第七話 気づいてみれば。
今回は計3145文字です。
昨日は『紅葉』で色々ありましたが、今日も今日とて学校に来て授業を受けて、今は昼休みです。もちろん、昨日の二の舞を避けるために朝食は新聞配達の後に僕が作りました。
今日はかぐやさんに会うことが出来なかったので体調を崩したのではないかと心配になってしまいます。
体調が悪いと言えば
「葉月君、葉月君。」
「ごぉーーー。ぐぉーーー。」
「起きてください。」
ごすっ。
「んぐぉっ!?」
「・・・・雛、金槌は流石にまずいと思うぞ?」
「大丈夫です。葉月君ですから。」
これぐらいで傷つく人ではないことは今までの付き合いで分かってます。
血が流れ出たりしてますが、葉月君はこれが普通です。
「そ、その根拠はどこから出てくる・・・・?」
「そんなことはどうでもいいんです。」
「・・・・何気に雛が一番俺の扱いがひでぇよな。俺のこと何だと思ってやがる。」
「ギャグ要員でしょう?」
「違うわ!!」
え?そうなんですか?・・・・・・まぁ、どうでもいいですけど。
「そんなことより、皐月さんの様子はどうなんですか?昨日は教室から出て行くときに何だか様子がおかしかったみたいですけど。」
「俺の存在についての話がそんなことかよ・・・・。あー、姉貴、な。いや、ありゃ相当参ってるな。なにせ、あの姉貴が今日は俺より遅く起きてきたんだぜ?」
「え?まだ寝ぼけてるんですか?」
「信じられないのは分かるが、自分で振っといてその反応はないだろ!?あと、俺はちゃんと起きてるからその振り上げてる金槌をしまえ!」
ぐーたらダメ人間の葉月君よりあの生真面目な皐月さんが起きるのが遅いなんてよほどのことがあったみたいです。
「剣道部の朝連も今日は休んだらしい。朝から部員がそのことで騒いでいたから間違いないだろう。」
「朝連もですか?何だか本当に心配になってきました。様子でも見に行ったほうがいいでしょうか?」
「いやいやいや、止めとけって。姉貴に止めを刺す気かよ。」
「確かに雛が行くと迂闊に止めを刺しかねないな。」
何だかひどい言われようです。
「ところで雛さんよ。」
葉月君がニヤニヤといやらしく醜悪で見るもおぞましい下卑た顔をして僕に気持ち悪くにじり寄ってきました。
「何で近づいただけでそこまで言われなきゃならないんだ?」
「あれ?口に出てました?」
「思いっきり出てやがったよ。」
「なら、よかったです。」
「よくねぇ!っつうか、わざと聞かせてたのか!?」
当たり前じゃないですか。
「ま、まぁいい。で、雛。今日も昨日言ってた人と一緒だったのか?」
「はい?そうですけど?」
母さんは離婚をしたせいでまだ慌しいので落ち着くまで仕事は休むそうです。と言っても、一週間もあれば落ち着きそうで、すでに来週からのスケジュールも決まっているらしいですけど。
でも、何でそんなことを気にするんでしょうか?
「一晩中?」
「もちろんそうですけど?」
それを聞くと葉月君はニヤニヤした顔を更にいやらしく変えました。
「っつうことは、もうヤることはヤったのか?」
「やること?」
何かあったでしょうか?昨日は家に帰ってから、僕が夕飯を作ってその後は母さんと大家さんが僕の取り合いをして、母さんと色々と他愛のないことを話したり、大家さんが持っていたアルバム(『雛ちゃんコレクションNO.001』と表紙に書かれていて、撮られた覚えのない写真が何枚もありました。)を母さんと見ながら思い出話をしたりしただけなのですが?
「とぼけんなよ。恋人と一晩中、一つ屋根の下にいるとなったらヤることは決まってんだろ?」
「恋人?」
誰のでしょうか?
