奥山さんはモテる
奥山さんはモテる。
「あかりちゃん、びっくりしないで聞いてくれる?」
「いや、奥山さんと会話していたらだいたいのことではびっくりしないぐらいの心構え出来るようになったけど。一応覚悟して聞いてみるよ」
「そんなに構えなくてもいいけど」
「奥山さんは毎日だいたい二回か三回は破天荒だから心構え出来るようになった私も成長していると思うのね」
「あかりちゃんを成長させているつもりはないよね」
「私もまさかこういう形で成長するつもりはなかったよね」
かわいいゆるふわあかりちゃん。ゆるふわな外見の中身は無意識な尖ったナイフだ。奥山さんの屈強で鈍感なハートも、あかりちゃんの尖ったナイフでたまに傷がつくことを誰か理解してくれてもいいのに……
「実は告白されました」
「奥山さん?寝言は寝てるときに言うもんだって。今さら教えなきゃならないのかな?」
「大丈夫、この件に関しては私も寝言だったらいいのにと覚醒しながら思っているから」
「ほう、それは如何なる事情が?」
奥山さんは、ふぅっと小さく息を吐き出し、あかりちゃんにあるものと自分にないものを考えてみた。その逆も。
「女の子だよ!女の子成分だよ!」
「は?」
「なんであかりちゃんのその有り余る女の子成分のほんの少しでもうっかり私に流れ込んでこないの?」
「なんかよくわかんないけど、その成分がほんの少し流れ込んだら女装上手な奥山さんになるよ?」
「私がゆるふわ女子なら……」
「何?」
「告白されなかったと思う」
「話が見えないな?」
奥山さんは「キィー!」と小さく声にもならない音を喉からもらした。
「今朝、見知らぬ女子高生から告白されました」
「あ……察し……」
「なくていいし」
察せられる意味がわからないよ、あかりちゃん。
「とりあえず学校遅刻する時間だし、せっかく告白してきてくれてアレだけど私は女だし、とにかくとっとと登校しなさいって言ったんだけど」
「うん、まあ、そうね、遅刻はだめって遅刻ギリギリの人に言われる女子高生の気持ちとか好きな人がなんと実は女だった女子高生の気持ちとか」
察するに修羅場?
「期待させてんじゃねぇよ女装野郎!って矛盾した暴言吐かれる気持ち。あかりちゃんにはわからないよね?」
「間違いなく一生わからないね」
「でしょうね!女の子に告白されてわずかながらでも申し訳ないなと事実を話して暴言吐かれて虚しくなるこの気持ち!何回経験してもさ!私の存在が犯罪みたいな気持ちになる罪悪感!ゆるふわなあかりちゃんには想像もつかないでしょうね!」
神様はいつもどこかで不公平。無い物ねだりをさせて向上心を煽って人を成長させようという魂胆なら。密かに着けている育乳ブラの効果が少しぐらいあってもいいのに。
神様は世界一理不尽だと思うし、そうなると何を信じてどこに向かえばいいのかさっぱりわからない。
「どこに向かえばいいのかわからないよ!」
奥山さんはモテる。