第五話 母親
前半はシリアス?
今回は後書きにアンケートがあります。
今回も引き続き、僕視点です。
・・・って、あれ?僕、何を言ってるんでしょう?
「雛?」
「あ、いえ、何でもありません。」
突如、思い浮かんだ変な電波に首を傾げていると隣に座る母さんが不思議そうに話しかけてきました。
現在、右隣に母さん、左隣に大家さん、対面に秋穂さんと冬琉ちゃんが座っています。
「お仕事はいいんですか?」
「いいの、いいの。今は人が少ないしあの人に押し付けてきたから。」
頭に包帯を巻いた店長が右往左往して一生懸命仕事をこなしているのが見えました。あ、他のバイトの子にこき使われてる・・・。
「で、雛君、こちらの綺麗な人は?」
母さんのことをどう紹介すればいいでしょうか?下手に紹介して燈鏡 紅だと知られるとまずいですしその辺うまく誤魔化しながら説明しないと・・・
「初めまして、雛の母親の燈頼 琴音です。いつも家の息子がお世話になってます。」
「雛君のお母さんですか・・・?」
秋穂さんと冬琉ちゃんは僕が母さんと離れて暮らしていることを知っているので驚いているようでした。
「はい。・・・一時は雛を捨てたも同然の暮らしをしていたのですが、また雛と暮らすことになりました。」
あ、一人暮らしをしてる、って言ってただけでそれは言ってなかったのに・・・。
「捨てたも同然・・・?」
秋穂さんと冬琉ちゃんは更に驚いた表情で僕を見ましたが愛想笑いで誤魔化しておきました。
「今更よく堂々と母親だなんて名乗れるわね?」
「・・・。」
「大家さん、そんなひどいことを言わないでください。」
大家さんの言葉に母さんは傷ついたかのように唇をかみしめます。
「雛ちゃん、私はね、琴音を許せないのよ。今まで自分はぬくぬくと幸せな生活を送ってきたくせに何事もなかったかのように顔を出してきたこの子をね。」
「それは、母さんが知らなかったからじゃないですか。それに母さんは僕達といれなかったことを悔やんでます。それに僕は、」
「雛、いいの。」
「母さん・・・。」
「・・・確かに瓜の言うとおりなんだから。全部、自分のために周りを振り回して辛い思いをさせたのにあなたの母親を名乗るのはずうずうしかったわ。昨日、雛に許してもらって思いあがってたみたい・・・。」
「違います。母さんは誰が何と言おうと僕のたった一人の大好きな母さんです。誰が否定しても僕は、僕と父さんだけは絶対にそう思っています。なのに、そんなこと言わないでください。僕は誰でもない母さんに僕の母親であってほしいんです。」
落ち込む母さんに僕の真摯な気持ちをぶつけました。
「雛・・・。」
「・・・それとも、僕みたいな息子が、それも血の繋がらない息子がいたら、やっぱり迷惑ですか?」
女優、燈鏡 紅にとって僕という存在は足手まといにしかなりません。
そのことは昨日母さんが一緒に暮らすと言ってから気になっていてつい口に出してしまいました。
「そんなことないわ!!私も雛のことが大好きよ!」
僕が不安そうにしているのを見て母さんが力強く否定しました。
「・・・・・・大好きだから私みたいな女が雛の母親じゃ駄目だと思うの。」
「僕は、他の誰でもない、母さんがいいです。僕を拾って、育てて、愛してくれた母さんが、父さんと僕が愛した母さんじゃなきゃ、嫌です。」
僕は母さんに、母さんと死んだ父さんにかなり依存しています。
一時期は死んだ父さんの愛を忘れ、傍にいない母さんの愛を信じられなくなったときがありました。
そのときの僕は表面上は普通を繕ってその実、何も信じず、何もかも拒絶して、全てに憎悪して・・・、意味も無く、孤独が癒えるわけでもなく、負の感情が尽きることも無く・・・、ただただこの世の全てが理不尽に感じて、全ての人が嫉ましくて、全てのことが不条理に思えて・・・、壊して、砕いて、蹂躙して・・・、荒れ狂っていました。
その頃の自分のことを思い出すと恥ずかしい限りで、あのときに知り合った九陽君と葉月君、h他数名以外には大家さんも知らない秘密です。
ともかく、母さんに拒絶でもされたら僕は立ち直れなくなると思います。それくらい依存しているんです。
「大家さんもあまり母さんを苛めないで下さい。そんなことを言う大家さんは嫌いです。」
「・・・・・・・。」
・・・・?どうしたんでしょうか?何故か時が止まったかのように硬直しているのですが?
母さんのほうを見ても同じように硬直しています。
というか、何か店全体が水を打ったかのように静かなんですが・・・。
「う〜ん、この店は雛君のファンも多いからね。」
「店長、どういうことですか?」
唯一、平然としている店長が僕に話しかけてきました。というか、僕なんかにファンなんていたんですか?