「・・・・ちょっと待て。何かおかしいぞ。」
「・・・・だな。いくら雛が鈍感だからって言ってもこれはありえねぇよな。」
九陽君と葉月君の顔つきが変わりました。
「雛、昨日言っていた人物とは今日も一緒だったんだな?」
「さっきそう言ったじゃないですか。」
「その人と雛は相思相愛らしいな?」
「はい。そうですけど?」
「・・・・お前、今、恋人はいるか?」
「いるわけないじゃないですか。もてない僕に対する嫌味ですか?」
「「・・・・。」」
どうしたんでしょう?二人とも何故かフリーズしているのですが。
九陽君も何でそんなわけの分からない質問をしたのでしょうか?
「「・・・・はぁ。」」
二人揃って溜息をつかれました。何だかもの凄く馬鹿にされている気がします。
「雛、実はな。俺には相思相愛の相手がいるんだ。」
いきなり何でしょうか?
「その人と今日は一晩を同じ屋根の下で共にしたんだが・・・・、どう思う?」
「えっと・・・・、おめでとうございます?」
いきなり恋人がいて、それなりに進んだ仲と言われてもこんな気の利かない台詞しか出てきません。
「俺とその人との関係は?」
「恋人じゃないんですか?」
「「・・・・はぁ。」」
また溜息をつかれました。何だかイラっとします。
「雛、自分の発言を振り返ってみろ。」
えっと、相思相愛の人がいて、その人と同じ屋根の下で一夜を・・・・・、あれ?えっと、その、つまり・・・・
「へぁっ!?」
わ、わわわ!?えっと、つ、つまり、か、母さんとそ、そういうか、関係だとか、かか、勘違いされてますですかっ!?
「やっぱり気づいてなかったか。」
「雛らしいっつえば雛らしいけどよ・・・・。」
「じょ、じょうしちぇいっちゃくれりゃかったんへふかっ(どうして言ってくれなかったんですかっ)!?」
「何を言いたいのかは何となく分かるが、最早言葉になってないぞ?」
「つか、雛の赤面するところなんて初めて見たぜ。」
「俺もだ。」
た、確かに、母さんは美人さんですけど、そ、その、れれ、れ、恋愛対象とは、べ、別で・・・・っ!!も、もしかして、皐月さん達もお、同じ勘違いを!!
「ふわっ!ふぇっ!ふしゅ〜〜〜〜!!しゅ〜〜〜〜!!」
「お、おい、雛?大丈夫か!?」
「ふしゃぁ〜〜〜!!」
「いでぇぇぇ!!か、噛むなっ!!手を噛むんじゃねぇ!!」
「・・・・羞恥心が限界を突破して野生化したか。」
それから数分の間、落ち着くまで葉月君に野生化したまま襲い掛かってました。ううっ、まだ顔が火照ってます。
「で、今、一緒に住んでる人は誰なんだ?」
ど、どうしましょうか?このまま勘違いさせるのはまずいですし、ちゃんと言ったほうがいいのでしょうか?う〜〜〜ん、母さんが女優だと知られなければ大丈夫ですよね?
「えっと、その〜〜〜〜、・・・・母さん、です。」
「「・・・・あ〜、なるほど。」」
この二人は僕の母さんへの複雑な想いを知っているので割とすんなり納得してくれました。
「確かに雛が言っていた全部のことにあてはまっているな。」
「帰ってきたのか?」
「はい。・・・・あの、もし会うことがあったとしてもくれぐれもあの時のことは秘密で。いつか話す時がくれば自分で話したいので。」
僕の傲慢で情けなくて罪深いあの時期のことは・・・・。
「分かってるって。」
「雛がそう望むならそうするといい。」
あの時に得た無二の親友達はそう言って僕の意思を尊重してくれました。
「でも、雛の母ちゃんには興味があるな。」
「当然、会わせてくれるよな?」
・・・・・・・僕が女優、燈鏡 紅に関心を向けていたことは二人とも知ってるわけで、会わせたら気づかれますよね?・・・・・ピンチです。
というわけで、今回、男性陣は勘違いに気づきました。恥ずかしさのあまり雛が暴走しましたが、書いてて面白かったので野生化雛は時折出せたらいいなと思います。
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