111話
ライアンは先程無理してウイスキーを飲んだ為かその後直ぐに潰れてしまう。
ロイドはライアンを休ませる為に部下を呼び、鍛冶ギルドの休憩室へと運ばせた。
「なあ紅葉、王都にある酒場にもこのウイスキーとかを卸して貰えないかね?サルーンで飲んでて思ったんだけど、エールもワインのどちらも王都よりもサルーンの方が質が良いんだよ。蜂蜜酒は無かったみたいだけどね。」
「以前凛様がサルーン以外ではお店を開かないと仰っていたので、こちらで購入するのは厳しいのではないかと…。」
「えーー!!」
「何じゃとーー!!」
空っぽになったウイスキーの容器を寂しそうに見たルルは、サルーンの様に幾つもの美味しいお酒を王都でも飲みたいと思い紅葉へと尋ねる。
しかし困った表情で紅葉が答えると、ルルとロイドは驚いた後非常に悲しそうな表情になった。
ルルに至っては悲しみの余り崩れ落ちた程だ。
「それなら!言い値で構わないから容器ごと売っとくれよー!」
「ルル様!?お戯れが過ぎますよ!」
『………。』
ルルはばっと頭を上げた後、四つん這いのままカサカサカサと動きながら紅葉へと近付き、紅葉の足にしがみついて顔を見上げながら叫んだ。
紅葉はルルのお酒への執念も相まって足にしがみついた事にドン引きし、ロイド、ルル、紅葉以外の一同はその様子を見て絶句していた。
その後紅葉に言われて立ち上がったルルが、サルーンの宿直室にある様にここにもポータルを設置して良いからと言うと、ポータルと言う単語が聞き慣れないロイドは、ルルが何を言ってるのか分からないと言った表情をする。
「恐らく今回で言えば、サルーンの宿直室とこの部屋を繋いで欲しいと言いたいのだと思われます。」
「…そんな事が可能なのかの?」
「可能か不可能かで言えば可能です。ですがポータルは仮に設置したとしましても、私の主である凛様に連なる者でなければ開閉出来ませんので…。」
「それならあたいが凛の配下になる!」
『えっ?』
「あたい、死にかけた所を凛に助けられてから何か役に立ちたいって思っていたんだよ。森林龍のステーキや今迄に見た事が無い様な珍しい食べ物、飲み物に釣られた事の自覚はあるからそんな風には見えなかったかも知れないけどさ…。それに、あたいはお爺や親父みたいに鍛冶の才能が無いし…。」
『(自覚、あったんだ(あったのですね)…。)』
紅葉がロイドへ説明すると、ルルが挙手をしながら凛の配下になりたいと言った。
一同はルルの行動が予想外だったので、ルルへと疑問の表情を向ける。
ルルは説明を加えるが途中から尻すぼみになって行き、最後は少しいじけるようにしてそれぞれの人差し指同士を重ねる。
紅葉、暁、旭、月夜、小夜の5人はルルを姉御肌の様な、思い切りが良くて小さい事に拘らないさっぱりした人物だと思っていたので、これはこれで予想外だった様で内心そう思っていた。
因みに、ロイドの息子でありルルの父親でもあるルークは材料調達に出ている為現在王都にはいない。
ルルは鍛冶の才能があまり無かったが何か仕事の手伝いがしたいと本人からの希望があった為、一昨年から王都を出てサルーンのワッズの元へと向かい解体用の道具を回収し、王都でメンテナンスを行ってからワッズへ返す事をしていた。
今回は野盗と言うイレギュラーが起きたが、それまではルルの様な銅級冒険者の強さがあれば充分に往復可能だったのだ。
そしてロイドはロイドでルルが言った森林龍のステーキと言う単語を聞いて、食べた事はないが先程のウイスキーと合わせたら最高なんだろうなと想像を膨らませていた。
「(ルルさんのお酒好きは凄まじいね。とは言え、これを断ったりでもしたらお酒を飲みにサルーンへ行くって言いそうだもんな…。危険な目に遭わせるよりはマシだろうから配下になって貰おうかな。それと紅葉達にも少し話があるので、安全そうな所にポータルを設置して貰って良い?)」
「(はい…。お話、でしょうか?ロイド様に伺って来ますね。)」
その後紅葉は凛へ念話で事情を説明すると、その様に返事が来たので少し疑問に思いながらもロイドの元へと向かい、鍛冶ギルドで安全そうな部屋が無いかを尋ねる。
すると都合が良いのか分からないが、ロイドの作業部屋の隣に失敗作や不要な物を押し込んで使わなくなった部屋があるとの事だそうだ。
ロイドが片付けてくれたらその部屋を自由にして良いと言ったので紅葉達は直ぐに向かい片付けを行った後、清浄で綺麗にしてから6畳程ある部屋の真ん中にポータルを設置する。
そして紅葉が設置を終えた事を凛へ伝えると、直ぐに凛がやって来た。
凛はポータルを設置した部屋を通ってロイドの元へ向かう。
「貴方がロイドさんですね?初めまして、僕が紅葉達の主で凛と言います。」
凛は自分よりも少しだけ身長の低いロイドへ向け、そう言った後に頭を下げるのだった。