「あれが天然だから恐ろしい・・・。君がそこにいる君のお母さんに弱弱しい声と様子でお願いしてるときの雰囲気が触れれば折れてしまいそうな今にも消え入りそうで尊さほど感じるほどあまりに儚げだったから、途中から修羅場の雰囲気を感じ取って聞き耳を立てていた皆が引き込まれて、なおかつ、近くにいたこの四人は魅了されたと言っても過言ではないだろうね。」
「はぁ・・・・大袈裟だと思いますが、じゃあ店長は何で大丈夫なんです?」
「私は秋穂一筋だからさ。あ、ときによっては冬琉も可だね。」
「雛!!」
いきなり母さんに抱きしめられました。
「本当に、本当に私なんかでいいの?」
「何度も言うようですが僕は母さんがいいんです。」
「っ!!」
「もぶっ。」
感極まった母さんに顔を思いっきりその豊かな胸に埋められました。
「頑張るから・・・。私、雛に相応しい母親になれるように頑張るわ・・・。」
「もふ、ふほ、ほぉふぁ。」
「でも、まだ私が自分を許せないから母親見習いってことでいい?」
「ぷはっ。・・・まぁ、母さんがそう言うなら。でも、僕は何時だって母さんのことは母さんだって思ってますからね。」
力が緩まったので顔を上げると母さんの提案を受け入れました。
「瓜・・・、私はあなたに認めてもらうまでは雛の母親見習いのまま頑張るわ。いつかあなたに私を雛の母親だって認めてもらうから。」
「・・・・・・・・・・・それなら、あなたは永遠に雛ちゃんの母親には慣れないわ。何故なら、」
無理矢理母さんの腕から放されて、今度は大家さんの胸に埋まりました。
「雛ちゃんは私の息子になるからよっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?
「前々からずっと可愛くて健気な子とは思ってたけどここまで健気ないい子だったなんてっ!ああもうっ!どうしてそんなに可愛いの!?ずっと我慢してたのにそんな姿見せられたら我慢できないじゃない!!保護欲をかきたてられて堪らないわ!!」
「もぶっ!ふがっ!ふ〜〜〜!!」
何かを言おうとしても胸に顔を押し付けられているせいで何も言えません。
「ちょ、ちょっと瓜!何言ってるの!?雛は私の子よ!」
「さっき自分で見習いって認めたじゃない!母親でもない人が口を挟まないで!」
「見習いでも母親なのには変わらないわ!第一どうやってあなたと無関係な雛を息子にするつもりよ!」
「それを言ったらあなただって雛ちゃんに母親って認められてるだけで戸籍上は関係ないじゃない!それにっ!!」
そう言って瓜さんがテーブルに何かを叩きつけました。
「これが何だか分かる・・・?」
「これは・・・、雛の戸籍の写し?」
何でそんなものを持ち歩いてるんですか?
「そう・・・。父親のところに宝良君の名前があるけれど、母親のところは空欄・・・。宝良君が亡くなった後は私が後見人になってるわ。・・・つまり、戸籍上は雛ちゃんは両親がいない孤児。今まではあなたと雛ちゃんに勝手に黙ってやるのは悪いと思ってたからやらなかったけど、雛ちゃんの母親の座は養子縁組をすれば手に入るのよっ!!」
「なっ!?ちょっとそんなこと許さないわよっ!!」
「あなたに許してもらわなくても勝手にやらせてもらうわっ!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。」
興奮する二人を秋穂さんが宥めているようです。
「ここは間をとって家で雛君を養子縁組するということで」
「「いいわけないでしょう(じゃない)!!」」
いや・・・、秋穂さんなら参加してきそうな気がしたんですけどね・・・。常日頃からそういうことを言ってましたから。
「それにしても、雛君、思った以上に複雑な事情を抱えてたのね。」
「まうっ、もうっ、う〜。」
未だに大家さんの胸の中なので話すことが出来ません。というか、い、息が・・・。
「う〜!む〜!」
「いい加減に雛を放して!」
「ぷはっ!!」
母さんに引っ張られてようやく息をすることが出来ましたが、まだ体の半分は大家さんに引っ張られたままです。そしてもう片方を母さんに引っ張られているため地味に痛かったりします。
「雛君、家に来る気はないの?」
「さっきも言いましたが、僕の母さんは母さんだけなんでお断りします。」
「そう・・・。気が向いたら何時でも家は歓迎するわよ。」
あれ?思ったよりあっさり引きました。
「・・・何を企んでるのかしら?あなたも雛ちゃんの母親の座を虎視眈々と狙ってたはず・・・。顔を合わせるたび誘いをしてあわよくばそのまま母親の座に着こうと、断られても毎回言うことで雛ちゃんに自分たちが受け入れてくれる存在であると刷り込んでたじゃない。」
あの誘いにそんな深い企みがあったんですか?
大家さんの一言で母さんまで秋穂さんのことを敵を見るような目で見ています。
「確かに雛君の母親の座は今も狙ってるし、さっきの雛君の姿を見てより一層家に迎え入れたくなったわ。・・・けど、私にはあってあなた達にはないものがあるのよ。・・・そう、私には冬琉ちゃんという娘がいる。」
秋穂さんが不敵に笑いました。
「まさかっ!」
「っ!そういうことなのね!」
どういうことでしょう?
