104話
「へぇ…それじゃ紅葉ちゃん達は主の代わりとしてサルーンからここまで来たんだね。」
「(紅葉ちゃん…ですか…)えぇ、そうですね。とは言え、今はここで足踏みしている状態ではありますが。」
結局紅葉達から離れようとせずに昼食を食べ終えたライアンは、どこから昼食の料理を出したのか、王都へは何の用事があって来たのか等、根掘り葉掘り紅葉へと尋ねて来た。
暁はライアンへと再三離れる様に言うが効果が無く、旭は暁に任せたと言わんばかりに昼食を美味しそうに食べ続け、月夜と小夜はライアンを白い目で見ていた。
クロエはライアンを警戒して飛び掛かろうとしたが直ぐに紅葉が諫めた。
今も紅葉がクロエを膝枕しながら頭を撫で、クロエは気持ち良さそうにしている。
紅葉は説明する気は無かったのだが、ライアンがあまりにしつこいので最低限だけの情報、つまり自分達が主(凛とは言っていない)の代わりに、(森林龍の素材売却、それと可能であればベヒーモスとアダマンタートルもとも言っていない)護衛としてサルーンから馬車で王都へやって来たと伝えた。
そして紅葉は自分の事をちゃん付けで呼ぶライアンに対し、内心ドン引きしながらも表情に出さない様に努めて相槌を打つ。
「よし、それじゃ僕も王都に入って紅葉ちゃん達が中へ入れないか聞いてくるよ。」
「…宜しいのですか?」
「うん。迷惑を掛けちゃったお詫びと昼食のお礼って事で。今度サルーンへ遊びに行くよ、それじゃね。」
昼食も大分進んだ所でライアンは立ち上がり、紅葉と軽く話した後に王都の方へと向かって歩き出した。
10歩程進んだ所で上半身だけを後ろに向け、主に紅葉へと向けてウインクをする。
そして再び歩き出すのだった。
紅葉達女性陣はぞわわ、と嫌悪感を抱いた後、出来ればサルーンへ来ないで欲しいと思ったが、それをどうにか飲み込んで表に出さない様に努めてにこりと笑った。
「変わった人でしたね…。」
「ええ、ですがきっと後でまた会う事になるのでしょうね…。」
「紅葉様、私…、あの人はちょっと…。」
「私も…。」
「私もかなぁ。私、早くあの人以上に強くなって紅葉様の前に立って防げる様にならなきゃ!」
暁、紅葉、月夜、小夜、クロエはそれぞれそう言った。
クロエは最初ライアンを見て格好良い人だなぁと客観的に思っていたが、恩人である紅葉を口説きに掛かった事で一気に興味を無くし、ライアンの事を敵だと認識した様だ。
そして今回の事で更に強くなろうと思った様で、両手を前にやってぐっと握った。
「~~~~~!」
因みに旭はずっと我関せずと言った感じで昼食を食べていた為、暁から拳骨を貰い痛そうにしている。
旭は訓練の時は真面目なのだが、それ以外の場面だとちゃっかりしていると言うか強かな所があるので、その度に怒られているのだが中々直らない様だ。
「(俺もまだまだだな…。)」
その後暁は鞘から抜いた皹の入った大太刀を見て、更に精進しようと思うのだった。
「(紅葉、変わった人に目を付けられちゃったんだね。)」
「(はい…。せめてもの救いは凛様や美羽様ではなく私で良かった事ですね。それと、ライアン様とのやり取りが終わった後から、周りの方々から少しずつ声を掛けられる様になりました。)」
「(それは良かった内に入るのかな…?ともあれ紅葉達は魅力的だから、周りの人達は今迄は声を掛けにくかったんだろうね。)」
「(凛様…恥ずかしいです。)」
紅葉から一通り説明を受けた凛は紅葉を労った後、世界に数人しかいない魔銀級冒険者の1人がちょっと変わった人だと言った後、そっと紅葉へと突っ込みを入れる。
そして紅葉は凛に褒められたと思い、少しの間紅葉は視線を斜め下にやり両手をお腹の前へとやって恥ずかしそうにしながらはにかんだ。
『(紅葉様…凛様に褒められたんだな。嬉しそう…。)』
暁達は紅葉の様子を見てそう思いほっこりしていた。
周りの人達は恥ずかしそうにしている紅葉を見て、奥ゆかしいと感じたのもあってかノックアウトされていた。
ある者は紅葉を見てデレーっとしていた為、それを見て怒った連れの女性からビンタを貰ったり、
似たような背丈の男性2人が顔を横に向けながら紅葉を見ていた為に頭同士をぶつけて悶絶したりしていた。
紅葉は凛とこの後も少し念話で話した。
念話が終わった後もゴーガン達が戻って来る迄、何時間かその場にて待つのだった。