107話
「いやはや…儂もそこそこ長く生きているつもりだったが、今日程驚いた日はないわい。ワッズの道具が改良されてたと言っていたがどれ程の物かの?」
「見た目は若干白っぽくなっただけでそんなに変わっている風には見えなかったよ。けど、普通の道具じゃ無くなってたんで正直あたいにはさっぱりだった。道具に魔銀が練り込まれているってワッズが言ってたから試しに少し魔力を通してみたんだけど、金級の魔物のダイアウルフも簡単に解体出来たから驚いたよ。凛ってのが恩人の名前なんだけど、魔銀級迄の魔物をワッズに解体を頼むって言ってるらしくてさ。ワッズは早く次の魔銀級の魔物を解体したいみたいでウズウズしてるんだよね。」
「ほう、魔銀級とな!あ奴め、何と羨ましい…。儂でも数える位しか魔銀級の魔物を解体しとらんと言うのに。…そう言えばさっきベヒーモスと言っておったの。儂も名前しか聞いとらんから非常に怖い魔物としか聞いとらんのじゃが、ルルは見たのかの?」
「ああ。死体を見させて貰ったけど、あんなのが目の前に現れたら直ぐにあたいはここで死ぬんだなって思わせる位、死んでも尚存在感があると言うか凄い迫力だったよ。そのベヒーモスは凛が1人で倒したらしいね。」
「儂も見てみた「お邪魔するよ。」何じゃ、ライアンか。」
「げっ!?ライアン!ここへ何しに来たのさ!!」
「何しにとはいきなりだねルルちゃん。王都の南にある魔素点から帰還したんだよ。本当なら愛するハニー達の元へと行きたい所なんだけど、君と一緒にいた紅葉ちゃん達を王都へ招く為にロイド殿の助力を借りに来たに決まってるじゃないか。」
「何で!!…って入口でのあたい達の様子を見ていた、それと魔素点はいつもの間引きって所か。そう言えばあんた、何で紅葉達を知っているんだい?」
「紅葉ちゃんに一目惚れしたからに決まってるじゃないか!まぁ…、流れで暁君に挑んだら完敗したんだけどね…。お昼をご馳走になってそのまま真っ直ぐここへ向かったって訳さ。」
「あー、そうだった…ライアンはこういう奴だったね。紅葉、御愁傷様だよ…。(この様子じゃライアンを凛へと会わたらどうなる事やらだね…。)」
ルルがロイドと話をしていると、ライアンがノックも無しに扉を開けてロイドの部屋へと入ってくる。
ライアンが来るとは思っていなかったのか、ルルは非常に驚いた後あからさまに嫌そうな顔をしてライアンへ強めの口調で尋ねる。
ライアンは慣れているのか特に気にした様子を見せないで答えた。
その後2人は軽く話し、話の最後にルルは合掌をするのだった。
話に出ていた魔素点だが、王都の周りには2ヵ所の魔素点が存在する。
王都から5キロ程西にある平原にはゴブリンやウルフ、コボルト等の鉄級から銅級の強さを持つ魔物が湧く。
そして8キロ程南南東にある湿地帯にはオークやオーガ、それと蜥蜴が2足歩行をする様になった銀級の強さを持つ魔物のリザードマン、更にはヒュドラと呼ばれる複数の頭を持つ金級下位の強さである下位竜等が湧く。
どちらの魔素点の魔物も死滅の森程の心地よさはないのか、魔素点から出る事が多い。
特に湿地帯の魔物は定期的に高位の冒険者が間引かないと周りへ被害が出てしまう。
最近は魔素点が少し活発になったのか湧いてくる魔物の数が多かったのでライアンにも召集がかかった様だ。
どうでも良い事だが、ライアンには現在13人の彼女がいる。
紅葉達やルルは毛嫌いをしているが、女性受けする甘いマスクで魔銀級の強さともなればかなりモテる様だ。
先程の決闘(?)で暁がライアンを圧倒した為、その事が切っ掛けで後に暁にかなりのファンが出来るのだが今は割愛する。
この日もライアンは朝一で他の高位の冒険者達と湿地帯へ向かい、湿地帯にいる魔物を殲滅して戻って来た。
