113話
「…紅葉、もう良いよ。後は僕が対応する。」
「凛様?…畏まりました。」
『………。』
がちゃり、と扉を開けて現れた凛が、入りながらそう言うと紅葉はそう言ってすっ、と身を引いた。
代表達はいきなり現れた凛(容姿を含めて)を見て絶句していた。
「初めまして。僕は紅葉達の主で凛と申します。」
凛は軽く頭を下げ、簡単な自己紹介を行う。
その後、今回の一件は先程紅葉が言った通りで知って貰う為に渡した事、
これらは近い内にサルーンのみで販売する物で、金儲けがしたい訳では無いので王都を含めてどこも販売の予定は無い事、
他にも色々な料理等を出す予定なので良ければサルーンへ来て欲しい事を伝える。
代表を含むギルド員達は凛の説明を聞いて更に唖然となった。
それを見ていたオズワルドは他のギルド員と違って凛が提供した事を多少は経験している為、固まっている仲間を見て笑いを堪えるのに必死だった様だ。
「漸く酔いが治まって来……うわっ!あの子滅茶苦茶可愛…あの2人共…(チラッ)、僕が悪かったから(チラッ)武器を収めてくれないかな…?(チラッ)」
そこへやれやれと言いたそうな表情をしながらライアンが部屋へと入って来た。
凛、紅葉、暁の3人は、事前にサーチでライアンがこちらへ向かって来ている事が分かっていたが、凛は特にライアンに対して思う所は無かったのでライアンが今いる部屋に来ても特に何かしようとは思っていなかった。
しかし紅葉と暁はライアンは凛へと突っ込んで行くだろうと予想したので、実際に突っ込むと分かった場合は警告を与えようと考えた様だ。
紅葉と暁はお互いにアイコンタクトを送り合って直ぐに動ける様な構えでいた。
部屋に入ったライアンは凛を見付け、直ぐに突撃しようとしていた。
紅葉と暁は案の定思った通りになりそうなので未然に抑えようと、ライアンが動く前に瞬時にライアンの前へと移動する。
そして紅葉はにっこりと笑いながら、暁は何も言わず無表情のまま持っている武器をライアンの首に当てようとする直前で止めた。
「「…ふふふ(ははは)、ライアン様(殿)、ちょっとあちら(あっち)でお話しましょうか(しようか)?」」
「は、ははは。え、えーっと!嬉しいお誘いなんだけど!今回は遠慮させて貰ったりー、なんて…?」
「「………(こくり)。」」
ライアンは降参と言いたそうにしながら両手を上に挙げてそう言ったが、どうやら凛の事を諦めてはいないらしくチラチラと凛の方へと視線を送っている事に紅葉と暁は気付いていた。
その事で紅葉と暁はライアンに対してあぁ、この人は(こいつは)駄目だと判断した様だ。
その後2人は武器を仕舞い、ライアンを部屋の外へと誘おうとしたがやんわりと断られてしまう。
その後紅葉と暁は、再び互いにアイコンタクトを送り合って頷く。
「ちょっと!2人共いきなりどうしたの!?無視しないで僕の話を聞いてくれな…(バタン)…ギャーーーーっ!!ちょっ!!やめてーー!!」
『!? ………。』
そして紅葉がライアンの左手を、暁がライアンの右手をがっと掴んで出ようとする。
ライアンは猛烈に嫌な予感がしたので、抵抗しようとして踏ん張るも2人の方が力は上なので引き摺られる形で一緒に部屋を出る。
そして直ぐにライアンの悲鳴が聞こえたので紅葉、暁、ライアン以外の一同は3人が部屋から出て行ったと思ったら、少ししていきなりライアンの悲鳴が聞こえたので驚いた。
その後一同は揃って黙るのだった。
少しして3人は戻って来たが、ライアンは少し内股気味になりながらがくがくと震えていた。
そしてライアンは、風が…風が僕の大事な所を何度もヒュッて…と呟いていた。
ライアンは縮こまってしまったが、澄ました顔で戻って来た紅葉と暁を見た凛ははは…と言いながら苦笑いの表情を浮かべ、ギルド側の人達は先程までと違って一気に大人しくなってしまったライアンを見て、得体の知れない恐怖に襲われていた。
その後どうにか宥めたライアンも交えて話し合いは続く。
代表は凛へ何度か王都でも販売して貰えないかを尋ねるが、その度に凛はやんわりと断る。
「商業ギルドだと立場上言えないだろうからライアンさんにお伺いします。王都でこの人は気を付けた方が良いって方はいらっしゃいますか?」
「(! いきなり名前を呼ばれたから吃驚したよ。こんなに可憐で可愛いのに…。)…そうだね、悪い人や悪い貴族ってのは王都に結構いるんだけど、その中でも特にカーヴァン伯爵が目立つかなと僕は思う。貴方もそう思ってるんじゃないかな?」
「………。」
紅葉と暁の説得により凛が男だと知った。
暁がライアンの背中を壁に当てて押さえ、紅葉が圷を使いライアンを磔の様にしながら幾重にも土で出来た輪っかの様な物で上半身と腕を固定する。
固定された土の塊はライアンが幾ら抵抗してもびくともしなかった。
