EXTRA
同時刻。
リューズビーリア王宮にて。
「―――何ですって?」
両側が部屋になっている関係で、夕日が零れる窓は一つしかない執務室。そこで今まで書類作業を行っていた彼女は、毅然とした態度で現れた衛兵の報告に、思わず執務の手を止めた。
「それは確かなの?」
「はい。森へ放った偵察用魔術礼装の内一つが、継承者様の居場所を突き留めました」
「そう……状態は?」
「確認した限りでは健全です。ただ、どうも単独行動ではないようで……」
「協力者、あるいは簒奪者がいると」
「今のところ断定はできておりませんが」
「どちらにせよ話を聞かなければならないわね」
「では、兵を確保に向かわせますか?」
「もう日が暮れるわ。夜の森は迷いやすく、なにより獰猛な猛獣の活動時間でもある。継承者も阿呆じゃなければ無闇に動こうとはしないでしょう。だから追跡は朝一番で向かわせなさい」
「御意。では、捜索隊へ通達しておきます」
「ええ、宜しくお願い」
深々と一礼し、背を向けて執務室から出ていく衛兵を見送ると、彼女は嘆息して持っていた羽ペンをスタンドに立てかける。そして執務机から離れ、背後にある巨大なガラス窓の方へ歩いていく。
夕日に灼ける城下町を映す窓は、さながら一枚の精巧な絵の様で。
彼女はその映る景色を撫でるように手を重ねた。
「……そう、生きていたのね」
呟かれたその一言には、確かに安堵が含まれてはいる。だが同時に、僅かばかりの怒りが滲んでいるのもまた事実。
彼女が何を視て、何を想い、何故そう呟いたかは、今はまだ彼女にしかわからない。
ただ一つだけ言えるのは、彼女こそがシグマを召喚した張本人ということ。
「……私の過ちは吉となるか凶となるか。どちらにせよ、進むことに変わりはないけれど」
窓ガラスに反射する彼女の紅い瞳は、強い意志で滾る焔に染まっているかのように。
その覚悟を示すため、彼女は一人、己が決意を口にする。
「此度の王位継承戦―――勝つのは私たち、リューズビーリアよ」
彼女の名はルカライネ・エグニカルス・ファルサーニャ。
国を治め統治する、リューズビーリアの現王女である。