そこへ紅葉達がいた事で興味を持ち声を掛けたのだった。
3人は軽く話をしたのだが、話を聞くに連れてロイドが紅葉達に興味を持ち、今日の仕事は先程ので終わりと言う事にして揃って南東の入口へと向かう事にしたのだった。
因みに、王都は直径10キロ程あり中心に王城がある。
そして東西南北、それの半分ずつの計8ヵ所の入口がありルル達は紅葉達が待っているであろう、南東の入口へと急ぐ。
「あの、ロイド様…勝手をされては困ります。」
「馬鹿者!!何が勝手じゃ!孫であるルルを助けてくれた恩人の部下を王都へ入れるのに実績もクソもあるか!それにこのライアンに勝てる程の強さを持った者が暴れでもしたら儂らが困るのじゃぞ!!」
「…それを言われちゃうと僕としてはちょっと複雑かなぁ。」
「ライアン、お主もお主じゃ。近頃は鍛練をあまり行っておらんらしいそうじゃな?」
「うひゃー!とばっちりが来たー!」
ルルがお待たせ!と言って紅葉達の元へと戻り、王都へと紅葉を引っ張る様にして連れて行こうとし、暁達は顔を見合わせた後に後ろを付いて行く。
ロイドはふむ、と言いながら口元から生えた立派な髭を撫でながら紅葉達を見る。
「(自然体にしている様に見えるが、全く隙が見当たらんわい。こりゃ、ライアンが負ける訳じゃの。)」
そしてロイドは紅葉達を綺麗な見た目とは裏腹にかなりの実力者だと判断した様だ。
ロイドは身長が130センチ程しかないが、老いた見た目とは裏腹に鍛冶によって鍛え抜かれた肉体をしている。
そして200年以上生きているからか相手を見るだけで、それなりに強さを判断出来るらしい。
ルルは紅葉達を連れて王都へ入ろうとすると当然門番が止めるのだが、ロイドがこれを一喝する。
流れ弾を受けたライアンは右手で後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべて言った後、ロイドに睨まれたので一旦逃げる。
そのままロイドによる実力行使で、紅葉達は王都へと入るのだった。
「(今はロイド様先導の元で商業ギルド本部に向かっている所です。)」
「(そうなんだ、ロイドさんに感謝しないとだね。)」
「(ええ、そうですね。)」
「(そう言えば王都を含めて建物の特徴を聞いていなかったけど、どんな感じなのかな?)」
「(建物の特徴でしょうか?えぇと、そうですね…。)」
紅葉は凛が用意してくれた日本風の屋敷以外の建物にあまり関心が無かったからか、王都以外の都市や街等の特徴を凛に伝えていなかった。
紅葉によると、アウドニア王国王都カムレノアは一般的には王都と略され、クリーム色の王城を中心に他の建物も大体白色で統一されている。
鍛冶ギルドは茶色の煉瓦で組まれていて、冒険者ギルドも頑丈な木を中心とした茶色の建物である為、遠目から見てもそれぞれ目立つ。
ソアラは木で出来た建物が多かった…と言う事を隣にいるルルに尋ねて分かったのだそうだ。
「(うぅ…、お役に立てず申し訳ありません…。)」
「(いや、僕にも問題があったから紅葉は気にする事無いよ。)」
紅葉は役に立てなかったと落ち込んでしまった為、凛は紅葉を宥めるのだった。
凛はフーリガンでの救助の際に少しだけ訪れたが、全体的に少しボロボロな建物だったが盗賊達が所有する建物は少し黒っぽい印象を受けた。
サルーンは石造りや木造が半々と言った感じだ。
「(やっぱり住む所によって建物も変わるんだね。)」
「(そうですね。そろそろ商業ギルドに着くそうなので一旦念話を切らせて頂きますね。)」
「(うん、分かった。また何か進展したら教えてね。)」
「(はい。それでは一旦失礼しますね。)」
紅葉は暫く凛と念話した後、そう言って念話を切ったのだった。