そして紅葉は颯を使って風の塊を起こしライアンの大事な所を下、或いは斜め下からピンポイントで何度も撫でる。
その事で心を折られたライアンは今も少し内股のまま立っており、少し考える素振りを見せてそう言った後に代表を見る。
代表は何も言わず困った表情になりながら、質問から逃げる様に顔を斜め下に向けるのだった。
「肯定、と受け取らせて貰うよ。あの方は目的の為なら手段を選ばないからね、僕も何度か刺客を送られたし今もたまに狙われているよ。だけど貴方は狙われたら人溜まりもないから従わざるをえないんだよね。」
「………私からは何も言えません。」
ライアンはそのまま代表の方を向いて話を続け、代表はこれ以上言いたくないのか黙ってしまうのだった。
その頃、王都にあるとある豪邸では、1人の老人が献上された醤油で味付けされた鯖の缶詰めを、そして甘いシロップに浸けられた白桃の缶詰めを持って来た者に教わりながら食べていた。
「ほう!どちらも今迄に見た事がない物だが、それぞれ違った風味で美味いではないか!貴様もたまには役に立つのだな。それで、これはどこで手に入れたのだ?」
「ははっ!私共商業ギルド本部へ訪れた一団によって齎された物でございます。他にも幾つかあったのですが、伯爵閣下に召し上がって頂こうと思い、直ぐ近くにあったこちらを懐へ入れてこうして参った次第でございます。他にも、激戦の末に倒したベヒーモスも一緒に持って来た様なので併せてご報告をと思いまして。」
「なっ!ベヒーモスだと!?」
商業ギルドの代表を含む偉い人達が慌てて部屋を出て行った隙に、1人のギルド員が近くにあった2種類の缶詰めを懐へと隠し、こそこそと部屋を出てカーヴァン伯爵の元へと向かう。
そして老人ことカーヴァン伯爵は、つい先程可愛がっている商業ギルド員が見た事も食べた事も無かった缶詰めを持って来た事を褒めたが、ギルド員がベヒーモスを持って来た事を伝えると驚いた。
カーヴァン伯爵は噂でしか聞いた事の無いベヒーモスを倒した者が、今食べた物を持って来た者と同じ者達かどうかをギルド員に尋ねる。
ギルド員は(紅葉達を)額に角が生えていたものの見目麗しい男女と人間の少女の組み合わせだった事、
商業ギルド代表と対応していた女性が空間収納スキル持ちで、ベヒーモス程の巨体を収納していたにも関わらずまだ余裕がありそうだった事をカーヴァン伯爵へと伝える。
カーヴァン伯爵は一通り話を聞いた後、
「それは恐らく妖鬼族の一団だな。個体数が少ない為珍しいが、存在していると言う事は聞いた事がある。儂の物になろうとしないライアンよりも、その者達を召し抱えた方がより儂に箔が付くと言う物だな。…おっと、こうしてはおれん!貴様は直ぐにその者達の元へと向かい、ここへと連れて来るのだ!!」
「ははっ、直ぐに!」
カーヴァン伯爵の小飼いの商業ギルド員は直ぐに紅葉達を探しに向かう。
「凛ー、あたい引っ越しの準備がしたいから、王都から早く出ようよー。」
「そうは言ってるけど、実は早くお酒を飲みたいんでしょ?」
「…バレてたか。けどあたい、鍛冶はさっぱりだったけどお酒造りは頑張れそうな気がするんだよ!」
ルルはロイドと話をした後やる事が決まった様だ。
それも相まって早く移動したかったが凛、ライアン、商業ギルド代表が真面目な表情で話を始めた。
ルルは黙って話を聞いていたが我慢出来なかったのと代表が可哀想に思えたので、話の途中ではあるが凛の左腕を軽く引っ張る様にして言った。
凛はそう言ったが半分は当たってるので、ルルは舌をぺろっと出しながら凛へ返事をしてやりたい事を伝える。
「やりたい事が決まったんだ。それじゃルルさん、これからよろしくね?」
「うん!凛、宜しく!」
「え?どう言う事なのかな?」
「あたいはこれから凛のお世話になるって話さ。」
「え?ルルちゃんだけ狡いよ、僕もお世「「駄目です(だ)。」」はい…。」
凛はおっ、と言いながら、やる気に満ち溢れているるるをみて言う。
ルルは両手で凛の左手を握りながらそう言った。
商業ギルド代表はライアンからこれ以上追及されなくて済んだと安堵の表情を浮かべるが、ライアンは納得出来なかったのでルルへと追及しようとした。
しかしにっこりと笑いながらも、強い口調で言った紅葉と暁に対して何も言えなかったので止めざるを得なかった。
その後、早くサルーンへと向かいたい事が決まった紅葉達、ゴーガン、オズワルド、そしてルルがカーヴァン伯爵小飼いのギルド員よりも早く動き、そのまま王都から出る。
その為、カーヴァン伯爵小飼いのギルド員は紅葉達を見付ける事が出来ず、後にカーヴァン伯爵からかなり叱られるのだった。
まさかのルルちゃんのファインプレーw
この日の出来事はここで終わります。