事を優先した。
凛は直径10キロ程に迄広がった領地の内、ある程度人が通れる様に道を設けてから北側を果樹園、西側を野菜類、東側を穀物類を植えてそれぞれ育てている。
今も北側にある3種類の育て方をしている実験場は、今も成長中のただ生成した水で育てている作物だけはそのままだが、残りは全て上級魔法を使用出来る位に大量の魔力を注いだ水を用いている。
「…さて、話が中断してしまったけど再開しましょうか。見た所貴方達は色々な作物を育てている様だし、私達も育成や採取のお手伝いをしようと思ってるのよ。」
「「(こくこく)」」
「私と貴女が協力すれば作物の品質を少し上げられると思うの。それに私、植物と話が出来るから仲間が増やせるかも知れないしね。」
「「私達もお手伝いする。」」
「…つまり貴女達は僕達の仲間になると言う事で宜しいですか?」
「そう言う事♪宜しくお願いしますね、ご主人様?」
「「よ、宜しくお願いしま(ガン!!)痛い…。」」
女性は相変わらずにこにこしながらそう言い、少女達は両手を肩の前にやってぐっと握りながら頷いたりそう言った。
凛が尋ねると女性はくすくす笑った後、少し茶目っ気を含ませながら座ったまま頭を下げた。
少女達はその様子を見て、遅れてしまったと思い慌てて座りながら頭を下げた為か勢い良くテーブルに頭をぶつけた。
その後両手で額を押さえながら涙を浮かべ、痛そうにしている。
「(うわ、痛そうだな…)僕としては大歓迎ですが良いのですか?自分で言うのも何ですがここは危険だらけですよ?」
「良いのよ。ここは魔素が濃いから居心地が良いし、貴方を筆頭に良い人ばかりいるんですもの。それに何より、今迄ずっと動けずに立つ事しか出来なかったから、自由に歩ける喜びを与えてくれた貴方に感謝したいのよ。」
「「私達はまだ生まれたばかりで不安…。貴方に頼るしか選択肢がない。」」
「成程…。」
女性がそう言った後、未だ額に手を当てて目に涙を溜めながら少女達がそう言うと、凛は内心少女達に同情しつつ相槌を打つ。
その後凛達は軽く話を行い、3人は楓へ預ける事になった。
因みに金色と銀色の髪をした少女達は2、3日前に風に乗って、たまたま鮮緑色の髪をした女性の根元辺りに飛んで来た花の種が育った物らしい。
何故そこから双子に別れてしまったのかは不明だが気が付くと人間の姿になっており、女性の様に1人ではなく2人に別れてしまっていた。
最初は何故別れてしまったのか分からず3人とも首を傾げていたが、女性が一先ず屋敷へと向かおうと言う事になり今に至るらしい。
因みに少女達が敬語が使えず、たどたどしい話し方をするのは時間をあまり掛けず一気に成長した事による弊害だろう、と凛は考えている。
「元々が同じ存在だったから君達は同じ動き、同じ話し方をしているのかも知れないね。」
「「恐らくそうだと思う…。」」
「まぁ細かい事は良いか。んー…貴女は『翠』、君は『金花』、君は『銀花』って名前で良いかな?」
「貴方ならそう名付けてくれると思っていたわ。勿論問題無いわよ♪」
「「私達も問題無い…。」」
女性達3人は凛の考えた名前に問題が無かった様でそれぞれ頷き、改めて凛が名付けた事で気を失ったのだった。