支援攻撃:衝突
遅くなって申し訳ありません…
今日はあと1本投稿させていただきます
そして、レオンは拠点からそれを目撃した。
「ああ、なるほど。そういう魂胆ですか」
彼は顎に手を当て、冷静にシグマの行動を分析した。
「たしかにそれをしても、姫様の位置からは死角となって気づかれないでしょう。どうやらシグマさんは奇襲をかけるつもりのようだ。いやはや、この期に及んでまだ足掻きますか」
するとレオンは右腕を構えた。途端、先ほどシグマに当てそこない地面に陥没していた戦斧が大きく震えたかと思えば、勢いよく引き抜かれそのまま回転しながらレオンの下に戻ってくる。
「ですが、それは誰彼にも気づかれない前提で行えるもの。私の位置から見えてしまった以上、そう易々とはやらせませんよ、シグマさん―――!」
戻ってきた戦斧の柄を握りしめるようにキャッチし、レオンは再び投
擲の構えに入る。
狙いを過たぬようしっかりと定めて、レオンは勢いよく戦斧を放り投げた―――!
◆◆◆◆◆
そして、レオンが気づいたのと同時に。
シグマの後方にいたハウルも、それを視た。そしてその意図も把握する。
どうもルカライネは彼の防壁が塞いでいて見えていないらしい。
シグマにかけていた『傷痕を癒す治癒の光膜』を解除したことにより、彼の容態が気が気ではないハウル。
もしも今、彼が画策している目論見が成功すれば、この勝負に決着をつけることができる。そうなれば、シグマを蝕んでいる苦しみから解放することができる。
だけど、そう簡単にはいかないだろうと疑いを持っている自分もいる。
ずっと、ずっと、この戦いでは勝利を確信して、それを裏切られてきた。だからこそ、ハウルは今度の勝利の予感を鵜呑みにしない。
すると、シグマとルカライネが戦っている向こう側で、先ほど彼が回避し地面に突き刺さったままの戦斧が大きく動いているのが見えた。
やがてそれは勢いよく引き抜かれると、そのまま宙を走って拠点のレオンの下へ。
それを目の当たりにして、ハウルは彼が妨害を行おうとしているのだと判断した。
弾かれたように身体が動く。『摂理を統べる魔導の書』に魔力を通し、ページを展開させる。
ようやく得た逆転の機会。それをむざむざ見ているだけで、目の前で台無しにされるなど、とても許容できるものではない。
開かれたページに書かれた文字列が発光する。力強い、白色の輝き。
それが問題としていた照準のしにくさは、昨日の術式研究中に補強し改善してある。今ならば、彼女は狙撃手も舌を巻くほどの精密射撃を可能とする。
そして、拠点から投擲された戦斧。高速回転をして空を切り飛翔する様は、ギロチンのように。
まっすぐに、シグマへ向かって飛んでいく。
その戦斧に目標を定めて。
「―――『闇夜を穿つ眩き閃光』‼」
彼女は、展開した光弾を解き放った。
それは磁石の対極同士を近づけたかのように。微塵のブレなく戦斧へ流れていき。
響く金属音。
シグマを狙った戦斧は、彼の頭上で弾かれ軌道を大きく変えた。
レオンが息を呑む気配が、遠く離れたハウルの位置にまで感じ取れる。
ようやく、ここに来て一矢を剥く得た実感が、彼女の中を支配した。その感覚は次の迎撃に向けての大きな自信となる。
光弾を再度展開。至近を漂う無数の砲弾に囲まれながら、ハウルはもう一度レオンを見た。
「もうぜったいに、シグマの邪魔はさせない!」
告げる意思表示。
きっとハウルは、シグマが事を成し遂げるまで、あらゆる妨害から彼を守り抜くだろう。
こうしてレオンはルカライネを守るための、援護の手立てを失ってしまった。