100話 25日目
夕食後、凛はゴーガンと映像水晶で話をしていたのだが、その際にたまにはこちらで訓練してみてはどうかと尋ねてみた所、ゴーガンはこれに乗り気となるも、自分だけが向かうのは悪いと判断したのか紅葉達も一緒にと言う流れに。
そして紅葉達が訓練を行う事で不在にする間、入れ替わりとして代わりの護衛を送る事で話が纏まった。
25日目 午前6時前
久しぶりに紅葉、暁、旭、月夜、小夜、クロエ、それとゴーガンがやって来た。
凛は紅葉達が来たのを確認した後、一時的にゼータを護衛としてルル、オズワルド、商人の元へ向かわせる事に。
しかしルル達は今回初めてゼータの姿を見る事になるのだが、その幼い見た目からあまり強そうに感じなかった為半信半疑と言った感じでゼータの事を見ていた。
対するゼータはと言うと、ルル達が自分の事を疑っているのをお構いなしと言った感じで到着して早々に明後日の方を向き、無限収納から4基のビットを出して展開し始める。
そしてほんの少しだけ地上から浮く形となって500メートル程離れた所へ向けてスーッと移動して行くと、やがてその先にある茂みの中にいたウルフ11体がゼータに襲い掛かろうとして飛び掛かって来た。
「敵だと断定。ただちに殲滅します。」
それをゼータは淡々とした様子でそう言った後、少し離れた位置から弓やビットを用いて瞬く間に倒した。
どうやらウルフ達は、昨晩からこちらの事を見張っていたのにも関わらず、紅葉達やゴーガンに警戒された事が分かった為か手が出せなかった様だ。
しかし入れ替わりで来たゼータは無気力と言うか、淡々とした様子で覇気がないと感じられた事で群れのリーダーはチャンスだと判断し、一気に倒してしまおうとして襲い掛かるもあっさり返り討ちにあったと言う流れとなる。
ルル達はゼータが得体の知れない物を出した後にどへ向かうのだろうかと思っていたのだが、すぐに複数のウルフが現れてあっという間に倒していった為、状況が理解出来ずに固まってしまっていた。
ゼータはそんなルル達の事は気にしていないのか、淡々とした様子で倒したウルフ達を収納しに向かう。
「…ガイウス。君は毎日、実力が近い者や格上の者と訓練出来るから良いよね。僕も紅葉君達に軽く手合わせをして貰ってはいるけど、護衛の中では僕が1番弱くてね。僕よりも伸び代がある紅葉君達に無理をさせてまで、手合わせに付き合って欲しくはないんだよ。僕も早くサルーンに戻りたいものだ。」
「いや、それを俺に言われてもだな。と言うかゴーガンよ、良い歳して拗ねるなよ…。」
ルル達がゼータの実力に驚いている一方で、ゴーガンは久しぶりにガイウスとも手合わせを行っていたのだが、自分がいない間に少し腕を上げていた事が悔しかった様だ。
ガイウスと距離を取った後に少し拗ねた様子でそう言った為、ガイウスは困った表情を浮かべながら話していた。
『………。』
そしてその様子を、ニーナ達を除く元村人達や妖狐族の者達、それとフーリガンで購入された奴隷達が見ていた。
ガイウスがここ数日、誰かしらと訓練している事を見ていたのだが、今日はいつもと違う様子で訓練していると感じた様だ。
昔からお互いの事を知っているかの様に、遠慮しないでぶつかり合う姿を見て、自分達もいつかあそこまで強くなりたいとでも思ったのか、その後の訓練に更に精を出す様になる。
それと、ニーナ達は幹部となった事で凛に能力の底上げをして貰った為、現状を把握しようとしたのか5人で固まって魔法の訓練をしていた。
ガイウス達は訓練部屋で訓練を行っているのだが、現在同じ魔法訓練部屋で魔法の訓練を行っているのは、ニーナ達とは別にエルマとイルマだけの様だ。
ニーナが氷系中級魔法のフローズンスピアを唱え、自身の目の前に直径50センチ程、長さ2メートル弱の氷で出来た槍を生成した後に的へ向けて放った。