「冬琉と雛君が結婚すれば、自動的に私は雛君のお義母さんという立場が手に入るのよ。あなた達のどちらかが雛君の戸籍上の母親になったとしてもまだ私の入る余地がある、ということ。」
「そんな卑怯な手を使うなんてっ・・・!」
「卑怯も何もこの勝負は雛君の『おかあさん』になれるかどうか。その間に嫁を挟む、挟まないの制限はないのよ。」
何故か悔しそうにしている大家さんに余裕をもった様子で言っていますが、何時からそんな勝負になったのでしょう?
「でも、それって冬琉ちゃんの意志を無視してないですか?」
「ふっ・・・。」
僕が最もな意見を言うと鼻で笑われました。
「冬琉ちゃんも黙ってないで何か・・・?」
冬琉ちゃんを見ると焦点のあっていない目で僕のほうをボーっと見ていました。
「冬琉ちゃん?」
「あらあら、冬琉ちゃん、帰ってきなさい。」
「はうっ。」
秋穂さんが鋭い手刀を首筋に叩き込むと冬琉ちゃんの目の焦点が合ってきました。・・・何か古いテレビの映りを直すときみたいだと思ったのは秘密です。
「一体、何が・・・?」
「ほら、冬琉ちゃん、雛君が聞きたいことがあるって。」
冬琉ちゃんが状況が掴めず困惑しているようなので簡単に聞くことにしました。
「何か?」
「冬琉ちゃん、僕のこと好きですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。もう一度、言ってもらえる?まだボーっとしてるみたい。」
「だから、僕のこと好きですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きかどうか?私が?あなたを?・・・それは、異性として?」
「はい。具体的に言えば、結婚するぐらいに。」
「・・・・・。」
いきなりこんなことを聞かれて混乱しているようです。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
「うわっ!」
どこからともなく灰皿を取り出すと僕の顔目がけて投げてきました。
母さんと大家さんに掴まれてうまく動かない体を首だけ動かして何とか回避しました。店長のようなゴキブリと同等の生命力を持たない僕があんなのを受けたら大怪我をしてしまいます。
しかし、冬琉ちゃんはそんな身動きの取れない僕に対して身を乗り出して鋭い右フックを繰り出して、見事に僕の顎を捕らえました。
脳を揺さぶられて意識が落ちていく中、最後に見た普段は感情を表さない冬琉ちゃんは顔を真っ赤にして怒って僕の胸倉を掴んでいました。
そんなに僕は嫌われてるんでしょうか・・・?
おまけ
「な、何を寝ぼけたことを言っている!?わ、私があなたのことがす、好きかどうかだと!?いきなりそんなことを聞くとは気でも狂ったか!?す、好きか嫌いかで言えばそ、その、まぁ、嫌いではないが・・・。そんなことをいきなり言われるとこ、心の準備が、そ、それに、いきなりけ、けけ、結婚など、そ、そういうのは、もっとお互いのことを知ってからだな、お互いの両親に了解をとって・・・、はっ!両方の両親がここにいる!?ま、まさか、いきなり母親と名乗る女性が現れたのはそういうことなのか!?い、いいい、いや、だが、しかし、」
「まぁ、雛だから予想はしてたけど見事に惚れてるわね、彼女。」
「雛ちゃんの勘違いさせるような言い方も悪いけど、あれは動転しすぎじゃないかしら?雛ちゃんが気絶していることにも気づいてないみたいだし。」
「私も冬琉ちゃんがここまで動転するのは始めて見るわ。狙い通り雛君が勘違いさせたのはいいけどここまでになるとは・・・。」
「・・・・そろそろ冬琉に事情を説明してやったほうがいいんじゃないか?そろそろ妄想が妊娠までいってるみたいだが?」
「面白そうだからこのまま見ていましょ。あなたも冬琉ちゃんのこんな姿をもっと見ていたいでしょ?」
「まぁ、確かに。ところで、話は変わるが『雛君の母の座は誰の手に!?』ということで賭けをやっていいか?」
「私は別にいいけど。」
「私も構わないわ。」
「私も。でも、『誰が雛君を射止めるか?』のほうはどうするの?」
「そっちも並行してやるさ。・・・冬琉がこんな感情豊かになったのには感謝しているが、彼にはもっと周りをかきまわしてもらわないとな。ま、頑張ってくれ。」
書き上げてあれ?冬琉と琴音&瓜絡んでなくね、と思いました。
とりあえず、恋愛とは別に雛を巡る争いを書いてみました。しかし、瓜はショタの傾向があるのでその方面でも狙っていたりします。
さて、アンケートのほうですがこの作品のキーワードを募集したいと思います。作者の貧困な脳に頼るよりもこの作品を呼んでる読者様に聞いたほうがよりこの作品に合うキーワードが出てくるのではないかと思ったのです。この作品に合うと思うキーワードを三つ書いて感想を送ってください。よろしくお願いします。
次の投稿までに多いもの上位五つを採用したいと思います。ついでにご意見・ご感想などを送ってくれると嬉しいです。