114話 28日目
それから3日経った28日目
「はぁっ!ディメンションスラッシュ!!」
「ボクだって!ディメンションダブルスラッシュ!!」
『!!』
「すげぇ…!」
「…私も負けてられない!」
「2人共凄いねー!」
「流石ですね…!」
少し前から午前4時過ぎに起きる様になった凛達戦闘組は、この日も広くなった訓練部屋にて、思い思いに練習をしていた。
凛は玄冬に特殊な魔力を纏わせ、的である鉄…ではなくハードロックタートルから採集した強硬石の鎧へ向け、少し離れた所で踏み込んだ後に斬撃を放つ。
今回設けた強硬石の鎧は、鉄の鎧だけでは参考にならないとの要望があったので用意した物だ。
強硬石は鉄の何倍もの強度を持った石の事で、新たな目安として部屋内に鎧の姿をした的と言う事で20ヵ所設けた。
凛が目の前に来て直接斬った訳ではないのにも関わらず鎧は斜めにずれて落ちるのだが、凛が放った空間への斬撃は少しの間空中に残ったままだった。
凛が的へ向けて攻撃を仕掛けた後、美羽も同じ様に少し離れた場所で動いた。
そして凛程の大きさではないものの、美羽の進化に伴い進化した2振りの剣に魔力を纏わせ、交差する様に2つの斬撃を放つ。
それにより鎧は4等分され、凛より少し短くて小さいものの空中に斬撃が残った。
火燐、雫、翡翠、楓の4人は凛と美羽の空間への斬撃を見て驚いた後、それぞれが思った事を口にしていた。
凛は最近、訓練の時間を今迄戦闘の経験が無かった者や、少しずつ調子が出て来た者へ教える事に時間を取られる様になっていった。
自分以外の事に訓練の時間を費やした結果、自己鍛練に時間を充てる事が困難になって来た為、早めに起きて訓練する様になる。
初めは4日前(実は紅葉達が王都に着く前日)に凛だけで訓練していた。
「マスタぁ~。」
「美羽!?進化から目覚めたんだね!体は大丈夫?どこか変な所はない?」
「ん~?多分大丈夫だと思うよぉ?」
「そっか…。ともあれ美羽、お疲れ様。」
「うん♪」
しかし昨日凛だけで訓練をしていると、2日半程掛けて進化して目覚めたもののまだ少し眠そうな表情をした美羽がやって来た。
凛は訓練部屋入口にやって来た美羽を心配した後に労う。
そしてその後、美羽の体に変化が無いかをナビと共に調べる。
どうやら美羽は2日半掛けてヨグ=ソトースへと進化した様だ。
因みに美羽が不在の間の2日間、凛はサルーンの街で行動する間は初日に火燐と雫、翌日は翡翠と楓がそれぞれ一緒に凛と行動を共にしていた。
凛は近日商店、喫茶店、公衆浴場の正式オープンに向けての打ち合わせをガイウス、ゴーガン、ダニエル、オズワルドを交えながら話し合った。
紅葉達が王都に訪れた日、あの後凛は紅葉達と一緒に王都を出た。
そして王都から少し離れた所で近くに誰もいない事を確認した凛が使い捨てのポータルを設置してサルーンへと帰宅する。
「ルル、ひょっとしたらまだ商業ギルド員の人達が、ロイドさんの部屋に残っている可能性があると思うんだ。ルルとしては今直ぐにでも迎えに行きたいだろうけど、それだとロイドさんに迷惑が掛かるかも知れない。だからロイドさんを迎えに行くのは、念の為に明日からにして欲しいと思うんだけど…良いかな?」
「そっか…。分かったよ、凛。」
王都から出る為に移動した際に、ルルは凛の配下になるから普通に話して欲しいと凛に頼み、凛も了承する。
ルルはサルーンに戻って直ぐにロイドを迎えに行こうとしたので、凛は何だか嫌な予感がしたのでルルを止めた。
そしてロイドはずっとそわそわしながらルルを待っていたのだが、その日は結局来なかった為しょんぼりしていた。
途中でカーヴァン伯爵小飼いの商人が訪ねてくるのだが、そわそわして何かを待っている風に見えるロイド以外には誰もいないと判断した様だ。
商人はここにはもう用事が無いとばかりに部屋を出た後、次へ向かおうとして直ぐに帰ってしまった。
次の日の夕方にルルが迎えに来た際、ロイドは涙を流して喜んだ。
そしてサルーンの酒場に移動した後、最初はルルと2人でカウンターで飲んでいたのだが途中からガイウスとゴーガン、それとワッズが加わり、ちょっとした宴会の様になってしまった。
因みにガイウス、ゴーガン、ワッズは酒がそれなりに強いとは言え、流石にお酒をボトル等の容器でラッパ飲みするロイドに付いていけなかった。
翌日ガイウス、ゴーガン、ワッズの3人は酷い二日酔いになってしまい仕事どころでは無かった。
その為、凛は状態異常回復魔法リカバーを掛け、3人の負担を軽くした事で感謝される。
因みに、ロイドとルルのドワーフコンビは翌日もけろっとしていたりする。
その後しっかりと目が覚めた美羽はヨグ=ソトースについて調べようとして説明文を見ると全にして一、一にして全なる者と記載してあった。
「これ…、ボクにはちょっと大袈裟過ぎないかな?」
「うーん…。」
美羽が少し引きながらそう言うと、凛は微妙に返事に困る様な表情をしていた。
美羽は進化した事で『時空間操作』と言うスキルを獲得し、時間や空間に干渉出来る様になった。
それに伴い美羽の召還主である凛や、凛のサポートを行うナビにも反映され、凛も美羽同様に時間・空間へ干渉が出来る様になる。
「マスター、ボクが進化した事で少しは役に立てたかな…?」
「かなりね。美羽のおかげで出来る事が増えたよ。」
「やった!マスター、頭を撫でて撫でてー!」
「(なでなで)美羽は甘えん坊だなぁ。」
「えへへ…♪」
美羽は恥ずかしそうにしながら凛へ尋ねると、凛は頷きながら答える。
美羽はすっと頭を前にやりながら言い、凛は苦笑いを浮かべて撫でる。
美羽はそう言って、気持ち良さそうにしながら目を細めるのだった。