11話
戦闘回です。
サクサクと物語を進ませる為に要所しか記載しておりませんが、実際はもう少し時間を掛けて戦闘を行っていたりします。
「アイシクルレイン。」
雫は走るのを止め、杖を自身の顔の前に掲げながらそう唱える。
するとどこから現れたのか、オークの集団の真上から横幅2センチ程、長さ5センチ程の尖った氷の塊が無数に降り注いで来た。
アイシクルレインは氷系中級魔法の1つで、術者が指定した地点から半径30メートルの範囲内に、5秒程ではあるが上空から地上に向けて氷を雨の様に降らせて攻撃する魔法だ。
雫が唱えたアイシクルレインによりオーク達の群れの中央上空に魔方陣が現れ、そこから無数の氷の雨を降らせる。
やがてアイシクルレインが止むと、オーク達は身体中が穴だらけとなってほとんどの者が息絶える。
しかしそんな中、体のあちこちに穴を空けられたオークが7体、それとオークアーチャー2体がどうにか立っていた。
それとは別に、多少ではあるが魔力の扱いに長けているオークメイジが魔力による球体状の障壁を自身の周りに展開させ、アイシクルレインの威力を軽減させていた。
オークメイジは3体のまま数は減っておらず、いずれも魔力障壁を展開した事で軽傷で済ませていた様だ。
「雫やるじゃねぇか!オレも負けてらんねえな、っと!」
「ブ、ブゥ…。」
火燐は走りながらそう言って、近くにいる(雫のアイシクルレインによって)弱ったオークの元へと駆け寄り、左肩から右腹にかけての袈裟斬りを行って2つに切断する。
凛はアクティベーションで作られた武器は簡易な作りで用意した事もあり、そこまで武器の性能は良くない…と思っていた。
しかし作った本人(?)であるナビが妥協を許さなかったのか、量産品にも関わらず性能は一流である銀級が持っている位の、少々ぶっ飛んだ武器だったりする。
「(凛は間に合わせって言ってたけど、中々の切れ味じゃねぇか!)よし、次っ!」
「ブゥ!…ブモッ!?」
「残念だったな。」
「ブヒィッ!!」
その為火燐はオークを切断出来た事に驚いたのか、少しの間大剣を見ていた。
そしてニヤリと笑い、少し離れたオークメイジに向けて駆け出す。
火燐が標的にしたオークメイジの近くには、弱りながらも既に弓に矢を番え、今にも火燐へ向けて射ろうとしているオークアーチャーがいた。
そのオークアーチャーは火燐を仲間であるオークメイジに近付けさせまいとし、火燐の右足に向けて番えていた矢を放つ。
しかし放たれた矢はオークアーチャーの予想に反し、火燐に当たる直前で半透明の薄い紫色の球体の壁にカン、と弾かれてしまった。
オークアーチャーは当たった筈の矢が弾かれた事に、えっ!?何故!?と言った感じで驚いていた。
その為火燐が仲間のオークメイジから自分へと標的を変えた事に対応出来ず、火燐からそう言って一方的に倒される事になる。
「火燐ちゃん、油断し過ぎですよ?」
「楓、悪い悪い。助かったぜ。さて…。」
「そのオークメイジ頂きっ!」
「ブゥ…。」
「あっ!?翡翠!おまっ!!」
「へへーっ♪」
楓がたったったっと軽く走り、自身よりも先にいる火燐へ杖の先を向けながらそう言った。
火燐は横目でチラッと斜め後方にいる楓を見てそう言った後、本来の標的であるオークメイジの方へ視線を移す。
しかしそこへ、3メートル程楓の左にいた翡翠がそう言ってオークメイジへ向けて矢を放った。
翡翠から放たれた矢は吸い込まれる様にしてオークメイジの額へ一直線に向かい、オークメイジは小さく声を上げて後ろへ倒れる。
火燐は狙っていた獲物を翡翠に取られた事で、オークメイジから翡翠へと視線を移しながら叫ぶのだが、翡翠はそう言って得意気な表情となっていた。
どうやら楓は先程、火燐の後ろにいた事でオークアーチャーが火燐を狙っている事が分かった様だ。
オークアーチャーが矢を射る前に杖先から火燐へ向けて補助魔法を飛ばし、火燐の周りに魔力障壁を展開させていた。
一般的な魔力障壁は、魔法だけを防いだり抑えたりする効果がある薄い青色をしている。
その為、先程のオークアーチャーは放った矢が紫色の壁を通らずに弾かれた事で、理解が追い付かずに固まっていた。
火燐はオークアーチャーに攻撃された事で、オークメイジからオークアーチャーへと攻撃対象に切り替える。
そしてすぐ様オークアーチャーを斬り伏せたと言う流れとなった。
「…アイスニードル。…アイスニードル。…アイスニードル。」
雫は自身が小柄な体格な為襲いやすいと思ったのか、それとも先程のアイシクルレイン程の魔法はもう撃てない、とでも思われたのだろう。