ニーナが放ったフローズンスピアは的の真ん中に当たって貫通し、それによって的に大きな穴が空く。
トーマス達はその様子を見て納得した後、少し慣れた様子で自分達も同じく中級魔法のフレイムスピアやロックスピアを的に向けて放っていった。
訓練が終わった後に皆で少し雑談をしていると、その中でゴーガンが後2、3時間程で王都に着くだろうと話す。
それを聞いた凛は紅葉達に、あちらに戻ったらカムフラージュと言う事で、(無限収納ではなく)空間収納から森林龍の素材等を出して馬車に直す事を告げる。
そしてそれが終わったら普段の武器を一旦直し、代わりに量産型の武器を帯刀したりして周囲から不自然に思われない様にと伝え、紅葉達はこれを了承する。
その後、紅葉達は訓練を終えた事であちらへ戻り、護衛に行っていたゼータが戻って来た。
凛はゼータへ通常通りに戻る様に指示を行い、ゼータが了承の返事を返したのを確認して街へ向かう。
凛と美羽は冒険者ギルドから少し東に行った所にある100坪程の更地へ向かい、1時間程共同で作業を行って公衆浴場を完成させる。
建物自体は銭湯の様だが、入口は男性側と女性側と2ヵ所あり、それぞれ入ってすぐの所に受付を設けてある。
そしてそれぞれの受付で先に料金を支払い、備え付けのボディーソープやシャンプー、コンディショナー等で全身を整えた後に温かい風呂と水風呂に入って楽しんで貰う。
しかし凛達が今回用意した公衆浴場は、純粋に大きな風呂として作っている為、勿論卓球台や冷たい飲み物、マッサージチェア等は用意していない。
凛はまず毎日入浴して貰う事に慣れてもらうつもりで公衆浴場を建てた事もあって、しばらくしたら用意するつもりの様だ。
午前10時頃
凛はフーリガンの人達を公衆浴場で働いて貰おうと判断したのか、実際に体験する事で公衆浴場の使い方を教えようと彼らを招く。
そして凛が案内しようとしたのだが、フーリガンの人達はかなり恐縮した様子だった為、凛は少し落ち込んだ様子でトーマスとニーナを呼んだ。
事情を聞いた2人は苦笑いの表情を浮かべた後、それぞれが先導する形で彼らを風呂へと案内し始めるのだが、そこへ紅葉から凛の元に念話で王都に入れなかったとの連絡が入る。
「(え?王都に入れない?どうしてなんだろ…。)」
「(何でも、私達が実績のない亜人だから、だそうです。ゴーガン様はこの事を知らなかったらしく、入口で門番の方々と交渉してはおりますが…あまり芳しくない御様子ですね。ルル様はこの事をすっかり忘れていた様でして、今はゴーガン様の元にいらっしゃいますがこちらも同じの様です。)」
「(そうなんだ…。ルルさんが王都から来たって聞いてたから、まさか紅葉達が亜人だからって理由で門前払いをくらうとは思わなかったよ。紅葉、ごめんね?)」
「(いえ、お気になさらず。ですが参りました、このままこちらで足踏みをしている場合ではないのですが…。)」
「(そうだよね。折角森林龍の素材や売りたい物を出して、馬車へ積んだって言うのに…。)」
「(ええ、そうですね…。)」
因みに、紅葉が言った足踏みは王都の前で待たされれば待たされる程、敬愛する凛の元に戻るのが遅くなるからと言う意味だった。
凛は違う意味で捉えてしまったのだが、紅葉は訂正する程ではないし、訂正したらしたで自分が恥ずかしくなると思ったのか敢えてそのままにした様だ。
「(…凛様、ゴーガン様とルル様がこちらへ向かって来られる様です。一旦念話を切らせて頂きますね。)」
「(うん、分かった。また何か変化が起きたら教えてね?)」
「(畏まりました。それでは失礼致します。)」
その後も2人は軽く念話でのやり取りを行い、紅葉がそう言った事で凛との念話を終えるのだった。