第1話 神隠し
洞窟を探検することが大好きな俺こと結城英は父親の仕事の都合で岡山県のとある町に来ていた。
ここらへんは、遥か昔から神隠しという不思議な現象が起きる町として有名で最近では職業体験にきていた中学生数人が作業中にいきなり消えてしまったという。
こういった事件は世界各地に頻繁に発生し、新聞やニュースでは現代の神隠しか!はたまた国家絡みの誘拐か!など連日ニュースで賑わいを見せている。
日本はここ数年15歳から20歳前後の学生たちが山や洞窟に足を踏み入れた途端に消えてしまうという現象がまことしやかに囁かれている。
当初は学生たちが肝試し目的で危険な場所に入り、洞窟などから出られなくなったなどの説があったが、集団でそれも世界各地で起きているということに、日本政府もようやく異常事態だと認識し、その重たい腰をようやく上げたのである。
そんなこともあり、数年前に国で初めて怪奇現象調査局というものを立ち上げ、もっとも人数が居なくなったこの町に俺の父が派遣されたのだ。
俺の父親、結城悟は所謂国家公務員というやつで家柄もかなりいいのだが、昔からファンタジー世界に興味があり、自ら進んで怪奇現象調査局に入局したのである。
俺も母親もこの怪奇現象には、半信半疑だったが父の強い勧めで一緒にこのきな臭い町に引っ越してきたのであった。
このきな臭い町の名は龍道町と呼ばれ、本当だかどうかはわからないが、その昔、龍の神によって作られた世界へ通じる道がある町として有名だそうだ。
いつできたのかは、わからないが山には龍道寺と呼ばれているお寺があり、その奥には龍の神が祭られた祠があるという。
今日はその調査のために父を隊長とした調査団がその祠とお寺を調べるのだという。
父が朝から調査に出て、昼頃に母からお弁当を届けてくれと頼まれ、いやいや龍道寺に一人でいくことになった。
自転車に乗り、山を必死に上りようやく龍道寺に辿りついた。
「はあーしんどいな」
母に頼まれたとはいえ、山を登るのは一苦労だったので、自然とため息が出てしまう。
お寺に入り、お坊さんに聞くと調査団は今ちょうど洞窟に入っていると言われ、どうするかためらったが、父を驚かそうと一人洞窟に入って行った。
「なんだ、真っ暗な洞窟かと思ったけどちゃんと電球があるんだ」
実は洞窟に入るのが少し怖かった俺は拍子抜けしてしまった。
気を取り直して奥へと進む俺であった。
10分ほど歩いたのであろうか。
道はほとんど一本道だったので迷わず進むことができた。
奥で声が聞こえる。
父が奥にいるのだと思い、走って奥へと進んだ。
奥に進むと、10名程度の人がカメラを持って撮影した後だろうか。
帰り支度をしてこっちに向かって歩いてきた。
父を見つけると駆け寄っていった。
「おお!英じゃないか!なぜこんなところに?」
父の驚く顔に嬉しそうに顔をにやけさせる。
「ほら、お弁当。父さん朝お弁当持っていくの忘れてたよ」
父は自分のカバンを開け確かめた。
「ああ、本当だ!ありがとう!父さん調査の事で夢中で持っていくの忘れていたよ」
「もうしょうがないなー」
その後、お互い笑いながらたわいのない話をした。
「じゃあ英、父さんたちはここでの調査は終わったからもう行くよ!英はどうする?」
「俺はもう少しこの祠を見てから行く」
俺の予想外の言葉に父はなぜか感動していた。
「そうかそうか!英もついにファンタジーな世界に興味をもったか!」
父は感動しながら頷いていた。
「違うよ!せっかく来たからちょっと祠を見るだけだよ」
その言葉に父は「はいはい」とだけ言い残し出口に向かった。
父が去って行き、俺は洞窟の奥まで歩いていった。
すると大きな龍がかたどられた像が置かれていた。
「ここが祠か」
龍の像はまるで生きているみたいにその両目を赤く輝かせていた。
まるで龍が襲いかかってきそうな威圧感がそこにはあった。
ふとなぜかはわからないけど、龍の像に近づき龍の顔を触った。
すると、光が舞い降り、光に包まれた。
自分の体が大きくなったかのような違和感がしたので、ふと祠の鏡を見ると自分が獣のような姿に変わっていた。
目を閉じてもう一度鏡を見ると人間の元の姿に戻っていた。
疲れて幻覚でも見ていたのだろうか。
もう一度鏡を見て人間の姿の自分を見た。
「なんだ、幻覚か」
すると、頭の中に威厳のある声が鳴り響いた。
「幻覚ではない!お主には獣に変身する力を与えたのだ」
辺りは誰もいないはずなのに声がしたことに酷く驚いた。
鏡ではなく龍の像を見ると一瞬両目が赤く光ったように見えた。
「ゴオオオオオ」
急に地震が起き洞窟内が揺れる。
ヤバい。このままでは出られなくなるぞ。
しかし、体が金縛りにあい動くことができない。
必死にもがいていると、目の前の龍の銅像と目が合う。
何度見ても今にも動きそうな銅像だ!
だが、その予感は的中する。
龍が大きな口を開けて、こっちに向かってくる。
そして、パクっと食べられてしまった。
死んだかと思ったが龍の体の中は滑り台になっており、何百メートルも下っていく。
そして、出口が近づいてきたのか光が見えて来た。
出口に到着したが、まばゆい光に目が中々慣れない。
しばらくして、小鳥の鳴き声がしてきて目が慣れてきた。
辺りを見回すと、大きな木に見たこともないような実がなってきた。
空を見回すと、小鳥かと思っていたその鳴き声は強大な鳥であった。
普通は大きくても数メートルだが、その鳥は10メートル以上あった。
「はあー」
ため息を吐いて俺はこう思うしかなかった。
最近巷で有名な神隠しにあったのだと。
自分でも驚くぐらい今冷静であった。
だがこう叫ばずにはいられなかった!
「ここはマジで異世界かよ!」