雫は自分に向かって来るオーク達を、持っている杖の先からアイシクルレインと同じ大きさの氷の塊を単発で発射させる氷系初級魔法のアイスニードルを連続で放ち、作業の様に淡々と倒していった。
「ブ、ブヒィ…。」
「よし、今倒したオークで最後だな。オレ達じゃ凛の加勢は厳しいだろうし、せめて美羽の役には立たないとな。急いで美羽の元へ行くぞ!」
最後に残ったオークメイジは火燐に斬られたのが致命傷となり、そう声を上げて前方にどさっと倒れた。
火燐は最後と思われるオークを倒した後、そう言って美羽の所へ向かおうとする。
一方、美羽が相手をする2体のオークジェネラルの内、槍を持っている方のオークジェネラルは、持っている槍を空へ向けて両手で横に高速回転させた事でアイシクルレインを擦り傷だけで済ませていた。
もう一方のオークジェネラルは盾を上に掲げ、身体強化で体を硬くしてアイシクルレインを耐えていた。
剣を持っているオークジェネラルはもう一方のオークジェネラルとは違い、動きやすさよりも防御力を重視した全身鎧を纏っていた。
更に身体強化を使用していた為か、こちらも軽傷だった様だ。
美羽はアイシクルレインが発動している間に、ブロードソードと丸盾を持っているオークジェネラルは身体強化で身を守っている為、直ぐにはこちらへ向けて攻撃して来ないと判断する。
その為美羽は走りながら、槍を持っていて(動きやすさの為か)腕や腹部が露出しているオークジェネラルの方を先に弱らせるか倒すと決めた様だ。
槍を持っているオークジェネラルは、アイシクルレインが止んだ事で槍を高速回転して防ぐ行動を止め、こちらへ向け正面から走って来る美羽の方を向く。
「ブモォッ!!」
「そう来ると思ってたよ!」
「ブッ!?ブォ…。」
オークジェネラルは美羽の方向を向くと、現在15メートル程前の所に美羽がいる事が分かった。
オークジェネラルは槍を持っている手を少し引いた後に左足を前に踏み出し、そう叫びながら目の前に来た美羽に向けて勢い良く突きを放つ。
美羽はその流れで来るのが分かっていた様だ。
オークジェネラルが左足を踏み出した時に合わせてとん、と地面を蹴って5メートル程の高さまで跳んだ。
美羽は空中で姿勢を整えながらオークジェネラルの3メートル程背後に降り立ち、そう言いながら腰に差した白と黒の双剣を抜く。
美羽は抜いた双剣でそれぞれ腰と胸の下の高さで右薙ぎと左薙ぎを放ち、見失った美羽に気付いて振り返ろうとするオークジェネラルを3つに分けた。
「ブォォォォォォ!!…ブモォォォッ!!」
「くっ…!」
「ブモォッ!!」
「きゃあっ!」
ブロードソードと丸盾を持ったオークジェネラルは、同じ仲間のオークジェネラルが倒された事に憤った様だ。
オークジェネラルは身体強化をしたまま大きく叫び声を上げ、再び叫び声を上げながら少し離れた美羽の所まで一直線に突っ込み、そのままの勢いで丸盾を前に構えて美羽へ体当たりをした。
美羽は呻き声を上げて双剣を斜めに交差させて体当たりを防いだのだが、オークジェネラルは叫び声を上げて更に体当たりに力を込めた事で美羽を空中へと弾き飛ばす。
しかし美羽は空中でも慌てる事なく体勢を整え、オークジェネラルから20メートル程離れた地点にとん、と着地する。
どうやら美羽は、以前の訓練の時でもマクスウェルや凛から何回何十回も弾き飛ばされた事で慣れていたからか、空中でも態勢を整える術を身に付けた様だ。
「あー、ビックリした!…今度はボクから行くよー!」
美羽はそう言って右手を胸の前にやって安堵した後に双剣をそれぞれ斜め後ろに構え、前傾姿勢になってオークジェネラルへ向けて駆け出した。
「やっ!」
「ブゥゥ…。ブモッ!!」
「おっと!…まだまだ!」
美羽は低い姿勢のまま右手に持った白い剣を右下から掬い上げる様に斬りかかると、オークジェネラルは丸盾を滑らせる様にしてガィン、と防いだ後にブロードソードを斜め上に振りかぶって攻撃する。
美羽はそれをバックステップで避けた後、再び前傾姿勢となってオークジェネラルへ向かって行った。
「ブモッ!!」
「はぁぁっ!!」
「…!」
「やあぁっ!!」
「ブ、ブヒ…。」
それから互いにしばらくの間斬り結んだ所で、オークジェネラルが丸盾を前に構えながらブロードソードを縦に振り下ろした。
それを美羽は両腕に力を込めて双剣を斬り上げ、振り下ろしたブロードソードと前方に構えた丸盾を同時に上へと弾く。
オークジェネラルはブロードソードを振り下ろした筈が反対に弾かれただけでなく、丸盾を持っている腕も上げさせられた事で強制的に万歳の様な体勢にさせられてしまう。
その事でオークジェネラルに大きな隙が出来てしまい、そのまま美羽が斬り上げた双剣を振り下ろす様にして声を上げながら袈裟斬りと逆袈裟斬りを放つ。
その2つの斬撃でオークジェネラルの胸には大きなバツの字の傷が出来、そのまま仰向けの状態で後ろへ倒れた。
「よし、終わり!」
「あー…間に合わなかったか。」
「あっ、火燐ちゃん達も無事に終わったんだね!」
「ああ、どうにかな。」
「良かった。…となると、後はマスターだけだね。マスターはまだオークキングと戦ってるのかな…?」
「そうだな…。」
美羽がそう言った所で、美羽の後ろから自身の元へ真っ先に向かって来た火燐が残念そうにそう言った。
美羽はその声に反応して後ろを振り返り、嬉しそうにしながら答える。
そして火燐から少し遅れた所で手を振りながらこちらへ向かって来る翡翠達の姿が見えた為、美羽も笑顔で手を振って応える。
火燐が翡翠達に手を振っている美羽へそう言った後に美羽はそう答え、2人は揃って凛とオークキングが戦ってるであろう方向を向く。
そして凛の相手となるオークキングはと言うと、集団の先頭にいたのと上空から何か降ってくるのが分かったからか、異変を感じてすぐに走る速度を早めていた。
その為いち早くアイシクルレインの範囲内から抜け出し、もうすぐ自分の元へと辿り着くであろう凛へ狙いを定める。
そして凛とオークキングは10メートル位の間を空け、それぞれ武器を構えた。
「ブモォォォォォォォォォっ!!」
「おっと。」
「ブモゥ!」
「うわっと!」
オークキングは自分達を相手にやってくれたなと威圧と殺意を込め、凛へ向けて咆哮しながら一気に凛の目の前へと移動する。
そして左足を踏み込んで重そうな大剣を軽々と振るい、凛へ向けて右薙ぎを放つ。
オークキングが放った右薙ぎ攻撃は丁度凛の頭の高さに来た為、凛は慌てる事なくそれをしゃがんで避ける。
するとオークキングはしゃがんでいる状態の凛へ向け、吼えながら金属製の脛当てを着けた右足による蹴り上げを行った。
凛は驚いた声を上げつつ、刀と鞘をクロスさせる様に前へ構え、オークキングの方を向きながら後方へ跳んだ。
その際にガキィンと金属同士がぶつかる音がしたが、凛は後方へ跳んだ事により衝撃が軽減された為、ダメージはほとんどなかった様だ。
「今度はこっちから行くよ!」
「………。」
「はぁっ!」
「ブモッ!」
凛は空中で体勢を整えた後にオークキングの前方15メートル位の所にとん、と着地した。
そして凛はそう言ってオークキングの元へ向けて駆け出し、オークキングはそれを迎え撃つ構えでいる。
凛は右手に持った刀で、オークキングは両手に持った大剣で互いにそう叫びながら袈裟斬りを放つ。
その事でキィンと音を立てて刀と大剣が斜めに交差し、その後しばらくの間大剣と刀が打ち合っては離れるを繰り返していた。
「そこぉっ!」
「グブッ!グ…ブォォォォォ!!」
「甘いよ。」
「ブ!?」
そしてギリギリギリ…とオークキングと鍔迫り合いをしている最中に、凛は左手に持っている鞘を逆手から順手に持ち替える。
そして最終試験の際にマクスウェルに杖で突かれた様に、凛はオークキングの腹を鞘で斜め上へ向け、そう叫んで力強く突いた。
オークキングは軽装とは言え鉄の鎧を纏っているにも関わらず、凛が突いた鞘が鉄板越しにオークキングの腹にめり込み、5メートル程ではあるが吹き飛ばされてしまう。
オークキングはそのまま放物線を描く様にして吹き飛んだ後、尻餅をついた状態で地面に着地する。
そして先程の突きが効いたのか、腹を押さえながらよろよろとした状態で立ち上がった。
オークキングはふっふっふっふっと少し苦しそうに呼吸をしており、自分よりも小さな者が優位に立っている事が腹立たしくなった様だ。
大きく吼えながら左足を踏み込んだ後に両手で持った大剣を真上に振り上げ、凛を縦に真っ二つにしようと精一杯力を込めて振り下ろす。
凛はその攻撃を刀と鞘を使って滑らせる様にして往なした事で、大剣はズガァァンと音を立てて地面に叩き付けられる。
オークキングは凛を斬るか攻撃を弾かれると思っていた為、勢い余って前のめりの状態となる。
「怒りのおかげで動きが分かりやすくなったよ。」
「ブヒッ…。」
オークキングは前のめりになった事で、完全に隙だらけな状態となっていた。
そして高さも丁度良くなった事もあり、凛はそう言ってオークキングの首を一刀両断したのだった。